第53話 自分のために2

「おらよ!」


俺は天郎に向かって剣を振るも金属音とともに天郎の腕の皮膚で止まる。


「倒せるといいですね」


俺の腕はギリギリ折れてなかったのでまだまだ使えそうだ。

そんな事はどうでも良くてさっきの空気の流れだけで透明化を見抜いて来るのをどうすればいいのか。


「グランドランス!」


雫の魔法で天郎は少し吹っ飛ぶが何も無かったように立っている。


「ジャストアタック!」


有輝が天郎に向かって殴りかかるも天郎はヒョイと難なくかわす。


「スペースブレイク!」

「エアーウォール!」


天郎は有輝に向かってものすごい速度で殴るが星奏の能力のおかげで有輝は結構吹っ飛ぶ程度ですむ。


「この程度ですか?まぁ人の身ですからね。あっそうだ、せっかくだしこのセリフを言っておきましょう」


一体何を言うんだ。


「お前もゾンビにならないか?」

「ならないっすよ」


有輝はすぐに戻ってきて何も考えずに天郎を殴る。

ゾンビにはなりたくないな。だって…だって…


「ちなみに私が保証できるのは中級ゾンビまでですよ」


じゃあないな。

中級ゾンビなんかにはなりたくないぞ。

知能下がるし。


「早く決着をつけませんか?こんなお話してる暇は私には無いのですよ」

「お前が言い出したんだろ?」


なんか疲れてきた。


「あなた達みたいな人達に負ける訳にはいかないのですよ。計画のために、私の野望のために」


急に何を言い出しているのだろうか?



私は昔、生まれつき目が見えませんでした。


「こいつ杖なんか持ってきてるぞ。じじいみてぇ」


周りからバカにされるなんて日常茶飯事でしたので全然辛くなんてありませんでしたよ。

でも…


「天郎をバカにすんなよ」

「けっ」


いじめっ子は先生に言われるとすぐにどこかへ行く。


「天郎、お前は目が見えないんだからな、無理するなよ。何かあったら先生がサポートするから」

「そうだよ天郎君、私もなんとかするから。だって天郎君は目が見えないんだもんね」


目が見えないだけで特別扱いされるのが嫌でした。

本当は周りと同じように扱って欲しい。

普通の子でいたい。

なのに私は目が見えないという障害を持っていたせいでそれが出来ませんでした。

いつも誰かに可哀想な目で見られる毎日、それが嫌で嫌で私は別の誰かがこんな屈辱を味わってるいのだとずっと考えるようにしていた。

そしたらある日、体が誰かに操られているような感じがした。


[誰だ!誰が僕の体をあやつっているんだ!?]


何度も何度も問うと私と同じようなでもすごく力強い声が聞こえてくる。


[俺か?俺はそうだな、士郎とでも呼んでくれや]

[士郎?誰だお前は?なんで僕の体を操っている!?]

[簡単な話だろ。お前がそう願ったからだ。何度も何度も強く願ったからだ]


どうゆう事だと思っていましたがすぐに気づきましたよ。


[お前は普通の子として扱われたいんだろ?それを俺なり解釈した結果、周りに俺は誰かに頼らなくても強い事を証明すればいいと分かった]


解釈の仕方を間違えていると思うがもしかしたらと今の状況を問う、すると


[今か?今はそうだな。目が見えないから分からないがお前をいじめてた奴らは鼻血出しながら倒れてお前に救いの手を出していた先生と女子が雰囲気を考えるに俺を見て畏怖してると言ったところか?]


…最悪だ。

確かにそうすれば誰かに特別扱いをされることは無くなるかもしれない。

だけど誰かからの信用までも失ってしまうじゃないか。


[それでもいいんじゃないか?だってお前、あいつらの事も信用してないだろ]


心を読まれたか。

そんなこともできるなんて…


[俺、すごいだろ?]


少しウザイが士郎とならいいコンビになれそうな気がした。

そして大人になり私の野望を叶えるための行動が始まるのです。



[おい、天郎!早く寝ろ!]

[わかってる!けどダメなんだ。どう考えても最終的には人類を滅ぼした方が…]

[お前の野望は俺だって充分理解してるさ。障がい者の差別を無くす事だろ?]


どう考えても差別なんて無くせない。

普通に接するだけで大丈夫なはずなのに。

助けてもらう所以外は普通に接するだけでいいはずなのに…なんで…


[流石の俺でもそれは分からない]


心を読んでの会話はやめて欲しい。


[人類滅亡なんてただの一般人の僕達には無理だよな]

[諦めるのか?]


どう考えても人類を滅ぼすしか…


[もっと違う方法があるかもしれないだろ?]

[ない!他の方法なんて!士郎は知ってるか?生活保護を受け取る時の周りの視線。あいつら俺たちの金だぞと言わんばかりの視線を向けてくるんだぜ]


そいつらをどうすればいいんだ。

僕はただ普通に働いて生きるのが難しいからお金を貰ってるだけなのに。

それすらも理解が出来ないなんて。


[じゃあもうやるか。人間を滅ぼすんだろ?]

[本気でやるつもりか?そんなの不可能だ]

[不可能でもやるんだよ。分からせてやりたいんだろ?お前みたいなやつだからこそ周りと同じように接して欲しいと]


確かに僕達は助けが必要な時が必ずある。

でもその時以外は普通に接して欲しいんだ。

それが叶わないと言うなら。


[分かったやる]


と言った瞬間緊急避難速報の音がなる。


[なんだ?]

[逃げるぞ]


僕は急いで家のドアを開け外に出る。


[そんなに急ぐなら俺が体を動かすぞ]

[この程度なら…]


僕は避難所に向けて走り出す。

この辺の地域なら色々頭に入れてるから目が見えなくても走る程度なら大丈夫だ。


[で、一体なんなんだ?この警報は?]

[僕もそんな知らない。でもなんかやばい気がする]


そんな事を話していると突然何かに押されその場に倒れる。


「あっあっあっ、その…ごめんなさい!」


男と思わしき声の人はそのまま走っていく。


[なんだ?体が動かない。てか、だんだん眠くなってきたような]

[当たりどころが悪かったってやつだな]


せっかく僕みたいな思いをさせないための活動内容が決まったって言うのにな。

そして僕はそのまま眠りにつく。



[ん?ここは?]


僕はゆっくり目を覚ます。

もちろん目をつむったまま。


「あっ起きた、起きた。やぁ僕はね…作戦上教祖とでも呼んでくれたまえ」

[周りたくさんの人の気配がするぞ]


士郎がそう言いようやく気づく。

僕は誰かに周りを囲まれている。


「じゃあ教祖…さん?あなたは何がしたいのですか?」

「僕?僕はね…人類を滅ぼしたいんだ」


僕と同じこころざしを持ってる人がいたんだ。


「君…もしかして僕と同じで人類を滅ぼしたいと思っているのかい?」


心を読まれたのかと警戒していると。


「そんなに警戒しないでくれよ。君のその反応を見ればわかるよ。君の驚きは僕と一緒のこころざしを持っているんだの驚きだろ?」


何を言ってるか分からないがその通りだ。


「ならちょうどよかった。取引をしないか?僕の部下になってよ。部下になってくれたらその目を治してあげるよ」


この目を?僕がそう驚いていると


「そんな嘘に引っかかるかよ!俺がそんなバカに見えたか?」


士郎が勝手に僕の体を使って喋る。


「もしかして君って二重人格?まぁそれはいいや。騙してなんかないさ。至って真剣、真剣大真面目」


そんな美味しい話があるって言うのか?


「じゃあ手を組まない訳が無い」

[こいつを信じるってのか?]

[こいつのこの声の感じ、かなり真剣だ。信じない訳がない]

「じゃあお願いします」

「いい子だね。大丈夫、痛くはしないから」


僕は教祖と言う人に首を切られる。

するとこれまで経験した人間への憎しみがかなり大きくなって思い出す。

そして教祖は僕の首を元の位置に戻す。


「どうかな?」

「う、うぅ、うわっ眩しい」


今まで見える事がなかった目に光が入る。


「えっ?」


僕は周りを見て驚愕する。


「あっ、言うのを忘れていたね。こいつらはゾンビさ。ちなみに今人に擬態してるけど僕もゾンビだよ」


一応聞いた事はある。

ゾンビとは歩く死体みたいな物だと。


「ちなみに君ももうゾンビだよ。僕と一緒で擬態できるけどね」


そう言われ自分の腕を見ると周りのゾンビ達と同じように皮ふはただれ肉は腐っていた。


「ここじゃなんだし隠れ家にでも案内するよ。作戦についても一応話しておかないとね」


そう言って教祖と名乗る…女の子?

声は声変わり前の男みたいだが…まぁいいや。

教祖に着いていくことにした。



「作戦はこんなのだけど大丈夫かな?」

「一応は…」


作戦は至ってシンプル。

どんなものでもいいから宗教を作り人をたくさん集める。

そして油断したところで大量にゾンビ化。

教祖さんはゾンビを操れるらしいから日本で大量に確保したゾンビと外国で大量に確保したゾンビそして僕達みたいな強いゾンビのコンボで残った人類を根絶やしにしに行くらしい。


「ちなみに君は関係ないけど外国からのゾンビはちょくちょく日本に送るよ。生き残ってる人達がゾンビに対して対策し始められたら困るからね」


へぇー、僕は別にそれに携わる訳じゃないから別にいいや。


「君の役割は作った宗教で枢機卿という立場で大量の人達を支配する事。いいね?」

「もちろんです」


宗教のお偉いさんってかなり敬語使ってるイメージあるし敬語使うようにしておこう。


[あっ、士郎。君の出番はかなり減る事を伝えておく、おき、おきます]

[…おい!]

[仕方ないだ、なく、ないでしょう?]


士郎がかなり怒った声で言ってくる。


[だってお前…あなた、敬語使えないだ、でしょう?]

[せっかくなんだからもうちょっと俺に景色というのを見せてくれよ。俺だって見た事ないんだぞ?]

[それは最後の楽しみに取っておいてく…ください。景色を見て主導権を返したくないと言われたらたまったもんじゃな…ありません]


士郎は大きなため息をつく。


[俺とお前の仲だろうが。ちょっとは信用してくれよ]


信用はして…ます。

けど、これ以上おま…あなたに迷惑をかけたくな…ありません。

士郎のこと…です。

今、交代したらお前に人殺しは無理だろとか言って主導権を握り続け…るつもりでしょう。

士郎はぼ僕の思考を見透かしたのか、舌打ちをする。


[もし成功したらしばらくは体を俺に貸してくれると約束できるか?]

[しょうがないな…ないですね]


敬語を意識してやるって大変だ…ですね。


「士郎君と言ったかな?その子との話は済んだかい?」

「はい」

「じゃあ仲間を集めに行くよ、天朗君」


私に人類を見返すチャンスを与えてくれた教祖様のために私は負ける訳にはいかないのです。



「ははは、まさかこんなにも早くあの人を出す日が来るとは…」


天朗が覚悟を決めたような顔で言ってくる。


「一応買っておいて良かったですよ。これであの人は充分に戦えますし」


そう言って天朗は腰にかけたままであった大剣を手に取る。

また迷惑をかけますけど許してくださいね。


「予定よりも早かったですよ…士郎」

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世界の終わり ワクルス @wakulusu4696

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