第九話【揺れる大地】

「――――なるほどね。そこでアタシと出会ったんだ」


 壮大なフェアリーの話を聞かされたリズは、バスケットに入っていたパンを食べながら納得した。

 正直、宇宙なんてものが存在するのかも、星樹という存在も、いまいちピンと来ない。


 ただフェアリーが強い理由がわかった。

 あれだけ苛烈な戦場で戦っていたならゴーレムの相手なんて容易いのもわかる。


 そして一番はフェアリーがやたらと急いでいる理由。

 これがハッキリとわかった。

 今この瞬間も空の上で仲間たちがリーパーの大軍と戦っているんだ。

 しかも多勢に無勢なら尚更フェアリーの離脱は大きい。

 フェアリーが終始落ち着きがないのは仕方ないことだったんだ。

  

「理解して頂けましたか。本来なら私が助かることはありませんでした。下界に落ちた妖精はみんな誰にも気づかれず消えていくからです。でもリズさんには私が視えていた。そのおかげで助けてもらえて……本当に奇跡としか言い様がありません。ありがとうございますリズさん」


 確かに奇跡だ。 

 この広い世界でたまたま落ちた先に妖精が視えるリズがいた。

 視えない人間だったらフェアリーは死んでいた。

 本当に奇跡としか言い様がない。


「いいわよたまたまなんだから。それより精霊の話に戻すけど、精霊はどこにいるの?」


「わかりません」


「………………は?」


「精霊さま方は特定の場所に居続けることがないので、わかりません」


「なにそれ。じゃあどうやって探すのよ?」


「手当たり次第に探すしかないですね」


「それじゃいつになるか分からないじゃないのよ! なんかアテとかないのあんた?」


「いやぁアテとか言われましても……私も下界はこれが初めてでして……」


 縮こまるフェアリーにリズは呆れて片手で顔を覆った。

 

「……フランシアさんに相談した方がいいかもしれないわね」


「フランシアさん?」っと首を傾げるフェアリーの手を掴んでリズは借家から出た。


「リズさん? どこ行くんですか?」


「フランシアさんのご自宅よ。場所は知ってるから付いてきて。あと早く村を出る許可も貰わないとダメでしょう?」


「ぁあリズさん! ありがとうございます! 協力に感謝します!」


 パアッと明るい笑顔になったフェアリーに、ちょっと照れくささを感じたリズは顔を合わせず前を見て歩いた。

 

 故郷の消滅・両親と幼馴染の事で死にたくなっていたリズにとっては、とりあえず何かしら動いていた方が気が紛れるのもあった。


 都会への夢も、王子の妃となる夢も、全てがどうでもよくなっていたから。

 今はとにかくこのフェアリーを助けてあげよう。

 他にやることもない空っぽな自分にはちょうどいい。


 フェアリーを助け終えたら、その時は……人知れず朽ち果てるか?

 大勢の人間を殺してしまった自分が幸せを目指すなどおこがましい。


 村の中には妊婦の人だっていた。

 お腹にいる赤ちゃんを……まだ始まってもいない人生を終わらせた罪に、神ならぬ自分が報いられる道理はない。


 だからアタシは幸せになっちゃダメなんだ。

 生きてちゃいけない存在なんだ。

 でもフェアリーの言うことが本当で、星樹が枯れると世界が滅ぶなら、せめてもの罪滅ぼしとして協力しよう。


 リズはそう決意し、フェアリーの手を引き続けた。

 そしてファレーズの中央広場まで来た。

 ここはやはり人が集まる場所なのか村人たちがあちこちで談笑している。


 そこを通り過ぎてフランシア邸を目指そうとしたその時、突如として地面が揺れ始めた。

 グラグラと小さな揺れ次第に大きくなり始め、周りから悲鳴が聞こえ出す。

 リズとフェアリーもその激しい揺れに足を取られて動けなくなった。


「な、なにこれ!? 地震!?」


「いえ……これは! ノーム様が出てきます!」


「え!?」


【土の精霊ノーム】!?

 出てくる!?

 

 リズは地面を見ると、青い光が出ていることに気づいた。

 フェアリーの身体から出ていたあの光と似ている。

 その光は徐々に強くなっている。


「フェアリー! なにが起こってるの!?」


「ノーム様が地上へ出ようとしています! でも、なぜこんな人間の集まる場所のド真ん中で!?」


 地面から溢れ出す青い光が密集し始め、それは巨大な人の形となっていく。

 それは近くの家と比較しても圧倒的な大きさで、優に三十メートルはある。

 

 次第に実体が形成され、ゴツゴツとした土の身体が露わになった。人面を模した厳つい顔にはヒゲが垂れている。

 それはまさに地上に現れた土の巨人だった。

 

 あまりにも巨大なノームを見上げるリズや村人たち。

 そんな中でフェアリーだけが前に出る。


「ノーム様! どうしてこんな村の――――」


『グォオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 ノームが咆哮を発した。

 それは衝撃波となり周囲を襲い、リズや村人たちを吹き飛ばす。


「きゃああああああああああ!」

「リズさん!」


 フェアリーが駆け付け、吹き飛ぶリズに追いついてなんとか抱き寄せた。

 近くの大岩に激突したが、フェアリーは自分の背中を盾にして受けリズを守る。


 巨人ノームはファレーズのド真ん中で暴れ出し、近くの家などを破壊していく。


「うわあああああああああ!」

「たすけてえええええええ!」

「なんだこの巨人は!?」

「みんな逃げろおおおおお!」


 村人たちが散っていき、ノームはひたすらに暴れ続ける。


「な……なによあれ……あれが精霊なの!? なんで襲ってくるの!?」


 震える声でリズが言うと、フェアリーは険しい顔で答えた。


「精霊は人間を襲ったりなんかしません! この世界の生物たちはみんな我々が護るべき対象なんです!」


「じゃあアレはなんなの!? さっきあんたノームって言ってたじゃない!」


「だからおかしいんです! 精霊さまが人間を襲うはずは……!」


 ノームは近くの家を持ち上げ投げ飛ばし、木を薙ぎ倒して、大岩を砕いた。

 とても正気とは思えない暴れっぷりだった。


「いけませんね……ノーム様は私が抑えます。リズさんは村人たちの避難を!」


「あ、あんなデカいのと戦うの!? 一人で!?」


「精霊さまは人間の敵う相手ではありません。おそらくノーム様はまだ本気で暴れてはいないようです。ノーム様が本気になれば大陸そのものを一瞬で粉砕できます」


「大陸を……粉砕!?」


 さすがにゾッとした。

 そんなことされたらどこへ逃げても避けられないじゃないか。

 

「私はノーム様の説得を試みて見ます。その間にリズさんはできるだけ遠くへ避難してください」


 一方的に言い放ってフェアリーはノームへ突撃していった。

 

「あ! フェアリー!」


 遠くへって言っても、あんまり離れたらフェアリーの身体が……

 範囲も分かんないのにどうすれば。

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星樹の守護者 〜リズとフェアリーの奇跡〜 ミズノみすぎ @mizunomisngi

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