官能布団

杜侍音

官能布団


「んっ……んっ! んにゅ、ん〜……」


 一年の計は元旦にあり。朝の行動でその日一日が決まる、夏休みの宿題は早めに終わらせなさいだとか、最初が肝心であるようなことを説き伏せようとする情報はいくらでも流れているが、これら全ては虚構に過ぎない。


「ん……きもちぃ……──んーんっ、ぁ、ゃ……」


 未来など考える必要はない。

 今この瞬間の、快楽に溺れるのだ私は。


 ──時は、まだ冷え込む朝を迎える春。

 でもこの快感は年中舞い降りる。

 あなたは、毎晩誘っては私を抱いて離さない。

 本当は今すぐにでも立ち去るべきなのに、あなたといる心地よさに体が逆らえない。

 それに、あなたといてはダメになる。でも、あなたを求めては疼いてしまう体に私はもうなってしまったの……。


 春はあけぼの。

 白いあなたの暖かさに包まれて、窓から差し込む朝の陽光を朧げながら見るのが好き。少しなだらかな胸に這わせるあなたを私からもギュッと抱きしめる。

 夏は夜。

 薄くなったあなたはずっとベッドで私を待ち構えているの。シャワーで火照った私の体を冷たい態度で抱きついてくる。荒々しい動きに毎朝ぐちゃぐちゃになって、何度風邪を引いたことか……それでも好き。

 秋は夕暮れ。

 少し休憩するつもりだったのに、ずっと子犬のように待っているあなたを見ては私も何かしら、母性というのが目覚めちゃって。それから何時間も続けてしまい気付けば夜。ほんと好き。

 冬はつとめて。

 初めは冷たいあなたもだんだんと体温が交わり、朝は子供のようにギューッとして逃してくれない……もう最っ高。


「んーっ……! んん……スヤァ」


 そう、あなたは布団。

 私をこんな快感に導くなんて、なんと官能的なんだろう。官能布団。そう、官能布団なの。

 睡眠こそが……二度寝こそが……! 惰眠を貪ることこそ! 人類を幸せにする‼︎

 だから私は再び眠りにつく。


「へへっ……しあわせぇ〜」


「──ちょっと、おねえちゃん‼︎ まだ寝てるの⁉︎」


 ……ちっ、妹が私たちの仲を邪魔しにきた。

 あなたを私から引き剥がそうとしてくる。浮気は絶対許さない。ちょ、まっ、妹のところに行かないで、私から離れないでぇ!


「おらぁ‼︎」

「あぁっ‼︎ 酷いっ‼︎ 私の恋人を返してぇ‼︎」

「何寝ぼけたこと言ってんの? 今日から学校でしょ! いつまでも寝てないで、さっさと着替えて行くよ!」

「えー、ツバキちゃんだけ先に行ったらいいじゃーん」

「何バカなこと言ってんの? おねえちゃんはもう学生じゃなくてでしょ! しかもうちの高校の国語教諭! 初日から遅刻する先生なんていてたまるか‼︎」

「べ、別に今日は授業4限からだし……?」

「朝礼で挨拶あるでしょ! 私のおねえちゃんが来るってもう友達みんなにバレてるんだから恥ずかしいことやめてよ! あと、この布団臭い! いつから洗ってないの、洗濯出しとくから。あと窓も開ける! 部屋もなんか臭い‼︎」

「うびゃー! 寒いぃ⁉︎ ツバキちゃん酷いよぉぉぉ。いぐ、いぐがらぁぁぁぁぁ‼︎」


 妹によって無理やりいかされてしまった私。

 はぁ、今日中に乾いてくれるよね……おふとん……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

官能布団 杜侍音 @nekousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ