ひとつめこぞう
零
第1話
その子は、いつのころからか私の夢に現れる。
名を聞くと、ひとつめこぞうと答えた。
でも、彼は伝え聞く一つ目小僧の姿とはずいぶん違う姿かたちをしていた。
まず、そもそも目が二つある。
服装も、白い無地のTシャツにデニム。
その辺の公園で遊んでいても違和感はないだろう。
ただ一つ、違和感があるとすれば、彼の髪型だ。
ひと房の前髪だけが異様に長く、他は刈り上げられている。
だが、今日日、少々奇抜な髪をした子供がいてもおかしくはないから、これも個性といえばそうなのだろう。
最も、その髪型を見慣れる頃には、私は彼が出てくるとそこが夢のフィールドであると即座に気づくようになっていた。
つまり、そもそも夢の存在である彼には現実のルールは適用されない。
彼は、最初に私の夢に現れたころからそうであったと思うが、いつも夢の中で遊び、別れ際に何かを手渡す、ということを繰り返していた。
彼と遊ぶとき、私はいつでも彼と同じような幼い子供の姿になって、子供の遊びに興じた。
時には、とても古い時代の遊びをすることもあったように思う。
今となっては記憶もおぼろげなのだが。
何よりもおぼろげなのは、彼がいつも手渡した「何か」なのだ。
彼はいつもにこにこと機嫌よさそうに何かを私にくれる。
それをもらった時に、確かに私は心躍らせてそれを受け取ったように思う。
けれど、夢から覚めたとき、多くの場合において、私はそれが何だったのかも、その心臓の高鳴りも、あるいは、そもそも彼の夢を見たことすら覚えていないときがある。
ただぼんやりと、誰かと遊び、誰かから何かを受け取る夢を見たような気がするということを覚えているだけで。
それは、ずいぶん久しぶりに彼の夢を見たときのことだった。
彼と私はいつものように野山を走り回って遊び、くたびれてのっぱらにごろりと身を横たえた。
彼はいつにもまして上機嫌に、私の胸の上に自分の頭を乗せた。
私は好奇心に駆られて彼の前髪に触れた。
髪どころか何の動物の毛とも思えないような、なんとも言い難い、甘く柔らかで、それでいてどこか畏怖を感じるような手触りだった。
ふと、その感触に覚えがあることに気が付いた。
いつ、どこでだったか。
ただ、古い記憶であることは確かだった。
彼は体を起こして、空を仰いだ。
そして、その手を高く伸ばして、空の星を一つ捕まえた。
それをそっと私の手に握らせた。
夢の世界から現実へ、恐らくは彼の目の前から私が消える刹那、彼の潤んだ唇が、「今度は失くすなよ」とつぶやいたように思う。
思えばそれが、私が真に私の道を歩み始めた始まりだったのかもしれない。
と、今になって、思うのだ。
いつでも幸いへと向かう道筋は、気づかないほど些細なことから始まる。
前だけを見ていたら気づかない。
振り向いて初めてわかる、ひとつめの星。
ひとつめこぞう 零 @reimitsuki
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