数十年越しの告白 (お題「秘密」)

 暖かな陽射しが、窓から注ぎ込まれていた。

 わずかに角度が変わったのか、部屋の中にあった何かに反射した光が、一瞬顔を照らし出した。

 その眩しさに、わずかに目を細める。


「暖かいですね」

「うん、そうだね」


 それで会話は途切れる。

 だが、もうそれ以上を、お互い必要としない。

 そのわずかなやり取りだけで、もう十分すぎるほどにお互いの気持ちは伝わる。


 それだけの年月としつきを、もう共に過ごしてきたのだ。


 小春日和と呼ぶにふさわしい、冬の入り口に訪れたその柔らかな陽射しに、昼前だというのに微睡まどろみを覚え、それに抗う気力は秒単位で削られていく。


 子供たちも家を出て数十年。

 お互いの親ももうこの世にはおらず、気付けば自分たちがなる番がそろそろ巡ってくる。

 世間一般からすれば、十分に生きたといえる。


 それに悲しいという感覚は、ない。

 どちらが先にというのはわからないが――不思議なほどそれを受け入れられている自分がいた。


 未練らしい未練は、ない。

 強いて言えば、曾孫たちに『じぃじ』と呼ばれたことで、あの子たちの行く末が気にはなるが、もうそれは自分たちの役目ではないだろう。


 その時、ふと。

 そういえば、結婚したのもこの時期だったな、というところから、あることを思い出した。


「ああ、一つ、言い忘れてたことがあるか」

「はい?」

「君に言ってなかったことがある。なんていうか……すごく今更なんだけどね」


 本当に――今更だ。

 ただ、数十年を共に過ごし、お互いがお互いを想うのが当たり前になっていたから、逆に今まで言う機会がなかった。


「一目ぼれ、だった」

「え?」

「覚えてないかな。結婚してすぐの頃、いつから好きだったかと聞かれて、誤魔化した」


 彼女はしばらく思案するように――寝てるようにも見えるが――してから、「ああ」と思いだしたらしい。


「なぜか当時、素直に言うのが恥ずかしかった。それからずっと言えずじまいだったが……。本当に今更だけど」


 呆気にとられた彼女の表情が見えた。

 それは、年齢としを重ねてなお、最初に出会った時と同じような魅力を感じさせてくれる。


「なんていうか……本当に今更、ですね」

「うん。まあでも、言えるうちに言っておくべきだと思って。ふと思い出すと、胸のつかえになってた気がした」


 彼女がくすくすと笑う。


「じゃあ、ずっと好きでいてくれたんですね」

「そう、だね」


 初めて会った時からずっと好きで。

 そうして数十年が過ぎた。


 来世というものがあるかはわからないが――多分幾度やりなおしがあったとしても、この選択だけは同じになると思える。

 それほどに――出会った時に決めてしまっていた。


「まさか、何十年も経ってから教えてもらえるとは、思いませんでした」

「うん。あれだ。とっておきの秘密だったんだ、僕にとって」


 もう一度、彼女が笑う。

 つられて自分も笑った。


 暖かな陽射しの中に、二人の笑みがとけていった。



――――――――――――――――――――――――――――

タグ制限がきつかった(ぉぃ

色々考えて、結局秘密はこういうことに。

天体観測の二人……かは不明。

これだけなら白雪姫の二人でも行けるかも?

あるいはまったく別人でも。


ちなみに私は今の相方に一目ぼれ、というわけではないです。

……でもなんだろ。

付き合うまでは早かったよな……なんか相性が良かったのは確かですね。

遠距離なのですが、初めて会ってから付き合うまでは四カ月。会った回数は確実に一桁。

ただ、それからは長かったですが。

付き合い始めて結婚するまでには六年近くかかってますし。

いや、最初彼女が学生だったからですけどね(ぉぃ

あ、高校生じゃないです。

大学生でした(私は社会人だったけど)

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家族の肖像(「カクヨムWeb小説短編賞2023」創作フェス) 和泉将樹@猫部 @masaki-i

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