脱サラ僧侶がダンジョンで葬送しまくって世界で初めて冥葬級を制圧する話
十森メメ
第一章
第1話
『
『回復スキル覚えてから出直してください』
『レベル1?ウチ介護はやってないんで』
『おっさんは無理』
社畜を卒業し、晴れてダンジョン探索者になった俺、阿尻ダイシ(37)はいきなり苦境に立たされていた。
「なんで誰もパーティに入れてくれないんだよ……」
思わずそうぼやかずにはいられなかった。
会社を辞めた翌日に訪れたここ、探索者ギルド東京第二支部で、俺は探索者になるための適性検査をすべてクリアし、初期登録をすでに済ませていた。
探索者適正有との結果を受け、事務手続きもサッサと終わらせた。
ただ……ひとつ、問題があった。
初期判定で俺に与えられた探索者としての職業は『僧侶』。
つまり、ヒーラーだ。
一般社会における[職業]と違い、ダンジョン探索者としての[職業]には選択の自由がない。
ギルドで初期登録をする際、特殊な判定装置でその人が元々持っている資質に合わせたステータスと適正職、スキルなどが自動で割り振られる。
ちなみに回復職は適正者が少なく割とレアな職業らしいのだが、ソロ探索には圧倒的に向いていない。
基本的には仲間と一緒に行動しないと駄目なタイプだ。
「死にたくなかったら、パーティを組むことね」
ギルドマスターのお姉さんからの警告は適切だった思う。
まぁ、当然だよね。
ヒーラー以外ならまずは一人でダンジョン体験をしてみようと思っていたけど、いきなり死ぬのは勘弁なので、お姉さんの提案通りギルドの端末で仲間を募集しているパーティに手当たり次第フレンド申請を出していたのだが……。
「なんかへこむなぁ」
再び大きなため息をついてうつむく俺。
別にいきなりSランクのパーティに入れてくれって頼んでるワケじゃない。
同じ初心者に近い者同士。
Fランクの募集掲示板で仲間に入れてくれってお願いしてるだけなのに、10件申請してすでに9件断られていた。
残り1件は返答待ちなのだが、この調子だとどうも期待できそうにない。
「どうすりゃいいんだよ……」
改めて、空中で指を動かし自身に与えられた初期ステータスを確認してみる。
一応この動作で自身の能力値やスキルを見ることができる、ということはさっきギルドのお姉さんからレクチャーを受けていた。
―――――――――――
名前 阿尻 ダイシ
職業
レベル 1
HP 10/10
MP 15/15
腕力 2
体力 2
敏捷 1
精神 5
魔力 10
スキル
【霊視 Lv1】
―――――――――――
ちなみにこのステータス。ダンジョンが現代に出現してから過去数十年のデータを蓄積し、AIで解析して導き出した概算値なんだそうだ。
100%正確な数値なワケではないが、HPが0になると死ぬらしいのでほぼあってると思って差し支えない。
スキルもなんか似たような仕組みで名前や効果も決まるらしいが、詳しいことはよくわからない。
とりあえず、これが今俺に与えられているダンジョン探索者としての初期能力だ。
「ステータス的にはこんなもんなんだよな。でもスキルが……」
ヒーラー系の職業はいくつかあるらしいが、通常は最初から【治癒(ヒール)】のスキルを持っているはずだってギルドマスターのお姉さんが言っていた。
何故か俺には備わってなかったけど。
代わりに【霊視】なるものを最初から覚えていた。
「これはこれで便利なスキルではあるんだけど……」
おぼつかない手つきで空中に表示されたステータス画面を触り、【霊視】の説明を表示してみる。
【霊視】:対象のステータスなどを視ることができる
ちなみにスキルレベルは上がると対象範囲が広がったり、できることが増えたりするそうだ。
魔法系のスキルなんかだと能力値、例えば魔力と紐ついて火力が上がったりする。
覚えるスキルはほとんどが体系化されているからネットで調べれば大体の情報は得ることができる。
ただ、俺が初期で持ってるこの【霊視】はフレンド募集をしている間中ネットで調べたがまったく同じスキルの解説は探し当てることができなかった。
まぁ、俗に言う鑑定スキルと同じだとは思うのだが。
ギルドマスターのお姉さんも初めて見たと言っていた。
初期でこのスキルが使えるのは貴重な気もするけど、ただ視えるだけでは戦えない。
なんせ回復職だから戦闘用の基礎能力がめっちゃ低いので、実際の戦闘でダメージを与えられるかどうかすらわからない。
このスキルにしても、今の俺には無用の長物。
やはりパーティを組めなきゃ意味がない。
「お、最後の1件返信きたな」
別にこのギルドの端末じゃなくても申請やメッセージの受取はできるのだが、初期登録ついでにそのままダンジョンへ行こうと思っていたので、あえてここでやり取りをしていた。
さて。返信結果は……。
『■ね』
……まったく。救いのない世の中だ。
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