第八話【定めを受けた妖精】

 宇宙の彼方に広がる無限の闇の中、星々が輝きを放つ。

 その中を自由自在に泳ぐ大きなリーパーの姿が赤い眼を光らせながら迫って来る。


 宇宙空間に浮かぶリーパーは茶色い軟体生物だ。

 多数の触手を持ち、その触手の中には奴らの武器である鎌を隠し持っている。


 リーパーは無重力の中でも躍動感を持ちながら、柔らかな触手を使って周囲の宇宙塵や小惑星をどかし前進してくる。


 宇宙に揺れる触手は透明感がありながらも非常に頑丈で、さまざまな方向にしなる。リーパーはこの宇宙を素早く泳ぎ、目標である星樹へとひたすら突き進む。


 それを阻止すべく星樹の守護者フェアリーたちが応戦。

 互いに射程圏内に入ると凄まじい数の光線が弾幕として撃ち放たれ交差する。


 フェアリーはリーパーの赤い光線を回避しながら【流星】を撃ち返し二体を仕留める。

 すると隣にいた仲間がリーパーの赤い光線を浴びて蒸発するのが見えた。


 嘆く間もなく次のリーパーが肉薄し、フェアリーはすれ違いざまに【星剣】で斬り抜いた。


 刹那! 次のリーパーが飛び掛かってくる!

 咄嗟に【星剣】で防御し、リーパーの釜を受け止めた。

 鍔迫り合いになり、そこからさらに別のリーパーがフェアリーを狙う。


『くっ!』


 脇から攻撃されると思ったが、駆けつけてくれた仲間のフェアリーがカバーしてくれた。


『大丈夫か! コイツは任せろ!』


『感謝します!』


 仲間のフェアリーもリーパーと激しい剣戟を交え始める。

 当のフェアリーは鍔迫り合いに押し勝ちリーパーの体幹を崩した。

 その隙を逃さず敵の顔を【星剣】で貫く。


『ぐぁあああああ!』


 リーパー撃破とほぼ同時に先程カバーしてくれた仲間の悲鳴が聞こえた。

 リーパーの鎌を突き刺され絶命していた。


 お互いに目前の敵を撃破したフェアリーとリーパーは光線を撃ち合う。

 互いに避けて流れるように近接戦闘!

 何合かの剣戟を交えて最後にパリィを決めたフェアリーはリーパーの胴体を真っ二つに斬り裂いた。


 息づく間もなく次のリーパーたちが迫って来る。

 赤い光線の弾幕が次々と仲間のフェアリーを蒸発させていく。

【流星】の弾幕もリーパーを焼いていくが、圧倒的な物量を前にフェアリーたちは押されていった。


 リーパーの数はフェアリーたちの約三倍以上。

 それを捌くにはあまりに戦力差が大きかった。

 苛烈を極める戦場の中、フェアリーはついにリーパーに羽をやられて機動力を失ってしまう。


 その隙をリーパーが見逃すはずもなく、フェアリーに鎌を振りかざしてきた。

【星剣】で防御したが激突した武器同士が弾かれ、フェアリーは残った【星剣】の片割れで攻撃を続行。


 しかし振りかざす前にリーパーに組み付かれ、取っ組み合いになった。

【星剣】を振らせまいと触手でフェアリーの腕を押さえるリーパー。

 なんとか剣を振ろうともがくフェアリー。


 もがきつつフェアリーは周囲に仲間がいないことに気づいた。戦場は真上。いつの間にか高度を下げてしまっていたようだ。


 まずい! このままでは下界の重力に捕まる!

 

 気づいた時にはすでに遅く、フェアリーの身体はガクンと一気に降下速度が上がった。

 フェアリーはリーパーを蹴り飛ばし【流星】を撃った。

 しかし降下中のせいか狙いを外してしまう。

 リーパーも赤い光線を放ってくるが当たらない。


 次第に二人の距離が空いていき、リーパーは見えなくなった。


 なんとか助かったが重力に捕まった。

 どんどん下界に落ちていき、その速度は止められない。

 

 ダメだ! 羽がやられてて戻れない!

 

 戦場が見えなくなり、ついに下界の大気に突入した。

 フェアリーの全身から青い光が溢れ出す。

 星樹の加護を授かっていないフェアリーは、下界では生きていられない。


 この青い光はフェアリーの生命エネルギーそのもの。

 加護もなく下界へ落ちた妖精の末路は消滅のみ。


 これまでかとフェアリーは諦めた。

 70万年間の長き生命が終わろうとしていた。

 終わるはずだった。


 しかしこのフェアリーにはまだ役目が残っていたらしく、降下したその先で運命の出会いを果たす。


 それがリズ・リンドだった。

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