兄妹で主人公を守ります
「この状況……かなりマズいな!」
頼りになるはずの魔法士は一撃でノックアウトされて、目の前には危険級のモンスター。
俺とルナ、フローレンスを除いて全員がパニックに陥るのも無理はない。
無理はないんだが、このまま放っておけば、全員怪物の餌だ。
「ルナ、ダリーヴィー魔法士を連れて離れろ! 俺は受験者を連れて行くから、フローレンスは先に逃げてくれ!」
指示を聞いたルナは
「そんなのヤダ! あたしも手伝うよ、リオン君!」
「無茶言うな、あのヘルイーターは危険級のモンスターで……」
正直に言うと、いくら主人公で天才といえど、まだ魔法士のたまごでしかない彼女を一緒に戦わせるつもりはなかった。
けど、フローレンスの瞳が俺をじっと捉えるのを見て、はっきりと分かった。
正義の炎を燃やす彼女を説得させるなんて、無理な話だ。
「……ま、ストーリーで一度も折れなかった子をどうにかするのは、無理な話だな」
あきれたような、感心したような気分で頷いた俺は、フローレンスの肩を叩く。
「分かった、俺が魔法でヘルイーターの目をくらますから、フローレンスはここからなるべく遠くに受験者を移動させてくれ! そこまでやってくれたなら上出来だ!」
「よーし、やるぞーっ!」
そしてヘルイーターに向き直ると、今まさにうろたえている受験者達を捕食しようとするひとつ目の怪物に向かって手をかざした。
「『
すると、横に並んだ魔王を模した壁が、たちまちヘルイーターの視界を遮った。
怪物が触手を振り回して攻撃する音が聞こえるけど、残念ながらその物々しい怪物を模した壁は、ただの幻覚に過ぎない。
とはいえ、単純な思考のモンスターの時間稼ぎには十分だ。
「みんな集まれ、『ウインドキャリー』!」
その間にフローレンスは、風を操って受験者達を集めて、魔法で作った雲の上にすっかり乗せてしまった。
「な、なんだこりゃ!?」
「風が俺達を乗せて、わ、わわっ!」
驚く面々が、雲に乗せられたまま、すいーっと森から離れてゆく。
なるほど、風魔法に皆を乗せて、タクシーみたいに外に運ぶのか。
俺はてっきり、ひとりずつ時間をかけてでも逃がすと思っていたのに、フローレンスの発想力には参ったものだ。
魔法のレベルはともかく、器用さじゃあとても敵わないな。
おかげでルナがダリーヴィー魔法士を逃がした頃には、避難はほぼ終わっていた。
「お兄様、ダリーヴィー魔法士を森から引き離しました!」
「よし、これで俺の魔法を見るやつはいなくなったな。あとはあの目玉をぶっ潰し……」
ただ――完全に、とは言えなかった。
「ひ、ひ、ひいぃ……!」
俺とフローレンスの死角、木の
「リオン君、あれ!」
「クソ、逃げ遅れたやつがいたのか!」
人間の目ですら気づいたんだ、どでかい目の持ち主が察しないはずがない。
『ギョオオオオッ!』
悪魔を模した壁よりも生きた人間の方に興味が向いたヘルイーターは、触手を勢いよく逃げ遅れた女性に襲いかからせた。
鞭のようにしなる触手が女性をがんじがらめにしようとした、その刹那。
「危ない!」
俺達が魔法を使うより先に、フローレンスが彼女を突き飛ばした。
「フローレンス!」
「きゃあああああーっ!」
当然、触手にぐるぐる巻きにされたのはフローレンスの方だ。
間一髪で助かった女性の方はというと、腰を抜かして口をパクパクさせるばかり。
「あ、な、なんで、どうして……!」
「お前をかばって捕まったんだよ。とりあえず起きてると困るから……
「うっ」
これ以上話しても意味はなさそうなので、ひとまずこいつは気絶させる。
その辺にごろりと寝かせてから、俺とルナは触手を振り回すヘルイーターと、宙をぶんぶんと舞うフローレンスを
「まずいです、お兄様! あのモンスターはフローレンスさんを人質にするつもりです!」
「ああ、みたいだな」
「ふたりとも逃げて! ここはあたしがなんとか、時間を稼ぐ……うっ……!」
締め付けられたフローレンスが、自分を犠牲にする気でも、こっちは納得するわけにはいかない。
「時間を稼ぐ、か。気持ちは嬉しいが、そんな格好でどうするつもりだよ」
そもそも、俺の不注意でこうなったんだから、放っておけるわけがないだろう。
「どうする、ルナ? フローレンスが嫌いなら、受験者と一緒にここを離れてもいいぞ」
「あの口やかましいフローレンスさんはまったくもって好きではありませんが、お兄様を置いて単身でモンスターと戦わせるようなことは決してありません」
「そう言うと信じてたよ、ルナ!」
俺がルナの肩を叩くと、彼女は不敵に笑って『キマイラ』へと変貌する。
「フローレンスさん、じっとしていてくださいね! 迂闊に動くと、手足のどこかがなくなってしまいますか……らッ!」
それから思い切り飛び跳ねると、尻尾の代わりの蛇――その牙で、フローレンスを捕まえている触手を思い切り食いちぎった。
『ギャアアース!?』
流石に触手を千切られるのは想定外だったのか、ヘルイーターが悶絶する。
その隙に、ルナがフローレンスを抱きかかえて着地した。
「ナイスだ、ルナ! 追撃を食らえ、『
『ギュギィ!』
指先から放たれた波動が、ヘルイーターを吹き飛ばした。
ひとまず隙ができたと判断して、俺はフローレンスに駆け寄った。
「ケガはないか、フローレンス?」
「あ、ありがとうね……リオン君、ルナちゃん……」
「他人をかばってピンチになるってところ、相変わらずなんだな」
向こう見ずで正義感が強くて、そのせいでピンチを何度も経験する。
でも――俺はそういうところが好きで、ゲームを楽しんでたって改めて実感したよ。
ついでに言うと、フローレンスに怪我をさせかけた奴を許せないって気持ちも、腹の底から湧き上がってきた。
「さて、と。俺の仲間に手を出したんだ――」
だからもう、俺はためらわなかった。
「――楽に死ねると思うなよ」
左目の眼帯を、外すのを。
赤と青の瞳が外気に
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