ある夜の事
いろはの誕生日をお祝いした後。俺は風呂に入り自室でのんびりとしていた。そしてもうすぐ日付も変わろうとしていた時の事。
――ドタッ。
小さな物音がした気がした。はじめは特に気にしていなかった俺。しかし、物音のすぐあとの事。
「――おにぃ?起きてる?」
「なんだ?いろは」
俺の部屋にいろはがやって来た。
声に気が付き俺がドアを開けるとパジャマ姿のいろはが枕を持って立っていた。
「なんか今物音しなかった?」
「ああ。した気がするが。外に猫かなんか居たんじゃないか?」
「――家の中でしなかった?」
いろはがぎゅっと枕に力を込めて少し俺の方に寄って来る。
実はいろは。オバケが苦手である。昔から物音には敏感。特に夜の物音には敏感だった。
「そこまではわからんが。まあ気になるならどうぞ」
「なんでよ!怖いじゃん。来てよ」
「なんでいつも俺のところに来るかな。隣に親もいるのに」
現在の俺たちは家の2階にいる。そしてこの家は1階がじいちゃんばあちゃんの家。2階が俺たち家族の家となっており。夜は両親も含め2階で俺たちは寝ている。なので父親も母親も隣の隣の部屋。いろはの部屋の隣に居るのだが――何故かこいつは昔から俺の部屋にまずやって来る。まあいいのだが。
というかいつものパターンだとじいちゃんかばあちゃん。または親が夜中に水分やトイレに起きただけというのがほとんどであるが。
とにかくいろはは物音が気になると寝れないらしく。ちょくちょく俺は起こされる。今日の場合はまだ寝ていなかったが。
「何歳まで俺はいろはに夜中起こされるのだろうかね」
「そりゃずっとでしょ。おにぃと一緒に居るつもりだし」
「マジかよ」
今サラッと問題発言?というのか。俺この家にいる限り夜中にちょくちょくいろはに起こされる未来が続くと言われた気がするが。気のせいだよな?というか?うん?ずっと――一緒?気にしたら負けか?でもじいちゃんと親父にはなんか勝った気がする。って、俺――シスコン?まさか。
「おにぃ。気になるから来てって」
「1人で行けばいいのに」
「無理に決まってるでしょ」
結果。俺はいろはに腕を掴まれる形で物音がしたと思われる1階へ。多分じいちゃんかばあちゃんが――だろうと思ってたら。
まああたりといえばあたりだった。
「電気付いてるし」
1階へと階段を降りると、リビングから光が漏れていた。つまり――泥棒ではない限り。というか。時間的にまだじいちゃんばあちゃんも起きている。物音の犯人はどちらかだ。泥棒なら明かりを付けないだろう――多分。
「確認するまで来てよ」
「はいはい」
電気が付いているだけではいろはの怖がり?は終わらず。そのまま俺たちはリビングへ。そしてドアを開けると――。
「「――あれ?」」
俺といろはの声がハモった。
リビングには誰もいなかったからだ。
「単なる消し忘れ――?」
俺はそんなことをつぶやきながら廊下の先。じいちゃんばあちゃんの部屋の方を見ようとすると。俺より背の低いいろはが先に異変に気が付いた。すっといろはに捕まれていた腕が解放されたと同時だった。
「――っ!!おばあちゃん!!おばあちゃん!!おにぃ!!おばあちゃんが!!」
リビングに2歩3歩と足を踏み入れたいろはが叫んだ。
いろはの元へと俺が慌てて近寄る。
まずキッチンのところで桶が転がっていた。多分いろはの身長なら机の下あたりからちらりと床に転がっている桶が見えただろう。だから様子を見に行ったと思う。
そしてその近くで――ばあちゃんが倒れていた。
ばあちゃんの近くには踏み台もあり。戸棚のドアが一か所半開きになっている――って、それよりだ。
「おばあちゃん!おばあちゃん!」
いろはがばあちゃんに駆け寄り身体を揺らす。しかし反応はない。
「いろは。あまり動かすな。頭を打ったのかもしれない」
「おにぃ――おにぃ――」
俺が声をかけるといろはが慌ててばあちゃんから手を離すが。どうしていいのかわからないらしく。泣きながら俺の方を見てきた。
「と、とりあえず。救急車」
俺も唐突なことにかなり内心は慌てていたし。混乱もしていたが。ここは落ち着いて――と、思っていると。リビングの入り口から眠そうな父親の声が聞こえて来た。
「――どうした?何騒いでるんだ?2人して」
「親父ぃ。救急車呼べ!!救急車!!」
く落ち着いていなかった。
突然のことにとにかく叫ぶ兄と泣きわめく妹だった。
さすがに俺たちが騒いでいたのでじいちゃんも母親も起きて来て、磐城家はいろはの誕生日の翌日となった深夜0時過ぎに救急車を呼び病院へ――と、それはそれは大騒ぎとなったのだった。
ちなみにばあちゃんに何があったかは、翌日ばあちゃん自身が話していた。
「寝ようと思ったらね。そういえば桶片付けてなかったと。で、片付けようとしたら足を踏み外してね―」
以上である。
夜中に救急車と大騒ぎになったが。検査の結果ばあちゃん特に何もなかった。頭は倒れた際に打ったようだったが。出血もなければ。頭の中で出血ということもこの時はなかった。後日の検査結果もすべて問題なし。なしだったのだが――。
「――あんた誰だい?」
ばあちゃん何故か俺の事だけきれいさっぱり忘れていたのだった。
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