ズボラで死にたがりな探偵もどきの天知雪が、事件に巻き込まれたり、川に流されたり、お酒に溺れたりしながら、独特のテンポで物語が展開します。探偵といえば鋭い洞察力や緻密な推理が求められるものですが、雪のそれはどこか気怠く、ゆるく、それでいて核心をつくもの。まるで探偵というよりも自由気ままな猫のように、彼女は日常と事件の間をふらふらと渡っていきます。
周囲の登場人物もまた個性豊かで、雪を取り巻く人間関係が物語を軽妙に彩ります。彼女を放っておけない先輩、秘書のように世話を焼く友人、そしてちょっと過保護な"兄貴分"。それぞれの関係性が雪のズボラな生活に温かみと緊張感を与え、ゆるい雰囲気の中にもどこか芯の通ったやり取りが光ります。
物語が進むにつれて、探偵もどきが直面する事件もただの気まぐれでは済まされない展開を迎えます。それでも雪は相変わらず気怠げに、しかし確かに真実へと歩みを進めていくのです。事件の捜査よりも、彼女の在り方や周囲との掛け合いが魅力を放つ物語。探偵小説のような緊迫感を期待すると肩透かしを食らいますが、肩の力を抜いたスタイルこそがこの作品の魅力です。