episode 2

先輩はひと通り作業が終わると、キャンパスを片付け始めた。


私はそんな先輩の背中に向かってふとした疑問を今日も投げかけてみた。


「......ロナウドも超えるサッカー選手になるんじゃなかったんですか。」


先輩と初めて出会った時太陽のような眩しい笑顔でそう応えた先輩は、一体どこへ行ったのだろう。


「ーん〜ロナウドを超えるのは現実的じゃないよなあ〜」


「先輩いつから現実主義者になったんですか。」


「元からだよ。君と会った時そう言ったのは、君があまりにも全うなことを言うから。ちょっと言い返したかっただけ。」


先輩は窓を見ながら続けた。


「毎日毎日...よくやるよね。あんなに毎日サッカーなんてやって飽きないのかな?疲れちゃうよね。俺なら無理〜」


先輩はそう笑いながら言った。


ただ私は笑えなかった。


先輩はそんな人じゃなかった。


そんな無気力なこと言う人じゃなかった。


さっきも言った。先輩は太陽のように眩しい人だったんだって。


先輩は今日も仮面をつけている。


その仮面の中はどれほど暗闇で真っ暗なのか。


私には分からない。私はただの凡人で、元々先輩とも対照的な存在だったんだから。


片付け終わった先輩と門で別れて、私はまっすぐ家に帰った。


今日も何事もなく1日が終わった。


何もない平穏な1日。私はそれを望んでいたくせに、私の心は酷く沈んでいた。


私が前にあった先輩とはもしかしたら全くの別人だったのかもしれない。


そうだったらいいなと何回も願った。








ー私が再び先輩と出会ったのは高校1年生も後半に差し掛かった頃。


普段は美術室なんて使わないけど、たまたま課題のため美術室に行くことがあった。


そこで私は出会ったのだ。


初めて会った時とは打って変わって、そこには全て諦めたような、目から初めて会った時のような自信に満ち溢れる輝きは一切なく一瞬見間違えだと疑いたくなるような、先輩の姿があった。


「...奏先輩...ですよね。」


「...え?」


「入学式の日、先輩と水道の前で話しました。私があの時、何故あんなに必死になるのかと先輩に尋ねました。」


「...ああ。そういえばそんなこともあったね。...で、どう?考え方、変わった?」


先輩は少し笑いながら私に問いかけた。


私は今しかない。そう思って先輩に正直な気持ちを話した。


「先輩のあの時の言葉で、私は少し変わりました。先輩の輝いた瞳を見て、必死になる事の意味が少し分かった気がします。」


「...そっか」


「でも私はこれだけは分からない。なんでそんな先輩が今、ここで絵なんか描いてるんですか?」


「...なんでだろうねえ...」


先輩は明らかに言葉を濁した。


ただ私は一瞬で理解をした。


そりゃ突然久しぶりに会った後輩なんかに、そんな大事なこと教えるわけ。ないだろって。


「...なら私は毎日来ます。」


「...え?」


先輩あの時言いましたよね?聞きたいことがあるなら聞きに来てって」


「言ったけど、君の疑問はもう晴れたでしょ?」


「全く晴れてないです、むしろ増えました。」


「...僕から言えることなんて限りがある。」


「構いません。先輩の口から聞きたいので」




ーあの時はたしかにに半ば強制的にそう宣言したけれど。


先輩ほんとに秘密主義。














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