episode1
「玲?行くよ〜?」
ー私は友達のひまりの声で我に返った。
「ごめんごめん」
そう言って私は一瞬だけその方向に視線を向け、友達の元に駆け寄った。
·····
ー私は高校2年生になった。特に何か志高くこの高校に入学したわけじゃない。
ただ距離も丁度良くて、自分の偏差値からしてここが無難だと思って決めただけ。
ただ3年間平穏に、平和に、静かに過ごせればどこでも良かった。
友達にも家族にも恵まれてると思うし、今まで苦労したことも特にない。
だから、私の人生成功しただなんて大それたことは言えないけど、別に挫折したこともない。
でもそれでいいと思う。
可もなく不可もない人生が丁度良い。
リスクを背負ってでも挑戦して、でも失敗したら元も子もないじゃない。
なら私は安全策を取る。
臆病者?違う。ただ現実主義者なだけ。
人並みの成績。人並みの努力。他人以上なんてならなくていい。
最近までほんとにそう思ってた。
けれど、1人の先輩によって私の信条は打ち砕かれる。
ー私は友達と別れた後、美術室へ向かった。
美術室のドアを開けると目的の人物は、キャンパスに筆を走らせていた。
「...今日も描いてるんですね。」
そう一言言葉を放つとその人物は振り返って私に視線を向けた。
「あ。古橋さん。さっき下で見てたよね。」
一瞬見ただけなのに気が付いていたようだ。
「見てたって言うか…先輩受験生なのにそんな呑気にサッカーの絵描いてていいんですか?」
少し不思議に思ったのでそう問いかける。
「うーん...まあまだ4月入ったばっかだし...ていうか大学別に決まってないし..まだ大丈夫だよ」
そう言って先輩は窓の外に視線を向けた。
そんな彼の名前は瀬名 奏先輩。
キャンパスに絵は描いてるけど美術部ってわけじゃない。
噂によるとサッカー部の期待のエースだったとか。
だったらなんでサッカーの絵を描いているのだろうか。
先輩は教えてくれない。
何回か尋ねてみたけれど上手くはぐらかされたので、問い詰めるのは諦めることにした。
先輩は何も教えてくれない。
知っているのは、先輩はもっと元気で、今みたいに1人で行動するタイプでもなくて常に先輩の周りには人がいたってこと。
先輩は急に変わってしまった。
ただ私は変わってしまった先輩の本心を問い詰めようとしない。
ー私は先輩が好きだ。だから突き放されるのは怖い。先輩は私の事なんかなんとも思ってないだろうから、私はせめて卒業までそばで先輩を見ていたい。
いいんだ。叶わなくても。
高望みはしないって。
人並みの努力しかできない人間が高望みしても、結果は一緒なんだから。
そうやって自分の心に自己暗示をかける度、私は思い出す。
先輩に出会ったあの日のことを。
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