賢者に至るはじまりの物語

弥生

第1話

 ガツンと頭を打ち付けられたような衝撃を受けた。

 始めてくる場所のはずなのに、見覚えのある場所。

 俺はここを知っている?

 そうだ、ここは魔法使いの学園で、由緒正しき者達が通う場所。

 学園のトップ、『賢者』を目指して皆切磋琢磨する。

 その入学式、ここからすべてが始まるというシーン。


 そうだ、俺が見覚えがあるのはゲームとしてこの場面をプレイしたから。

 じゃあきっと、そのゲームの主役二人もきっと……。


「おい、西の賢帝の子息シルベリー様だ」

「あちらは東の雷王の末弟ライカ様だぞ」


 シルベリーと呼ばれた細身の青年は、銀の髪を揺らして鋭く一瞥する。

 ライカと呼ばれた屈託のない青年は、短い赤髪をかきあげるとニヤリと笑った。


「へっ賢者の名は俺が貰う」

 ライカの分かりやすい挑発に、シルベリーは一瞬も揺らがず、嘲笑した。

「吠えろ蛮族。誰が賢者足り得るかは明確だ」


 んあーーこの出会いから二人は切磋琢磨して闇の使徒と呼ばれる賢者の座を狙う敵を追い詰めていくんだよな!!

 ゲームのプレイヤーはシルベリールートとライカルートをそれぞれクリアし、トゥルーエンドを目指すんだ。

 反発しあう二人のバディ兼ライバルの二人のやり取りは胸熱展開もあり、片時も見逃せなかった。


 けれど、このゲームはそれだけじゃない。

 二人のルートをクリアすると、トゥルーエンドへの道が開かれる。

 闇の使徒を打ち払い、どちらかが賢者へと至るのがクリア条件だ。

 だけどその賢者というのが……。

「選らばれし者を『賢者の石』へと生成する胸糞な展開……」

 どちらかが『賢者の石』として人の道を離れるそのルートは、トラウマとして名高い。


 俺は、どちらも好きだった。二人のやり取りがとても好きだった。

 だからこそ……俺は……。


「……二人とも賢者に成らせてたまるか。その為には、俺が賢者になってやる」


 二人が闇の使徒を追い払うのを支援しつつコツコツと賢者に至る試練を二人よりも多く越える。


 俺には、二つのルートをやった知識がある。

 名も無きモブだとしても俺は、きっと二人を出し抜いてみせる。


 この、入学式……ここから俺の物語はスタートする……!!


 これは推しを生かすためにモブが奮闘する物語であり、そのモブが意図せず目立ち、物語を改編しまくってしまう物語の、はじまりの一幕であった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

賢者に至るはじまりの物語 弥生 @chikira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画