必殺技でキメます

 ルナが驚くのも無理はない。

 目を解放した俺の魔力は、それだけで眼帯を外す前の10倍近くまで上昇するからな。


「お兄様、眼帯を……!」

「ああ、少しの間だけ外す! もしもヤバくなったら、フローレンスを連れて逃げろ!」


 確かに俺が眼帯を外している間、魔王の魔力が一時的にあふれ出すせいで、放っておけば完全に魔力そのものに肉体と精神を呑まれてしまう。

 だけど、それを覇王の肉体と魔力で相殺させながら運用すれば、暴走しないはず。

 少なくとも今は、ラスボスと隠しボスのふたつを手に入れて間もない時とほぼ同じ状態なのに、俺の魔法が暴れ出すそぶりは見えない。

 要するに、魔力をコントロールできている証拠だ。

 100パーセント、完全にどうにかできてるわけじゃあないけどな。


「すごい……あんな魔力、見たことない……!」

「ふふん、当然ですよ。だって――」


 フローレンスが目を見開く隣で、ルナが胸を張って言った。


「――だってお兄様は、世界中の誰よりも強くて、素敵な魔法士なのですから!」


 まだ完全に魔力を制御できているわけでもないのに、ルナは俺を信頼してくれている。

 だったら、期待に応えないわけにはいかないな。


「これだけ褒めてもらったんだ、情けなく暴走するなよ……行くぞ!」


 言うが早いか、俺はヘルイーターに向かって駆け出し、両手に溜めた魔力を、地面に思い切り叩きつけた。


「魔王流禁断魔法『九頭の邪龍クーロン・ヘッズ』!」


 その途端、地面から赤い龍の頭が飛び出した。

 しかも9匹分、すべてが凶暴な牙を剥き出しにして、雄叫おたけびと共にモンスターに噛みつく。


『ギャギャギイイ!?』


 ルナの時よりもずっと乱暴に、凶暴に、勢い良く噛み千切られた触手は、龍の口の中に呑み込まれてゆく。

 もちろんヘルイーターも反撃するが、龍の頭は攻撃をさっとかわし、お返しとばかりに鞭のような部位を食い荒らす。


「高純度の魔力を圧縮して生成した、龍の頭だ! 枯れ木みたいな触手ごときが、どうこうできるわけないだろ!」

『ギ、ギイ……!』


 相当な数の触手を食い荒らしてやっても、ヘルイーターの体からは雑草のように、にょきにょきと伸びてくる。


「龍の頭で噛みついても、まだ触手を生やして抵抗するのか……だったら、今度は武術で黙らせてやる!」


 それなら、俺が直接潰してやった方が早そうだ。


「覇王流高位こうい武術! 『無刃斬むじんぎり』!」


 鋼よりも固く、剣よりも鋭く強化された俺の腕が、ひと振りでヘルイーターの触手を完全に細切れにした。

 そのさまを見て、ひとつ目の怪物は生やすのをやめた。


「ハッ、モンスターでも理解できたみたいだな。次、少しでも生やすそぶりを見せたらその瞬間に斬り落としてやるよ」


 ここまでやれば抵抗を諦めるかと思ったのに、ヘルイーターはまだまだやる気らしい。


『ギ、ギ……ギョオオオッ!』

「魔力が目に集中してる……ビームを撃つつもりか!」


 だったら、悪いが今度は体の一部だけじゃ済ませないぞ。


「やるぞ、ルナ! 兄妹の必殺技でトドメだ!」


 俺が呼ぶと、ルナが隣に並ぶ。


「はい、お兄様! 愛の力は無限だと、怪物に教えてあげましょう!」


 ふたりの瞳に輝くのは、赤い光。

 キーンと金切り声のような音をかき鳴らし、すさまじい魔力が圧縮される。


「「オーンスタイン家必殺魔法!」」


 これが俺達兄妹の必殺技。

 極限まで溜め込んだ魔力を、一点集中で発射する――。


「「――『ダブル目ビイイィィィィィィム』ッ!」」


 威力2倍、いや、2乗のレーザービームだ。

 圧倒的な破壊力をもたらす魔法の光線は、たちまちヘルイーターを呑み込んだ。


『ギャアアアー……』


 断末魔とともに、怪物の体が消え去ってゆく。

 森を切り開いてしまうほどの破壊力のレーザーが浴びせられ続け、声すら聞こえなくなった頃、光は少しずつ収束していった。

 そして俺とルナの目の輝きが消えると、えぐり取られた地面だけが残った。

 ヘルイーターは本体どころか、影すら消え失せている。


「……どうやら、塵も残らなかったみたいだな」


 これで今度こそ、本当にモンスター退治は完了したわけだな。

 といっても、まだ俺自身にとっての課題は残ってるみたいだけども。


「それにしても、この魔力も厄介だな……モンスターを呼び寄せる力でも……」


 眼帯を拾い、抑え込んだ目の力には、俺もまだ知らない何かが秘められているのかもしれない。

 魔力を制御できているからと言って、油断はできない――。


「お兄様ーっ!」

「リオンくーんっ!」

「どわぁーっ!?」


 なんて考えていた俺は、急にもみくちゃになった。

 主に抱き着いてきたルナとフローレンスによって、だ。


「お兄様お兄様お兄様ーっ! お兄様お兄様ーっ!」

「すごいすごい、すっごいよーっ! なんかもう、強くてカッコよくて、あたしもあんな魔法使ってみたくて、その、とにかくすごかったよーっ!」


 何やら感激してるのか、興奮してるのか。

 はっきり言うと、ふたりともテンションが異常な方向にぶっ飛んでて、何を伝えたいのか俺からすればさっぱりだ。

 でも、まあ――元気そうなら、それでいいか。


「……はは……それじゃあ、ダリーヴィー魔法士を起こすか」


 話の落としどころを見失った俺は、とりあえず準3級魔法士を目覚めさせることにした。

 危険級モンスターは俺達が倒しました、って報告と一緒にな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る