【エッセイ】読書はじめ

冬野ゆな

第1話 タイトルからもあらすじからも何もわからなかった小説を読んだ話

 スタートの文字を見た。

 いつもならこれでどんな小説を書こうか考えるところなのだが、どうも今回は私自身が何かを書きたくなってしまったらしい。

 他ならぬ今日のできごとだ。

 スタートのお題が出たのが昼だから、その直前だ。


 年が変わってはじめて本になっている小説を読んだという話なので、読書はじめとでもいうべきか。

 といっても、カクヨムなどでも読んでいたので、決して厳密なスタートではない。新しい本を手に取ったスタートという事にしておこう。ちなみに実物の本か電子書籍かについては、私は好きなように読めばいいというスタンスなので特に言うべきことはない。


 とにかく私は前から気になっていた本にようやく着手した。

 地下鉄に乗る用事があったので、一作くらいは読めるだろうと思った。

 忘れもしない12月31日に、他の本とまとめて買った。それから10日後である今日、地下鉄に乗ってようやく本を読んだ。この小説が気になっていたのは理由があった。

 大筋がわからないのだ。


 以前ほど頻繁でないにしろ、普通の人より多少読んでいる自覚はある。だからあらすじで大筋さえつかめれば、どんな話かある程度は予測がつくと思い込んでいた。心構えができるのだ。少なくともコメディなのかシリアスなのか、どんな心境で読めばいいのかくらいは想像がつくとタカをくくっていた。

 だが違った。

 短編集だったので、タイトルの一覧と紹介文くらいは読んでいたのだが、あらすじからどんな話なのかまったく想像がつかなかった。

 意味不明だったとか、理解できなかったとかじゃない。

 完全に私の想像力が追いついていなかった。


 近年のライトノベルなら、良くも悪くもタイトルがあらすじを兼ねている場合もある。

 そうでなくても、異世界とついていれば異世界が舞台なんだなとわかる。「転生した主人公が銃を作る」だの「転移した先でハーレムを作る」だの書いてあれば、なんとなく大筋がどんな話か予想はつくと思う。あらすじ系のタイトルでなくても、「人外と人間がタッグを組んで、村の秘密を暴くんだな」と思えるくらいの大筋がわかれば、期待や予想が持てるものだ。そうして手にとったり、身構えたり、読まなかったりできる。


 でも違った。

 ぜんぜんわからなかった。

 それは「最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選」という短編集にある一編だった。


 タイトルは「ダルサリー」。

 はいわからない。タイトルだけでぜんぜんわからない!

 まずこのタイトル、作中に出てくる架空都市の名前だ。そりゃわからんよ。そしてますますわからないのが、この架空都市はマッドサイエンティストによって牛乳瓶の中に造られたメトロポリスだというのである。

 はいわからない!(二回目)

 そもそもマッドサイエンティストに作られた牛乳瓶の中の世界って何だ。何が起きるのか、どういう大筋なのか、ぜんぜんわからなかった。どこへ着地するのかまったくわからない。とっかかりが無い。ここからどんな展開に行き着くんだ。感想のひとつでもあれば何か掴めるのではと思ったがダメだった。これは私の想像の範囲外にある。

 久々だった。

 こうなるともう、逆に気になってくる。

 どんな話なのか確かめなければ、この気持ちをおさえることはできない。

 読みたい。


 そこそこのお値段なのでしばし相談しながらだったが、買って良かった。

 そこそこの量の本を読んで、あらすじさえわかれば大筋はわかると思い込んでいたが、どうやら井の中の蛙だったらしい。想像の範囲外なんてものはごまんとあるのだ。嬉しい。ぜんぶ取り込みたい。

 久々に小説でまともにぶん殴られた気分だ。

 これが気を引き締め直す新たなスタートということか。


 そういえば、私はこれまで小説ばかりでエッセイなんてものをとんと書いたことがなかった。

 どうやらこれも新たなスタートのようだ。

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