それぞれのスタート

平 遊

どうなることやら

「『スタートがあれば、必ずエンドがあるだろ?だから俺はスタートが嫌いなんだ。キミを失いたくないからさ』なんて言って、彼、のらりくらりと付き合ってくれないのよね」


 目の前の美樹が、サングラスをして目深に帽子を被り、いかにも怪しそうな出で立ちでアイスコーヒーを飲んでいる。

 突然友人の美樹に呼び出された麻耶は、その美樹の格好に驚きつつも、美樹の話に耳を傾けた。


「でも、この間会わせた後輩にはなんて言ったと思う?」


 美樹は麻耶の答えを待たずして、再び話し出す。


「『いつだって、今がスタートのチャンスなんだよ。ね?だから俺達今から二人の関係をスタートしてみない?』だって」


 憤懣やる方ない美樹の視線の先に居るのは、件の彼。サングラスの奥の美樹の目は、キリリと釣り上がって彼の姿をロックオンしている。


「だからあたしね、今日からあいつの尾行をスタートして、ぎゃふんと言わせてやるんだ……あっ!動いた!あたし行くねっ!」


 そう言って、美樹は慌ただしく席を立ち、彼の後を追っていく。


「まぁ……上手く行けばいいけど」


 残された麻耶は、冷めたコーヒーを口に流し込むと、店員にお代わりを頼み、スマホアプリを開く。


「でも、ネタの提供ありがとね、美樹。わたしもひとつ、スタートできそうだわ」


 美樹は麻耶が趣味でネット小説を書いていることを知らない。

 唇で微笑みの形を象ると、麻耶は早速先程の美樹の話を元にした小説のプロットを練り始めたのだった。


【終】

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それぞれのスタート 平 遊 @taira_yuu

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