第7話
「ちょっと失礼するわね」
サツキちゃんは鑑定スキルを発動し俺のステータスを確認し始めた。
「職業は僧侶で……えっ?僧侶なの??レベルは5で……」
【霊視】と同じ要領でスキルを駆使して、解読できた俺のステータスを上から順に内容を読み上げる彼女。
途中で違和感に気付く。
「魔力は……ってアレ?魔力は??……葬力ってなに??」
葬力という能力値はやっぱりめずらしかったのだろう。
さっき視聴者さんもおかしいと言ってたような気がする。
:やっぱソコで引っかかるよなw
:なんやねんその能力値
:S級でも見たことないのか
:なんか語感も悪いし
:やっぱバグでしょ
「この【火葬】ってスキルでオークを倒したのかしら……」
オークの骨とステータスを見比べながら、状況の把握に努めている天音さん。
燃えカスになってるからそう判断するのが妥当だよな。
それにしても改めて思う。
俺の能力値の基準って一体どうなっているのだろう。
どうも普通の探索者とは勝手が違うのは間違いなさそうなんだけど。
視聴者さんがよく言ってるバグで片付けていいものなのかどうなのか……。
まぁ考えてても仕方ないんだけどね。
なるようにしかならないとは思っている。
「この【回帰】ってスキルはもしかして転移系なんじゃ……。っていうか、なんで回復系スキルがないのかしら……僧侶なのに……」
「……やっぱ、なんかおかしい?」
「おかしいですね」
直球で言われるとなんか俺自体がおかしいみたいに聞こえて嫌な感じだな。
別に普通のただのおっさんなんですけど。
「もしかしておじさん……いやでも、職業は確かに僧侶よね……。まさかの“固有職”なのかとも思ったけど……」
固有職?なにそれ?
:世界に5人しかいないって言われてる激レア職か
:それ実在すんの?見たことねーわ
:噂でしか聞いたことないな
:勇者と魔界騎士は知ってる
:その2人はSSS級だね
へぇ。そんな人たちがこの世界にはいるんだ。知らなかった。
でも俺はどうみても僧侶。
このダンジョン探索者の世界ではちょっと珍しいらしいけど、ごく普通のモブ職でしょ。
「だれか知ってる?葬力ってステータス」
カメラ目線で、おそらく大量にいるであろう視聴者に向けて俺の能力値についての疑問を投げかけるサツキちゃん。
すごい人数見てるだろうから、さすがに誰か知ってるんじゃないのかな。
「……やっぱりバグってるよね」
どうやら誰も見たことも聞いたこともなさそうだ。
「あ、そうだった!こんなところで油売ってる場合じゃなかったね!」
高速チャットの言葉に反応して我に返ったように焦りだすサツキちゃん。
そういえば彼女、なんか急いでたな。
「おじさん、その能力値なんかヘンだから一回ギルド本部で相談したほうがいいですよ!」
「えっ?そ、そうだね」
「じゃあね!ああ、早くしないと他の探索者が来ちゃう!」
俺の肩をポンっと叩き、彼女はすごい速さでオークが出現したこの部屋の出口まで一気に駆けていった。
:緊急クエストでも発生したのかな
:多分早い者勝ちの奴だね
:初級ダンジョンに出るのめずらしいな
:競争率激しそうだし急いで正解
:どんなクエストなんだろうね
:調査クエストだよ。このダンジョンは今ちょっと異常が発生してるらしい
:お、サツキのチャンネルから来たんか?
:おっさんのほうが気になってなw
:1階のオークもその異常のせいなのかな
:とりあえずおっさんは一回ダンジョン出たほうがいいな
なんか勝手に盛り上がってんな、視聴者さんたち。
いつしか同接は34まで増えている。
緊急クエストってそういうのもあるんだ。
いろいろなゲームのいいとこ取り感がすごいな、ダンジョン探索って。
あえてそういう仕様にしてるのかな。なじみやすいし。
とりあえず、予定通り一回このダンジョンを出ようかな。
いくらレベルが上がってHPも回復してもらったとは言え、俺は紛れもなく初心者。
さっきオークを倒せたのはまぐれもいいところだ。次に同じことをやれと言われてもできるかどうかもわからない。
正直サツキちゃんのことはものすごく気になっているが、俺がついて行っても足手まといになるだけだろう。
異常が発生しているダンジョンを無計画に進んで行くのは危険だ。
「せっかくだし、さっき覚えた【回帰】のスキル使ってみようかな」
説明を読んだ限りだと、脱出用のスキルっぽかった。
指定の場所に帰還できるってことらしいけど。
とりあえず、他のスキルを使う時みたいな感じで自宅をイメージしてみるか。
……飛べるか?
《指定ポイントの設定が完了していません。発動をキャンセルします》
警告音とともに空中に現れる文字列。
なんか設定がいるのか、このスキル。
マーキング的なヤツが必要なのかな?
ただイメージだけで瞬間移動できるってワケでもないみたいだ。
「そんな都合よくはいかないか。しょうがない。歩いて帰ろう……」
「きゃあああああああ!!!」
帰路に着こうと入口へ戻ろうとしたその時、ダンジョンの奥から聞こえてきた絶叫が俺の耳をつんざいた。
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