第6話

「ごめんなさい!まさかこんなところにおじさんが落ちてるなんて思いもしなくって……」



 別に落ちてたワケではないのだが、俺に突っ込んできたこの少女はそう認識したらしい。


 両手を軽く合わせ、ウィンクしながら謝ってきた。


 ギリギリでなんとか体をひねったからぶつからなかったものの、あのスピードで正面衝突してたら、間違いなく死んでたな。


 なんでそんな急いでたんだろう。



 :あれ?天音あまねサツキじゃね?

 :あ、ホントだ!サツキたんだ

 :なんで初級ダンジョンいんの?

 :めっちゃ急いでたね

 :RTAチャレンジでも配信してたのかな

 :まさかのS級探索者降臨

 :人気配信者に見つかっちゃったね



 視聴者さんたちはまだ見ててくれてたようだ。


 突進してきた女の子の素性がコメント欄から読み取れる。


 天音サツキっていうのか、この子。


 S級の探索者なんだ。


 すげーな。すごい若そうな感じなのに。


 やっぱダンジョン探索者って夢がある。



「あ、おじさん怪我してるじゃない!私のせい……じゃないよね?ちょっと見せて」



 少女は俺の左腕を掴み、熱傷のようになっていた傷口をマジマジと見つめてくる。


 そして



治癒ヒール



 俺が願って止まない回復スキルをいとも簡単に操り、彼女は左手と足の傷もついでに治してくれた。


 天音さんもヒーラー系の探索者なのかな?



 :そこかわれ、おっさん

 :うらやまけしからん

 :さすが上級職は違うな

 :サツキたんかわゆす



 なんか人気ありそうな雰囲気プンプン醸し出してるな、この子。


 まぁ確かに、顔はそこらのアイドルなんかよりよっぽどかわいい。


 童顔だが凛々しさも感じられる瞳の輝きがとても印象的だ。


 これでS級の実力者だって言うんだから、人気配信者ってのも納得できる。



「す、すまない。助かったよ」


「いえいえ。困ったときはお互い様です」


 

 ニッコリ微笑む彼女の笑顔がこれまた強烈だ。


 しかもなんか礼儀正しいし。


 この子は絶対におっさんキラーだ。


 嫌いなヤツなんていないと思う。



「……え?別にいいじゃない。これも何かの縁でしょ」



 当然彼女もライブ配信中だ。


 おそらく恐ろしく早く流れているコメントの苦言に対して返事をしたのだろう。



 :天音サツキの視聴者敵に回したな

 :嫉妬民大量発生中

 :サツキの推しは狂信的だぞ

 :彼女のフォロワー数は50万人超えてる



 50万人って天上人だな。


 俺みたいな初心者のおっさんには縁ないでしょ。


 出会えただけでラッキーだったよ。



 幸運ついでに。



 たぶんもう会うこともないだろうから、記念に【霊視】で彼女のステータスでも見てみようかな。


 S級の探索者ってどれほどのものか。


 この際とても興味がある。


 あ、盗撮とか言わないでくれよ。



―――――――――――

名前 天音 サツキ

職業 魔法剣士

レベル 52


HP 453/453

MP 349/351


腕力 388

体力 272

敏捷 304 

精神 321

魔力 356


スキル 

 【治癒 LV3】【火剣 LV4】【氷剣 LV3】【索敵 LV3】【鑑定 LV2】……


称号

 【S級探索者】【ジェネラリスト】……

―――――――――――



 お、【霊視】のレベルが上がったからなのか、割と確認できる内容が充実してる。


 スライムの時とは情報量が格段に違う。


 全部ではなさそうだけど、スキルや称号まで見ることができた。


 職業は魔法剣士かぁ。


 さっき視聴者さんが上級職って言ってたな。


 上級職ってどうやったらなれるのかな?


 レベルを20まで上げてどこかの神殿みたいなところで神父様にお願いして……ってそんなゲームみたいな感じではないだろうな。


 まぁ今の俺には関係ないか。当分先の話になるだろう。


 数値の程度はわからないけど、全体的にバラツキがないことからバランス型の職業なんだろうなってのは理解できる。


 スキルも多彩だし。


 正直、うらやましい。



「それじゃおじさん。私、急いでるからもう行くね」



 俺の治癒をするため屈んでいた彼女は立ち上がり、ダンジョンの奥へ歩みを進めようとしていたその時。


 彼女は目の前の異変に初めて気が付いた。



「……なにコレ?」



 オークの骨が無残に転がっている様が、ようやく視界に入ったようだ。



「骨?おじさん、これ……」


「あーそれ、俺が燃やしたオークの残骸」


「えっ?いやいやおじさん。オークこんなところに普通いないよ?」


「そうなの?でも視聴者さんが言ってた」


「そもそもおじさん、その装備からして絶対初心者だよね?仮にオークだとしても、1人で倒すとかありえないでしょ」



 ありえないとか言われても、事実だしなぁ。


 まぁどうしても信じてほしいと願ってるワケでもないからいいんだけどね。別に。



 :映像見せてあげたら?

 :カメラ本体の横に切替えスイッチあるよ

 :ライブ続けながら映せるから大丈夫

 :サツキにおっさんの活躍見せてやれ



 えっと。このスイッチかな。


 割とわかりやすい位置にあったので、言われた通りオーク撃破の映像を流してみる。


 へぇ。空中に表示されるんだ。


 最近の機械はすごいね。



「……意味、わかんない」



 俺の情けない活躍を映像で確認した天音さんは、驚きのあまり絶句していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る