あの日、あの時、とある川のほとりで
新巻へもん
古いシミュレーションゲームのお話
新年。
なにか新しいことを始めるにはいいタイミングですね。
まあ、思い立ったら吉日という言葉もあるので、何も新年から始める必要はないのだが、なんとなく区切りがいいし心機一転して何かを始めるのに向いているのでしょう。
2024年、皆様におかれましては、元日から始めたことは何かおありでしょうか?
色んな○○始めというのもありますね。
ちなみに質問者の新巻は酒を飲んでゲームをしたぐらいです。
書き出しと比べての落差の酷さに我ながらどうなのか……。
なんでそうなったかと言うと、新巻というのは取りかかりは遅いが一旦始めると結構しつこいしのめり込むタイプなんですね。
例えば何の気なしに始めた小説の執筆ももう5年以上になりました。
なので、何かをやめない限りはあまり新しいことをする時間がありません。
ということで、酒を飲んでゲームをするという従来からの行動をするしかないんですよ、本当に。
と、言い訳をして執筆もせずダラダラしていたわけですが、新巻とこの二つのものとの付き合いはとても長いです。
褒められた話ではないですが、実はティーンエイジになる前から飲んでいます。
とんだ非行だと思われるかもしれませんね。ただ、地域によっては親戚の集まりで悪いオジサンから子供でも飲まされる時代だったんですよ。
それで新巻の飲酒遍歴の話をしてもいいのですが、ほとんどが失敗談なので脇に置いておき、もう一つのゲームの話でもしようと思います。
その後の人生で何十年と時間を費やすことになるコンピュータゲームなのですが、新巻が最初に購入しゲームライフをスタートさせることになったタイトルは何かお分かりになりますでしょうか?
ゲームをするハードが分からないとちょっと難しいですね。
実は新巻は子供のころ家庭の方針で家庭用ゲーム機は買ってもらえませんでした。
しかし、なぜか家庭にマイコンがあったんです。
パソコンではありません。その当時はマイクロコンピュータ、略してマイコンと称していました。
これだけで時代が分かろうというもの。
じゃあ、ゲームの記録媒体はフロッピーディスクだったんですか、と思った方はある程度以上の年齢の方ですね。
黒くて妙に頼りない柔らかさの5インチフロッピーディスクの容量は、なんと512キロバイトです。
日本語25万字分しか入りません。ちょっとした長編小説すら入らない。
などと、いにしえのデバイスの話をしましたが、新巻の買ったものはフロッピーディスクに収録されたものではありません。
カセットテープに入っていました。
ええ。音楽を聴くやつです。
21世紀に生まれた人にはなんのことやらでしょう。
マイコンにカセットレコーダーをつないで、ロードコマンドを叩き、レコーダーの再生ボタンを押すとデータがマイコンに読み込まれる仕掛けでした。
本当かよと疑うかもしれませんが本当です。
ちなみにその前の時代の紙テープはさすがに新巻も使ったことはないです。
散々引っ張ったところで明らかにしましょう。
新巻が初めて買ったゲームのタイトルは『川中島の合戦』でした。
なんだよそれ知らないし、きっと聞いたこともないような会社が作っていたんでしょと思ったそこのあなた、それは違います。大間違い。ブッブー。
現在東証プライムに上場されている大企業グループの会社なんですよ。
当時の社名は株式会社光栄。
そうです。後に『信長の野望』だとか『三国志』などのシミュレーションゲームを出したことで有名な会社です。
織田信長や三国志の登場人物に対するビジュアルイメージを刷り込んだ会社なので、ゲームをしたことはなくてもそのイラストを目にしたことがある方は多いはず。
その光栄が出した最初のゲームがこの『川中島の合戦』だったわけですね。
肝心のゲームの中身なのですが、武田信玄となって上杉謙信を倒すというものです。陣営の選択すら許されません。謙信に恨みでもあったのでしょうか?
ゲームを開始しても、オープニングムービーなんてものはありません。
一枚絵の静止画すらない。
タイトルだってアスキーアートで描いた斜めの文字が表示されるだけ。
いや、仕方ないですよ。
だってマイコンそのものに漢字を表示する機能が無かったんですから。
アルファベットと数字と半角カナ文字がすべてです。
一応部隊は凸の形をしたマークで表示されていました。
これが原色で塗られています。
色だって7色ぐらいしか無かったですからね。
で、どうやってゲームを進めるか。
部隊に振られた番号をキーボードで入力後に、移動や攻撃などのコマンドに割り当てられた数字を入力します。
移動させるときだって360度の方位と距離を数字で打ち込みました。
マウスなんて存在しないもんね。キーボードが唯一の入力デバイスです。
自分の手番の終了コマンドを打ち込むとコンピュータの番になります。
これで1ターン。
戦場がそこそこ広いので当初の数ターンは移動しかすることがありません。
いざ接敵して攻撃されてもテキストで結果が表示されるだけ。
「ソシテ、ナ、ナントゼンメツシマシタ!」という感じ。
移動後に攻撃ということができないので、待ち構えている方が先に攻撃ができて有利です。
さらに20ターンの上杉謙信の部隊を壊滅させないと負けという時間制限がついていました。
不利を承知で謙信の本陣に部隊を突っ込ませて1ターン攻撃に耐え、次のターンで謙信を倒しきれなければ攻撃部隊が壊滅して負けというシビアなゲームです。
もちろん敵の攻撃部隊から信玄も守らなければなりません。
なお、信玄も謙信も移動できないという制限がついています。
実に地味ですよね。
たぶん同程度のもの、今ならマクロで組めると思います。
でもねえ、当時は楽しかったし、滅茶苦茶興奮したんですよ。
人以外のものと遊ぶことができるなんて凄い技術革新だと子供心に感じました。
思い出補正込みですが、生成AIを見たとき以上の衝撃だったと思います。
これが、ゲームにはまるきっかけでした。
この出会いが無くゲームに費やした何万時間を別のことに振り向けていれば、たぶん人生においてもうちょっと世俗的な成功を収めたのじゃないかと思います。
でも後悔はしていません。
決められたストーリーに従うのに飽き足らず自分で過程や結果を変えたい、という欲求はたぶん現在の創作活動の根っこになっています。
一般的に作家になるには千冊の読書がスタートラインと言われていますが、新巻はそれだけの冊数を読んでいません。
ただ、足りない部分は間違いなくゲームからのインプットが補っていると思います。
そういう意味では新巻の作家生活はあの日の川中島から始まったのかもしれません。
あの日、あの時、とある川のほとりで 新巻へもん @shakesama
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