第10話
【応報】:特殊な光の壁で因果を返す
:オウホウってなに?
:因果応報のこと?
:説明がシンプルすぎてわけわけめ
:てか葬力の数値上がりすぎじゃね?
:意味不
:軽くカンストしちゃいそう
視聴者さんに新しいスキルと能力値の説明をしたら、コメントが読みにくい速度で通過していく。
色々わからないことが多すぎて混乱しているようにも見える。
「……ちょっと見過ごせないですね」
サツキちゃんも今回上昇したステータスの内訳とスキルの内容は聞いていた。
真剣な表情で俺を見つめていて、視聴者さんたちとのテンションの違いを物語っている。
「えっ?」
「このダンジョンもそうですけど、おじさんも完全に異常です」
Sランク探索者の言葉は重い。
「……そうね。いつ緊急の捕獲クエストが発令されてもおかしくないかもね」
自身の視聴者のコメントを受けて不吉な予言をするサツキちゃん。
ちょっとやめてくれよ。まだ探索者になったばかりなのに変人扱いするの。
確かに多々おかしな能力構成になってはいるけど、別に今のところ誰にも迷惑はかけてないはず。
クエストの標的にされてあらゆる探索者から狙われるのは勘弁してほしい。
:視聴者激増してるから全然あり得る話
:オマエら本部にタレこむんじゃねーぞ
:サツキチャンネルの同接は1万人だぞ
:だいぶ認知されちゃったね、おじさん
:SNSはもう盛り上がってるよー
:スレもいくつか立ってる
:切り抜き動画もすぐ出回りそう
:拡散不可避
同接はついに100を超えた。
そして視聴者さんの言う通り、今回のモンスターハウスで葬送しまくった俺の雄姿は、サツキチャンネルにバッチリ映り込んでいると思われる。
これはやっちまったかもしれない。
「……方針変更」
「えっ?」
「本当は急ぎたかったんだけど、予定変更します!」
……とても嫌な予感がする。
「この初心者用の初級ダンジョンは通常なら地下10階が最下層です。そこまで行けばワープポイントから地上に戻れます」
「うん」
「ですから、とりあえずそこまでご一緒しませんか?」
まぁ、そう言われるんじゃないかと思ってました。
「いやでも、俺初心者だし。足手まといになるよ、たぶん」
「ここまで派手にやっておいてそれはないですよ」
「これはたまたま……」
「偶然でモンスターハウスの魔物壊滅させちゃう初心者なんて普通いませんから」
なんか断れなさそうだな。すっごい笑顔だし。かわいいし。
おじさん困るわ。
「それに……少し不安なんです。こんな序盤でモンスターハウスとかゴブリンキングとか出ちゃって……。この先なにがあるかわからないじゃないですか?さすがにひとりじゃ……」
じゃあ引き返せばいいだろ。って思ったのは一瞬だけだった。
サツキちゃんは瞳を潤ませ、俺の手を握りながらそう言って来るもんだからすでに彼女の術中にハマっていた。
おそらく彼女はダンジョン調査のクエストもクリアしたいし、そしてあわよくば俺を捕獲する緊急クエストが発令されたら即捕まえてギルド本部に引き渡そうと画策しているんだと思う。
ある程度社会に揉まれて生きていれば、他人の考えていることもなんとなくわかるようになる。
元社畜の営業スキル【顧客ニーズ把握力】はおそらく正しく機能している。
ただ、理論的にはそうであっても感情というのは本当にややこしい。
特に、かわいい女子と素肌同士が触れ合った時点でおっさんが積み上げた推論など簡単に破壊されるのだ。
「わかった。頑張ってみるよ」
「わぁ!ありがとう、おじさん!」
握った手をブンブン上下に揺らし偽りの喜びを表現するサツキちゃん。
はじける笑顔に騙されてる自覚はあるが、悪い気分ではない。
「そういえば自己紹介、まだでしたね。私は……」
「天音サツキちゃん、でしょ?」
視聴者さんから教えてもらってます。
「もう!そこは知ってても言わないのが鉄則でしょ?そういうところが……」
「おじさんだって?まぁ実際おじさんなんだからしょうがないよね」
「その悟ったような話し方……別にかっこよくないですからね」
格好つけてるつもりはないんだけどなぁ。
でもそういう風に映っちゃうんだろうな。
老害の一歩目なのかもしれない。
「俺はダイシ。阿尻ダイシだ」
「ダイシさんって呼んでいいですか?」
「あ、ああ。サツキちゃん?でいいかな?」
「はいっ!それがいいです!」
そこはそれが正解なんだね。
最近の若い子の感性は本当にわからない。
「一応このダンジョンの1階は通常ならさっきの部屋といまの部屋の二つしかないはずですから、奥の通路を進めば下へ降りる階段があるはずです」
オークを倒した部屋とモンスターハウスだったこの部屋。
一応造りは同じみたいだったので、先へ進む通路がサツキちゃんの指差す方向にあるのだなと理解した。
ちなみに俺は、この西東京第4初級ダンジョンが超初心者用で地下10階まであるという情報以外はなにも知らない。
視聴者さんやサツキちゃんのおかげでなんとなくわかる部分も出てきたが、この先のことについてはそれこそ未知の領域だ。
何が待ち受けているのか見当もつかない。
「それじゃ、行きましょうか!」
正直不安しかないのだが、成り行きで先へ進むしかなくなった俺。
いつしか、同接数は202になっていた。
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