エピローグ
目醒
「……お父……さん?」
知らない部屋で目を覚ました俺のすぐ傍らには、地球の裏で仕事に励んでいるはずの父の姿があった。
「万里っ! ああっ! 神さま! 神さま! ありがとうございます!」
目元を真っ赤に腫らした父がよくわからないことを言いながら俺に抱きついてくる。
「……ここは?」
「病院だよ。お前、家のリビングで倒れてたんだよ。それを理亜ちゃんが見つけてくれてな。でも……本当によかった……」
「え?」
「先生にも覚悟しておけって言われて父さんは……って、そうだ! とにかく先生を!」
父がナースコールを押すとすぐに医師と看護師が飛んでやってきた。
「曳馬さん、自分の名前は言えますか?」
「……万里。曳馬万里です」
「それでは万里さん、お父さん。ちょっと検査をさせて下さい」
「あ……はい」
自力でベッドから立ち上がることが出来なかった俺は数人の看護師により車椅子に移し替えてもらうと、幾つかの部屋をたらい回しにされた。
そこで色々な検査を受けたあと再び病室へと戻ってくる。
「もう大丈夫でしょう。よかったですね」
「――はあ」
……はあ?
父の話によれば、俺は夏休みが始まってすぐに急性の心疾患で倒れたのだそうだ。
すぐにでも手術をしなければ助からないような重篤な状態だったのだが、そこに運良く理亜がやってきて救急車を呼んでくれたらしい。
緊急手術が行われたあと俺は、ニ週間もの間目を覚まさなかったそうだ。
父が帰国して病院に駆けつけてくれたのが十日程前で、医者が
そして今日の朝、俺は何事もなかったかのように目を覚ました。
と、いうこと……だそうだ。
「お父さん俺、千尋ちゃんと……」
「ああ、千尋ちゃんにはさっき――」
その時だった。
廊下の向こうからパタパタと足音が聞こえ始め、それは次第大きくなると俺の入院する病室へと飛び込んでくる。
「――あ! ああっ!」
夏服のセーラー服を身にまとった少女は俺の顔を見るや否や、その大きな瞳いっぱいに溜め込んだ涙をポタポタと床に落とす。
「千尋……ちゃん」
「……ばん……ばんりく……ん」
彼女にやや遅れて病室にやってきた叔父と叔母が、今まさに俺に飛びかからんとしていた彼女を後ろから羽交い締めにした。
「こら千尋! 万里はまだ目が覚めたばかりなんだからな!」
「……うっ……あっ……」
叔父の言葉を彼女が理解したのかどうかはわからなかったが、叔母にガッシリと肩を抱かれ病室から強制退場させられていった。
「万里……本当によかった!」
「……おじさん。俺、千尋ちゃ――」
「また明日にでも母さんも連れて出直すから。とにかく……とにかくよかった!」
叔父の家族が去っていった病室で、俺は父に更に詳しい事情を聞こうとした。
「お父さん、あのさ」
「あっ! 会社に連絡を入れないと! 万里すまんが、俺も今日は一旦家に帰るから。ほらこれ、お前の携帯電話」
父はベッドサイドに置かれたキャビネットからスマホと充電ケーブルを取り出し、天板の上に置くと病室を出ていってしまった。
(何が一体……どういうことなんだ?)
スマホは電源が切られていたが充電は十分にされていたようだった。
電源ボタンを長押しして起動させるとすぐに、見たこともないような大量のメッセージが画面を埋め尽くした。
その半分はクラスの友達からで、残りの半分は理亜からのものだった。
「まさか……夢オチだったってこと、なのか?」
狐に包まれた――いや、摘まれた気分だった。
その言葉があまりに適当なこの状況を、俺は自分の中でどう処理していいのかわからなかった。
そうだ、理亜に詳しい話を聞いてみよう。
そう思って触ったスマホだったが、どうやら入院生活でとんでもなく筋力が落ちていた俺の指はメッセージアプリのアイコンを押すことすらままならないようで、うっかりとその横にあったブラウザアプリを起動してしまった。
そこに表示されたトップ画面の下には、あまり多くないブックマークがアイコンの形で並んでいる。
それは天気予報サイトであったり去年からプレイしているソーシャルゲームの公式サイトであったりと見慣れたものだったが、その一番下に見慣れないアイコンが一つあった。
「あ」
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