先輩との出会い
その日は入学式だった。
桜は3日前くらいに満開を迎えてしまっていて、学校に咲いている桜も散りかけている。
そんな中私は高校の門をくぐった。
特に特別な気持ちを抱いたわけでもなく、新しい環境に胸を踊らせるわけでもなかった。
ただ淡々と、平和に、それなりの付き合いをして、ただ卒業出来れば。
そしてそれなりに、将来安泰の生活を送れれば。
それでいいと思ってたから。
入学式が終わり、新クラスで顔合わせをして、担任の紹介。そして連絡事項だけ行ってその日は解散だった。
その日はそれで終わりだったけれど学校内や部活動等は見学可能らしく、割と多数の人が、学校内に残っていた。
そして私にも新しい友達が出来た。
入学式の席で隣だった所から親しくなった。
彼女の名前は日野 ひまり。すごく気さくで明るい人だ。
彼氏はずっといないらしく、高校では絶対に作ると意気込んでいた。
そんなひまりと今日は部活動見学に行く約束をしている。
「玲!早速部活動見に行こう!」
そう隣で言ったひまりに返事をして、私たちは部活動見学へ向かった。
-結果から言うと、あまり部活に入る気力は湧かなかった。
運動部は元々入る気もなかったけれど、文化部を見て回っても、楽しそうだと思う反面、やっぱり毎日出るのは少し億劫だなと思ってしまった。
ひまりは調理部に興味津々らしく、体験会に出てみると言ったので、私はひまりと別れた。
色んな部活を見に行ったので外を見ると既に夕日が昇っていた。
-帰ろうと学校の外に出ると、まだ外部活は活動していた。
「あんなに必死ですごいなぁ...」
私は誰に伝えるわけでもなく、ぼそっと一言呟いた。
「なになに。悩み事?」
私は驚いて横を見た。
話かけてきたのは水道で顔を洗っていたらしいサッカー部の先輩だった。
「あ...すみません。ただの独り言です。気にしないでください...」
そこに人がいるとは思わなくて思いっきり1人で呟いてしまっていた。めちゃくちゃ恥ずかしい。
私がそう言って先輩の横を通り過ぎようとすると、その先輩ががまた話しかけてきた。
「いや、人に話してみると、案外楽になることもあると思うよ?」
「いえ。別に悩みってわけじゃないです。ただ不思議に思ったって言うか...」
「...不思議に?」
問いかけてきたので私は今まで不思議に思っていたことを、目の前の先輩に問いかけてみることにした。
学年も違うし、きっともう会うこともないだろうと思ったから。
「先輩はサッカー部所属ですよね。
先輩はどうしてそんなに必死になれるんですか?サッカーで将来生きていくなら話は別ですけど。」
「いや、僕ロナウドを超えるサッカー選手になるかもしれないじゃん。」
「それは無理じゃないですか?。サッカー知らない私でさえ知ってる有名な選手ですよ。」
先輩がどれくらい上手なのか分からないけど、流石に冗談だろう。
「まあ確かに。今のは冗談だ。けれど、それくらい目標は高くってこと。」
先輩は顔を拭きながら続けた。
「どうして必死になれるのか...か。確かに、君の考えもまぁ分かる。正直馬鹿らしいとでも思ってるんだろ?」
「いやそこまでは...」
...図星だった。
「馬鹿らしいけどそれでも必死こいてやる理由はね...うーん...僕はプライドだと思うな。」
「...プライド?」
私は聞き返した。
「そう。プライド。僕は小さい頃からずっとサッカーやってるから、人一倍サッカーには自信がある。だけどそれでも僕は最強じゃない。負けることもある。ゲームなんかだったらゲームクリアってあるでしょ?全クリだってある。」
先輩は少し笑って続けた。
「でもサッカーは、、いや。どの競技でもだな。どんな競技でも全クリは無いし、人によってはゴールもない。
確かに何のためにここまで頑張るんだろうって思うこともあるよ。でもね...やっぱり想像するんだよ。自分が相手を何人も抜いて、キーパーさえも欺いてゴールする所を。
僕の得点で逆転勝ちしてチームのヒーローになり瞬間を!
...それってめっちゃかっこいいでしょ?」
目を輝かせながらそう言った。
「その瞬間のために先輩は必死こいてサッカーをするんですか?」
「いや。全部がそうってわけじゃない。単純にあいつには負けたくないとか...あとは強さが楽しむための最強の武器だと思ってるからね。僕は。」
そう言って先輩は校庭の方に向かいながら最後に呟いた。
「きっと君の疑問は全く晴れなかったと思うけど...それでも君が知りたいことがまだあるならまた聞きにおいで。」
そう言って水道から去っていった。
-あとから聞いた話によると瀬名先輩はサッカー部のエースでめちゃくちゃ上手いらしい。大学からスカウトが来てるだとか、めちゃくちゃモテるけど誰とも付き合わない硬派な先輩だとか。とにかく有名な先輩だったことが分かった。
「そんだけ凄かったら必死にもなるか...」
私は登校する時よりも心がすっと軽くなっている気がした。
-これが先輩を気になり始めたきっかけで、先輩との出会いだ。
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