経験者は呟く
『――まあいつも通りだな。ってか、じゃちょっと借りる』
『ああ、まあ無理そうなら妹ちゃんに任せればいいんだよ。別の案考えてやる』
俺が声をかけると樹は運転席に乗り込みは走りだした。
俺が樹にアドバイスをしたのは自分の経験談。
これは本当だ。1年くらい前に俺の爺様が高熱を出した後記憶がぐちゃぐちゃになった。
もともと認知症?物忘れ?が悪化してはきていたのだが。あの日以来はホント何もかもわからないような状態だった。
もちろん基本家に居ることの少なかった俺の事なんて『どちらさまでした?』というレベルだった。まあ俺はもともとそこまで繋がりがなかったが。実家に帰った時はなんやかんやと話が合ったのでよく話していたので完全に忘れられたのは何とも――だったが。
でも、そんなある日。爺様の病院受診日。いつもは婆様が付き添っていたらしいが。自分の別の病院の受診日とうっかり重ねてしまっていたらしく――暇だった俺が付き添いで派遣された。
その際俺は単なる付き添い人。みたいな考えで爺様に接した。というか。家にあの後ちょくちょく家族が行っていたが。全く誰も思い出せないという話を聞いていたため。それなら赤の他人設定の方が楽だと思ったからだ。
そしてその作戦は上手い事回った。
俺が迎えに行けば、知らない人に世話になるということはわかるのか。または1人で外出しているとでも本人は思っていたのか。挨拶から始まり。そのあとは終始雑談。多分思い出せること。昔の記憶などを俺にずっと話していた。
もちろん昔のことを言われても俺は全くわからない。わからなかったが――。
『昔はわしモテましてなー。そうじゃそうじゃ、誰じゃったかな――前に似たような話をしたんだわさー。若いやつと話した気がするんだがなー。あー、ダメじゃダメじゃ。年取ると何も覚えとらんわ』
――その話は爺様が高熱を出す前に俺と話したことだった。
たまたまかもしれない。でもそれがきっかけだったのかは――だが。そのあと少しずつだが。爺様が高熱を出す前の記憶を思い出したのだった。
俺は単に赤の他人として話を聞いていただけ。
でも今までと違い。家族が思い出させようとしたのではなく。自分で思い出したからなのか。何かが繋がったみたいに少しずつ思い出したと。
もちろん俺はそっちの専門家じゃない。
でも樹の話を聞いているともしかして――と、思い。そんなアドバイスをしてみたのだった。
「まあどうなるかは俺知らんがね。って、樹の妹ちゃん気になるわー」
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