第四話


 数日後。



 プディング伯爵のお屋敷はとても賑やかでした。

 それもそのはず。


 伯爵家に『こども食堂』が出来たのです。

 これは勇者が伯爵に提案しました。


 プディング伯爵は始め、奴隷の子供たちに何故そんな無駄な事をしなければならないのだ!? とご立腹りっぷくでしたが、王様の娘、そうお姫様が『慈善活動』をする殿方が好きだと情報を伝えれば、独身48歳のプディング伯爵は話に乗ってきました。


 伯爵は自分の善行を王様やお姫様に見て貰いたくて『こども食堂』に招く事にしました。


 プディング伯爵のお屋敷の美しい中庭にテントが無数に張られて、たくさんの子供が招待されました。もちろん、ツユとタロもです。


 純白のテーブルクロスの掛かった長テーブルに座った子供たち。その上座に優しそうな王様と美しいお姫様、そしてプディング伯爵がいます。


 伯爵は立ち上がり「給仕! 食事を!」と偉そうに手を叩きました。


 するとテントの奥から、食缶とおたまを持った三角巾・割烹着かっぽうぎ姿の魔王様と勇者が現れました。


「さあ、子どもたちに食事を振るまえ!」


「その前に!」「むぎゅ」


 勇者がプディング伯爵の口に堅く大きなパンを詰め込み、テントの奥へ放り投げました。

 それから、王様の前にひざまづきました。


 王様はすぐにこの青年が勇者だと気が付きました。


「王様、今回の食事会はどのようなものだと伯爵からお聞きでしょうか?」

「子どもたちへの食事会だと聞いておるが……」


「お姫様、この子どもたち、どの様な境遇きょうぐうだとお聞きでしょうか?」

「え……魔王によって親を亡くした孤児だと……」


「確かにその通りで間違いありません。ただ、この子達は孤児になった事で貴族に酷使こくしされている子供たちなのです」


「えっ……?!」


 王様とお姫様は初耳だとばかりに、お互いの顔を見合わせました。


 その顔を見て、魔王様はこの者たちは『知らない』だけで善悪の判別は出来ると判断しました。


 だから魔王様はカレーライスを盛りました。

 そして、国王様とお姫様に差し出しました。


「余が心を込めて作ったカレイライスだ。食するが良い」

「あ?……ああ」


 脈絡なくカレーを渡す魔王様。

 素直に受け取る育ちの良い王様たち。


 二人はそのカレーを食べて「うむ、旨い!」「美味しいわ!」と声を上げました。


 すると、どこからともなくシル婆さんも現れて、子どもたちにも配膳しました。

 子どもたちも嬉しそうにカレーを食べ始めました。


 その中でツユだけが、この状況は一体どういう事なのか? と魔王様の様子を伺っていました。










 王様とお姫様はあっという間に平らげました。

 その食いっぷりに満足した魔王様は言いました。


「これは子ども食堂のカレーだ。故に子どもには無料だが、大人には高いお代を頂いている」


「ほう、いくら払えばいいのかな?」



 魔王様は言いました。



「この国一番の『たらかもの』を貰いたい」



「たらかもの?」とお姫様が尋ねました。

「宝物の事です」と勇者が答えました。



「一番の宝とは何だ?」と王様は魔王様に尋ねました。



 魔王様は両手を広げて言いました。




「ここに居る『子どもたち』が欲しい」


「?!」



 魔王様は三角巾を脱ぎました。

 頭から角が現れ、そこで王様は魔王様が魔族だと気が付きました。


「国一番の宝である子どもたちを、余の城に迎えたい。余は広い城で一人で暮らしている。親と家を無くした子どもたちを受け入れる場所がある」


「王様! ここに居る子どもたちに安住の地をお与えください! この者の安全は、勇者の私が保証致します!!」


「なんと……!」


 王様は初めて自分の知らない所で貴族たちが国民に酷い事をしていた事を知ったのです。



 すべてを知った王様は驚愕きょうがくし黙り込みました。













 しばらく経って、王様は顔を上げ「一つ、条件がある」と言いました。



 魔王様と勇者は、ごくりと息を飲みました。



「私にも、こども食堂の手伝いをさせてくれないか?」


「……え?」


「君のカレーライスは、今まで食べたカレーの中で一番旨かった!」

 

 王様は立ち上がり、魔王様の水仕事で荒れた手をグッと握りしめました。



「ありがとう。危うく私は多くの宝を失う所だった。勇者たちよ、国の宝を守ってくれて、ありがとう……!」



 その粋な答えに勇者はガッツポーズをし、シル婆さんも大きく頷きました。



 子どもたちも大喜びでしたが、小さなタロはよく分かっていません。


 タロは姉のツユに抱きしめられながら、無邪気に魔王様に尋ねました。


「おにいちゃん、なんでお姉ちゃん達は喜んでいるの?」


「お前は、これから毎日カレイライスが食べられるってことだ」


 するとタロは目を輝かせて言いました。


「えーっ! 毎日がカレーライス!? 僕、毎日食べていいの?」


 だから魔王様は人生で一番優しい声色で答えました。



「ああ、ずっと、ずーっと作ってやる。お前が食べ飽きる、その日までな……」


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魔王様のこども食堂 さくらみお @Yukimidaihuku

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