第2話

 とりあえず、回復スキルくらい使えるようにならなきゃ話にならないと思った俺は、習得するまでは自力でなんとかしようと思い、1人とあるダンジョンの入り口までやってきていた。



「このダンジョン、昔酔っぱらって入りそうになっちゃったんだよなぁ」



 ダンジョンの入口手前でそうしみじみと独り言をつぶやく俺。


 少し昔の記憶を思い出していた。


 ここは、西東京第4初級ダンジョンだ。


 実は社畜時代に飲みすぎて記憶を無くし、気が付いたらこのダンジョンの前で寝てたことがある。


 今考えるとあり得ない話だが、その事があったおかげでダンジョンの存在を身近に感じるようになり、探索者への興味を持ち始めたのだ。


 あれから5年か……。


 長かったような、短かったような……。


 正直1人で不安しかないが、ここまで来たら行くしかない。



「すげー……」



 息を飲み、恐る恐る中に入ると、外の空気感とは明らかに雰囲気が変わった。


 ジメっと肌にまとわりつく湿気。


 石造りの壁面に等間隔で並ぶ松明が“らしさ”を演出している。


 なんかダンジョンに来たって感じで少しテンションが上がる。



 俺はゆっくりと警戒した足取りで、通路の奥へと歩みを進めていた。



「初心者用の初級ダンジョン。ここならさすがに」



 あれからもう少し粘ったが、結局仲間に入れてくれるパーティはなかった。


 どうしても早くダンジョンを体験してみたかった俺は、昔の記憶を辿って思い出したこの初心者用ダンジョンへと足を運んでいた。



 ちなみに探索者用の初期装備はギルドが支給してくれた。



 僧侶だったので、木の杖と黒いローブ。



 あとこれは任意だったのだが、配信するかどうかを聞かれたので、イエスと答えたら自動追尾型の配信用カメラを貸してくれた。


 ダンジョン探索の配信は人気があるので、ギルドが推奨しているらしい。


 ちゃんとやれば割とまとまった収益源になるとのことで、社畜時代の貯金が少なかった俺にとってやらない選択肢はなかった。


 少しでもお金になる可能性があるならやらない手はない。



「あ、これもう始まってんのか」



 ついてくるカメラの画面を確認すると、すでにRECの文字が右上に表示されている。


 もう撮ってるらしい。



 :はじまってるぞ~新人

 :なんかヒーラーっぽいのにソロ?

 :これは期待



 カメラが空中に映し出した小型のスクリーン映像。


 そこにはすでにコメントがいくつか流れていた。


 その右上の端っこ。同接3の表示がある。


 いきなりのライブ配信で3人も見に来てくれたのか。

 

 俺、もしかして才能ある?



 :事故らねぇかなw

 :それな

 :派手に逝ってほしい



 ……いや、多分こいつら新人のハプニングを見るのが好きな連中だ。


 言ってみれば冷やかしみたいなもんだろ。


 まぁそれでも見ず知らずの探索ライブを最初から見にくれただけでも正直ありがたい。


 要は楽しませれば問題ないワケで。


 もしかしたら、チャンネル登録とかしてくれるかも。


 と、淡い期待が沸く。



 :ほら来たぞ、新人

 :スライム

 :これに負けたら伝説確定



 コメントに気を取られすぎてあまり前に集中していなかった。


 気が付くと、そこはすでに通路を抜け、ホール状に開けた空間の真ん中付近まで歩いて到達していた。


 その前方およそ5m。


 確かにいる。


 実物を見たのは初めてだ。


 ぷよぷよドロドロのスライム。


 低ランクダンジョンの定番モンスター。


 とあるゲームのイメージでかわいいのかと思っていたが、実物は気持ち悪かった。



「これが魔物か……さて、どう戦うべきか」



 この系統のRPGは人並みにやったことはある。


 リアルと言えど、感覚的にはその手のゲームと変わらないだろう。



 とりあえず、せっかくだ。



 スキル【霊視】でまずはスライムのステータスを確認しよう。


 敵を知らずんばなんとやらってやつだ。


 確か使い方は目に力を込めて……。



 お、視えた。



―――――――――――

種族:スライム

HP:5/5

MP:1/1 

―――――――――――



 案外シンプルだな。


 弱点とか視えてくれるとありがたかったんだけど。


 まぁHPだけでも攻撃の目安にはなる。



 :なんか今おっさんの目ビカァってなってなかった?

 :なにしたの?今



「いやなんか、最初からスキルで【霊視】ってのがあったから使ってみた」



 :レイシ?なんだそりゃ

 :そんなスキル聞いたことないけど

 :それ使うと何が起こるの?



「魔物とかのステータスがわかるらしい。スライムのHPは5なんだね」



 :いやいや、それ鑑定スキルじゃん

 :レイシって霊視?

 :んなワケない

 :先に調べて知ってただけでしょ

 :鑑定スキルなんて上級職しか使えねぇし、嘘はアカン



 いやそんなこと言われましても……。


 視えたもんは視えたんで。



「キシャアアアア」



 ひえっ。


 スライムってそんな声で鳴くんだ。


 てか鳴くんだ。知らなかった。



「キシャアア!」



 うわっ!飛びかかってきた!どうしよう!


 ええい!とりあえず攻撃用のスキルとかなにもないんだ!


 物理でやるしかない!



「セエエエエイ!!」



 気合一閃!


 俺は全力で杖をバットみたいに振り回し、迫りくるスライムのど真ん中に力のこもった殴打をクリーンヒットさせた!




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