第4話

 :お、レベル上がったか?

 :ステどうなった?

 :そんな大してあがってないでしょ



 ステータス画面は基本他人に見せることができないらしい。


 なのでちょっと説明してやる必要がある。



「レベルは1上がったよ。そんで魔力以外はステが少し上昇したんだけど……。なんか魔力値だけ10あったのが0になっちゃった」



 逆に視聴者さんに聞きたい。


 ステータスの仕様的に、能力値が無くなることってあるのだろうか?


 少なくとも俺がこれまで経験してきたゲームの類で、そうなった事例は過去一度もない。


 ダンジョンの環境ってのはやっぱ特殊なのか?



 :なんだそりゃ。聞いた事ねぇぞ

 :魔力なくなるとかワケわかんねー

 :ちゃんと見た?もっかい確認よろ



 どうやら俺の感覚と視聴者の感覚にズレはないようだ。


 やっぱり普通の状態ではないような物言いに聞こえる。



「あ、でも。代わりなのかわかんないけど、“葬力”って能力値が追加されてて、数値も44アップしたよ」



 :ソウリョクってなんやw

 :なんかバグってないか?そのステータス

 :1レべで44も上がるとかおかしいw



 うーん。


 でも何度見てもやっぱり葬力は葬力だ。


 魔力の文字は消滅してる。



「それとスキルなんだけど……」



 :スキルどうなった?

 :さすがに回復覚えたでしょ

 :いや、これはまたなんかおかしな事になってる予感がする



 ご名答。



「【火葬】ってスキル……誰か知ってる?」



 :カソウ?って火葬?

 :知らんw

 :説明してー



 えーと。説明画面は……これだったな。


 どれどれ……。



「【火葬】:対象を特殊な炎で焼き尽くして天に召す」



 なんか物騒なスキルだな。


 焼き尽くして天に召すってめっちゃ強そうだけど……。


 でも魔力0だしな。そもそも火力出るのかって話。


 いや、ここは葬力がおそらく関係してくるのだろうか。


 そうあってほしいものだけど……。


 ……。



 なんか、いる。



 :ああ!

 :おいおい。ヤベーの来ちゃったよ

 :ご愁傷様。ちーん。



 スライムとの戦闘で俺の立ち位置はほぼ変わっていない。


 今俺が視聴者とやりとりしているのは、初級ダンジョン地上1Fの最初の通路を奥へ進んだ先にあった、古い闘技場のような広い空間。その中央付近だ。


 そこからさらに10mほど先。


 おそらく洞窟の奥へ進む出口付近から、ソイツは現れた。



「グオォォォォォ!!」



 咆哮が轟き地面がわずかに振動している。


 身長は2mほどだろうか。


 体格は屈強な外国のプロレスラーと同等かそれ以上。


 隆々の筋骨がここから見ても凶悪さを醸し出している。


 アレが人間だとしても、今の俺では相手が悪すぎる。



 ……マジで、やばい。



 :おいおい。なんでこんなところにオークがいんだよ

 :フツー地下5階くらいからだよな?

 :運悪すぎだ、おっさん

 :とりあえず逃げろ

 :アイツは動き遅いから全速力で入口まで戻れ!

 


 ははは……。情けねぇ。


 足がすくんで動けない。


 HPは残り2だ。


 さっきは威勢でなんとかスライム倒せたけど、今回はさすがにどう足掻いても無理そうだ。



 多分、死ぬ。



 :なにやってんだよ!逃げろって!

 :ああ!マジで死ぬぞ!

 :さっきの【火葬】ってスキル使ってみろ!

 :落ち着いて。集中するんだ



 みんな優しいな。


 なんだかんだ言って、初心者がいきなりやられるところなんてホントは見たくないのかな。


 俺が勘違いしてただけか。


 コイツ等はいいヤツらだ。


 ……そうだな。諦めるのはまだ早い。



「みんなありがとう。俺、やってみるよ」



「グオォォォ!!」



 ドスドスと一歩一歩を固い地面にめり込ませながら、でかい棍棒を振りかざしオークが迫ってくる。


 視聴者さんが言うように動きは遅い。


 吊り上がった眼と口から飛び出すほどのでかい牙にビビってる場合じゃない。


 集中しろ!


 火葬。おそらく火属性攻撃スキルの類だろう。


 火のイメージだ。2000度を超える超火力。


 脳内であの魔物が灼けるシミュレーションをするんだ。


 おそらく現実はその通りにはならないだろう。でも今はそれにかけるしかない!


 スキルの使用法としては正しいはずだ!


 頑張れ、元社畜の俺!


 せっかく探索者になったんだ!


 こんなところで死んでたまるか!!



「はあぁぁぁぁ!」



 すでにオークは間合いに入っている!


 棍棒を振り上げ、俺の頭蓋を粉砕する態勢だ!



 ただ



 一瞬俺のほうが早い!


 俺は杖をかざし、全力で脳内イメージをオークへぶちまけると同時に大きな声でスキル名を叫んだ!



「火葬!」


「グオォ…………ジュッ」


「…………へっ?」



 火炎が渦巻き、オークが燃えるイメージを放ったつもりだった。


 思い通りにいかないまでも、少しでも火で脅して、その隙にうまく逃げられればくらいに考えていた。



 だが、結果は俺や視聴者さんが思い描いたイメージとは大きくかけ離れていた。



 :え?

 :えええええ!!

 :ねえ今燃えた?燃えたの?

 :溶けた?肉も内臓もないぞう

 :炎まったく見えなかったけど

 :オークが骨だけになっちゃったw



 視聴者さんの言ったとおりだった。


 

 俺に襲い掛かった凶悪で巨大なオークは、自身の骨だけを置き去りに、一瞬でこの世からの退場を余儀なくされた。

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