魔法学校の書初め
ユキ丸
冬休み
夏休みの読書感想文が苦手だったように、冬休みの書初めが苦手だった。
ぼくは魔法学校の一年生。初めての冬休みの宿題だと云うのに、なんと書初めがあった。魔法学校の生徒なんて、みんな字が下手なものさ。ぼくは高をくくっていた。ぼくは練習もせずに、魔法上達と書いた。とくに自信もなかったけど、まあそれが本当に今年の目標だったからね。良いことには、宿題はそれだけだったのさ。ぼくは、一筆書いたあと、ママンの作った雑煮やらフィッシュパイやらきんとんやら、好きなものだけ摘んで、あとは横になっていたんだ。余裕ってところかな。
それで今日、冬休みが明けて三学期がスタートした。みんな神妙な面持ちで、巻紙を手にしている。なんかおかしいぞ。ぼくの書き初めなんて大したことないんだけど、こんなんで大丈夫だったのかな? ぼくはいささか不安になってきた。
「ねえ、サンタリア。みんなどうかしたの?」
ぼくがとなりの席のサンタリアに話しかけると、サンタリアは驚いた顔をして、
「マドック、きみは知らないのかい? 今からこの書初めを基に、この学年最後の席替えがあるんだよ」
「へええ」
ぼくはそれでも、みんなが神妙な顔になる理由がよく分からなかった。
こほん。テナ先生がやって来た。みんな一斉に静かになった。
「三学期からみなさんと一緒にお勉強する編入生を紹介します」
テナ先生が大きな声で云うと、教室の前の扉が開いて、見たこともないきれいな女の子が入って来たんだ。みんなが息を呑むのが分かった。
「帝都魔法本校から編入しましたマカトニーです。よろしくお願いします」
その少女は、花が舞うような声で云った。ぼくは、マカトニーをじいっと見入ってしまった。それほど、彼女は美しかった。
「では、冬休みに書いた書初めを見せてください」
テナ先生が云うと、みんなが巻物を広げはじめた。下から上へ書いた子、裏文字を書いた子、さらさらと象形文字で書いた子、いろいろいた中で、テナ先生がゆっくりと見て回っていた。ああどうしよう、ぼくの番になる。そうしてテナ先生はぼくの前で立ち止まった。
「見事だ」
え。そんなこと……。
「見事に読めない」
サンタリアが驚いてぼくの方を見ていた。
「先生、まさか、マカトニーの隣りの席は、マドックじゃあないですよね」
「いや、そのまさかですね。マドック、よくできました。一番前の席に座りなさい」
いやそんなはずはないのだけど。ぼくがおどおどしていると、
「読めない字を書いてきなさいってテナ先生が宿題を出したときに、ぼくはやられたと思ったんだ。ぼくになんかあんな字は書けないよね」
向こうの席で、大柄のテイトンが嫌味を混ぜながら大きな声で云うのが聞えた。
「静かにしなさい。これも敵と戦うためには必要な勉強なのです」
テナ先生は平然として云った。
そうしてぼくは、こうしていま、暗号術師として魔法学校のOB師団の副団長を務めるまでになったのだった。ぼくが難読解暗号を鍛錬できたのは、となりの席にマカトニーが来てくれたおかげなんだといまではそう思っている。
(了)
魔法学校の書初め ユキ丸 @minty_minty
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