episode 3
新学期が始まって約1ヶ月が過ぎた。
新クラスにも慣れてきてようやく緊張感なく、今までのような特に何も考えずにぼーっと時間を浪費するような、そんな平穏な生活が戻って気がする。
そして変わらず私は美術室に顔を出している。
元々ほぼ空き部屋と化している美術室は人がまず来ないため、先輩がほとんど占有してしまっている。
私は時々顔を出して、先輩に特になんの変哲もない疑問を投げかけては、また先輩がそれになんの変哲もない返答をする。
傍から見たらこの2人はなんの話をしているのだろう。そう思うかもしれない。
それでも私は、先輩との関係をただの後輩でもなんでもいいから繋ぎ止めていたいと思っている。
我ながら勝手な人間だ。
そして今日は、ひまりと食堂でご飯を食べる約束をしていたため2人で食堂に向かった。
「ねえ!あれ瀬名先輩じゃない?」
私がメニューに悩んでいると、ひまりが興奮した声でそう言った。
ちなみにひまりは私が奏先輩に片思いしていることは知っている。
たまたま奏先輩に会って話していたところを見られてしまっていて、問い詰められたため白状した。
それ以降、定期的に尋ねてはくるものの、叶わない恋なので、なんとも言いようがない。
私たちが先輩を発見するとすぐに先輩も私たちに気が付いた。
「あ、古橋さん...食堂使うなんて珍しいね」
「今日は友達と食堂で食べる約束をしていたので。」
そう言うと私の後ろからひょっこりとひまりが顔を出した。
「こんにちは!日野ひまりって言います。噂で瀬名先輩は知っていました!」
「えっ...別に僕そんな噂になるほど大層な人間じゃないよ...」
肩を竦めながらそう言う先輩に私は大層な人間だったでしょーが、と心の中でツッコんだ。
「えっもしかしてこの子が例の後輩?」
ひまりの自己紹介が終わると奏先輩の後ろから1人顔を出した。
「例のって言うな...楓」
「だって奏教えてくれないんだもん...あ、はじめまして。俺は奏の幼なじみの会田楓って言います!2人ともよろしくね?」
笑顔で自己紹介をするその先輩はいたずらっぽく笑った。
「ごめん古橋さん。こいつはただの幼馴染。別に名前も覚えなくていいから。」
「え!?ひどい!!」
そんな漫才みたいなことをする2人を見て私は吹き出してしまった。
「先輩達...仲良いんですね。」
「「別に仲は良くない」」
...息がぴったりなあたり、さすが幼馴染だ。
ーそして私たちは4人でお昼を食べ始めた。
奏先輩は「いや、2人に悪いから」と別れようとしたけれど、会田先輩とひまりはノリノリで四人席に着いた。2人なんか似てる気がする。
私たちは終始無言で箸を進めていた。
途中で会田先輩が「好きなタイプ教えて」とか聞いてきたけれど全部奏先輩に一刀両断されていた。
そのせいか、奏先輩はだいぶ機嫌が悪くなっていたけど、それも微笑ましい。
ー「じゃあ、私たちはこれで。」
「先輩方!!またご飯食べましょう!」
「ごめんね。うるさいの1人いて。」
「今日奏俺への当たり強くない!?」
最後まで喧嘩していたけど奏先輩も信頼してるんだろう...多分。
「先輩達いい人だったね〜!!ていうか奏先輩も幼馴染のあの先輩の前だとちょっと変わるね!!」
教室へ帰る途中ひまりがそう言った。
「たしかに。いつもより表情豊かだった気がする笑」
「奏先輩と話してる時玲すごく嬉しそうに話してたよ?」
「いやいやそれはないない...ひまりの思い違いだよ。」
「えー」
そう誤魔化しても本当はすごく楽しかった。
先輩の新しい一面を知ることが出来たから。
先輩はあといくつ仮面を被っているのだろうか。
私がその答えに辿り着くには、まだまだ時間がかかりそうだ。
この恋諦めていいですか? 空音 @sorane_vv
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