ワンルーム・トーク
伊南
新しい一年の始まり
「今年は女の子にモテるような何かを始めたい」
「…………」
こたつに入り、みかんを食べながら。
曇りなき眼で邪念たっぷりの発言をしてきた剛志を俺は真っ直ぐ見返した。
「……何でも良いから反応してくれね?」
五分ほど何も言わずにいたら寂しそうな表情でこちらを見てきたので、大きくため息をついてから口を開く。
「年明け早々煩悩まみれの発言をするな」
「そういう正論は要らない」
「大晦日に戻って除夜の鐘を間近で最初から最後まで聞いたら良いんじゃないか」
「そんな辛辣な嫌味も要らん!」
何でも良いと言ったくせに我侭だな。
呆れながら視線を向ければ、剛志はすがるような表情を浮かべたまま、パシッと手を合わせる。
「なー、良いじゃん孝市ー。お前彼女持ちなんだしアドバイスくれよー」
「……は?」
友人からの、思ってもいなかった発言に声が出る。対面の相手はふふん、と鼻を鳴らしながら得意気に胸を張った。
「気付いてないと思ったか! お前が優奈と付き合いだしたの知ってるんだからな!」
「…………」
何も言わず、ぽかんとしながら剛志を見ていると、一方の相手は「ん?」と首を傾げた。
「あれ、もしかして違う? 初詣の時、何か空気が違う気がしたからもしかしたら、と思ってカマかけてみたんだけど」
カマかよ。焦る。
内心でホッと胸を撫で下ろしながらため息をひとつ。
それから話題を変えるために口を開いた。
「くだらねぇ事ばっか言ってんな。……てか、去年の秋頃に『バンドがモテる!』って言ってギターやってなかったか。あれは?」
「あー、バンド? 駄目駄目」
俺の言葉に剛志は首と手を横に大きく振る。
「いくらギターを勉強して上手くなっても結局ボーカルに持っていかれる。ていうか持っていかれた」
「…………」
何かを思い出したようにふっと視線を逸らした剛志の姿に、俺はこの話題を続けるのを止めた。
「……ま、まぁ、なんだ。モテたいっていうんならもう少し真面目に接すれば良いだろ。フザけた態度ばっかり取るから相手にされないんだ」
「え、フランクな方が相手してもらいやすくね?」
「上手くいってないからこうなってるんだろ」
不思議そうな表情の剛志に呆れを向けてから缶ビールに手を伸ばし──中身が空になっているのに気がつき、息をついてから冷蔵庫に向かって。……目的の物が一本も無い事にため息をついた。
「あれ、在庫切れ?」
空き缶をゴミ箱に捨てた後、剛志が冷蔵庫の中を横から覗き込む。
「呑み足りないなー。買いに行こうぜ」
「そうするか」
そう言いながら机に置いてあった財布と携帯電話を手に取る。
「……まぁ見てろよ。今年のオレは今までと違うぞ。新しく生まれ変わって、クリスマスを迎える頃には可愛い彼女をだなぁ……」
「年明け直後にクリスマスの話をするなよ」
「何言ってんだ、一年なんてあっという間だぞ。年始のスタートが肝心だ」
「はいはい、頑張れよ」
「応援が軽い! もっと親身になって応援しろよ!」
「はいはい」
不服そうな声を上げる剛志の言葉を流しながら、俺は玄関のドアを開けて。
剛志が出るのを待ってからゆっくりとドアを閉めて部屋を出た。
ワンルーム・トーク 伊南 @inan-hawk
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