改めて、よろしくお願いします
「――これで、晴れて俺達も魔法士ってわけか」
翌日、俺達は案内所から出てきた。
俺とルナ、フローレンスの手に握られているのは、ぺらぺらの紙。
これひとつで5級魔法士として認定されるんだから、ありがたみがあるやらないやら。
「終わってみるとあっさりでしたね。それにしても……」
普通は資格をゲットできれば喜ぶものだろうけど、ルナはというと、不満げに頬を膨らませていた。
「ダリーヴィー魔法士は軽いケガ、受験者達は無傷だったというのに、お兄様の功績がほとんど認められないなんて! しかもあのもうろくジジイ、『実は自分がモンスターを弱らせていた』なんて大ウソをついてましたよ!」
というのも、俺達がヘルイーターを倒した実績は、完全にダリーヴィー魔法士の功績にされてしまったんだ。
俺はどうでもいいと思ったから何も言わなかったけど、ルナからすれば相当不満らしい。
というか、あのお爺さんが一撃でノックアウトされたのを他の受験者も見ていたはずなのに、こんな大ぼらがあっさりと信じられるんだな。
これも、3級魔法士って
「かくなる上は私がボケ老人を殴り倒して、自分よりも強いお兄様の
「そんなことしなくていいよ。皆が無事だったのが、俺にとって何より大事だからさ」
「お兄様は優しすぎます! まあ、そこも含めて私は愛しているのですが!」
ルナの怒りはともかく、俺が気にしているのは別のことだ。
「……ところで、フローレンスさんは昨日までの元気をどこかに落としましたか?」
俺達の後ろで、どこか寂しげな顔をしているフローレンスだ。
せっかく魔法士になれたというのに、結果に満足していないような表情なんだ。
「え、ううん! いつでも元気いっぱいだよ!」
俺に声をかけられ、足を止めてフローレンスが笑う。
でも、彼女の顔を見れば、取り繕っただけだってよく分かる。
「今のフローレンスを見ても、そうは思えないな」
「……そう、かな……」
自信なさげな声を聞いて、ルナが鼻を鳴らす。
「私はともかく、お兄様に気を遣わせるのは非常識ですよ! 私は全然ちっともまったく心配なんてしてませんけどね!」
「最初に声をかけたのは、ルナの方だけどな」
「なっ……私、そんなつもりじゃありません!」
照れ隠しのつもりで怒ってるんだろうけど、もうごまかせないよ。
俺の妹は思いやりがあって、優しい子なんだ。
むくれるルナの頭を撫でていると、フローレンスが口を開いた。
「……昨日、森から帰ってきて……気づいちゃったんだ。試験を合格できたのは、リオン君やルナちゃんのおかげだって」
なるほど。
フローレンスが気にしていたのは、自分の実力不足か。
「あの時はとっても喜んでたけど、あたしはあんまり戦力にもなれなくて……
正直言って、比べる相手が規格外ってだけで、フローレンスの実力は間違いない。
俺は魔王と覇王の力を受け継いでいて、ルナはオーンスタイン家でも屈指の才能の持ち主なんだ。
だから、そこまでしょげる必要なんてありはしない。
自分に魔法士になる資格はないんじゃないかって悩む気持ちは、分からなくもないが。
「確かにフローレンスの魔法は、まだまだ未熟かもしれない」
そんな彼女に俺がしてやれるのは、励ましと素直な気持ちを伝えることだけだ。
「でも、誰よりも勇気を示しただろ? 魔法士が危険な仕事だっていうなら、
俺はゲームの中で、何度もフローレンスの前向きさに応援された。
社畜生活の中でも、彼女の言葉を思い返してきた。
彼女が弱いなんてありえない――俺よりもずっと強くて、すごいところがあるんだよ。
「だから気にしなくていい。魔法はこれから鍛えていけばいいし……俺は、フローレンスくらい勇敢な頑張り屋さんにこそ、魔法士になってほしいって思うからさ」
フローレンスの頭を軽く撫でてやると、彼女がちょっぴり縮こまった。
「……ありがと、リオン君!」
そして、いつもの笑顔を見せてくれた。
よかった、どうやら俺の励ましは効果があったみたいだな。
「あーっ! お兄様に頭を撫でてもらいましたねーっ!?」
――そしてどうやら、マイナスの効果も持ち合わせていたみたいだ。
フローレンスがちょっとふにゃふにゃになる隣で、ルナが獣のごとく髪を逆立てていた。
「私だけに許された権利を奪うなんて! ちょっと同情した私がバカでしたやっぱりフローレンスさんはどうしようもない泥棒猫ですねもう許せませんこれは戦争です! クリーク! クリーク! クリークッ!」
「はいはい、どうどう」
騒ぐルナを落ち着かせる方に両手を使っていると、フローレンスが拳を握りしめた。
「あたし、決めた! リオン君とルナちゃんと一緒に、1級魔法士になる!」
俺達の前で天高く手を掲げる彼女の目には、もう迷いも弱さへの恐れもない。
「ひとりだけじゃなくて、皆と一緒に夢を叶えたいの! だってもう……あたしひとりの夢じゃないから!」
フローレンスの真剣な、力強い、明るい声を聞いて、俺とルナは顔を見合わせた。
それからちょっぴり笑って、フローレンスの手の上に、手のひらを重ねた。
「まったく……私は心底どうでもいいですが、お兄様がどうしても、どうしてもと言うならば、今後もフローレンスさんと組むのもやぶさかではありません!」
「頼りにしてるよ、ルナ。俺も、皆と1級魔法士になりたいからな」
「お兄様! はい、私はいつでもお兄様のお力になります!」
ルナ、フローレンスと共に、俺はもう一度歩き出す。
ラスボスと隠しボスの力を手に入れた時の不安は、もうどこにもない。
俺の目的も変わっちゃいない。
「それじゃあ、どこかで祝杯でも挙げるとするか。俺達の――魔法士の未来に、な」
にっと笑う俺の左目には、確かに映っていた。
心から信頼できる仲間と――最高に楽しい『ソーサラー・アウェイク』の世界が。
転生したらラスボスの悪役貴族だった俺は、隠しボスの力も手に入れて世界最強の魔法士になる いちまる @ichimaru2622
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