ハチワレにゃんこの闘病が、飼い主の「スタート」を後押ししてくれた。
久遠 れんり
別れは来るもの
二〇二二年三月。
家で飼っていた、ハチワレのミックス猫は、二二歳でその生涯を閉じた。
遡ること三年前。
彼は、一緒に飼っていたアメショーが、腎不全により、一二歳で亡くなったときに、念のためと検査をした。
すると彼にも、腎不全の兆候が出ており、そこから点滴を三日に一度必要とする生活が始まった。
飼い主が、仕事柄、点滴をするのになれており、動物病院の先生が、自宅療養で良いですよとありがたい言葉をくれた。
そう、点滴だけでも、かなりお高い。
そうは言っても、血液検査は三ヶ月に一回。
点滴代も、病院代もかなりの負担ではある。
そのため、おバカな飼い主は、少しは生活の足しと考えて、小説を公開し始める。
ハチワレの彼は元々、山奥のお宅で飼われていた飼い猫の末っ子。
何だか、虐められていて、かわいそうだったと家の奥さんが貰ってきた。
そこから、家猫としての生活が始まった。
だが知識の無い飼い主に、ノミが居ると言って頭から洗われ、それも、のみ取りシャンプーでは効きが弱いと人間用で。
当然だが、後日動物病院で、飼い主は叱られる。
「人間用シャンプーは駄目です。あと牛乳も駄目ですからね。脂肪滴が大きすぎて吸収できません。猫用を与えてください」
そんな様子で、お医者さんに勧められるまま、彼は玉まで抜かれた。
そんな飼い主の元でも、にゃんこ人生を謳歌し、幸せであったと思いたい。
家に帰ると、じっと玄関を見ていた彼に、相棒が出来たのは七歳の頃。
すっかり家の主となっていたが、外を眺め黄昏れている日々。
特に、春と秋は黄昏れていたと思う。
近所で、猫の遠吠えが聞こえる頃。
春先に、「貰っちゃったと」簡単な感じで貰われてきたのは、アメリカンショートヘアの雌。
だが、その出会いは強烈で、ケージの網を挟んでのパンチ合戦は、二週間ほど続いただろう。
だが、やがて慣れる。
アメショーがケージから出た瞬間から、二匹は仲良しで。すっかり親子のようだった。
その仲の良さは羨ましいくらいで、ジャマをすると、猫なのに後ろ足キックを食らう。
そして、小学生だった家の子が、大きくなり。
順に家を出ていく。
そして、月日は流れ、息子が結婚をした頃。
田植えの準備のため、田舎で土を掘り返していると、アメショーの調子が悪い。
洗面所のボウルに入り、体重も落ちていると、留守番をしていた娘から連絡が入る。
そこから、わずか五日で彼女は行ってしまった。
アメショーに多い腎不全。
そして、彼だ。
気丈な感じではあるが、淋しいのだろう。
甘えんぼとなり。さらに、念のためという検査で、病気が見つかる。
彼も腎不全。
そして、長い治療が始まる。
だが、腎臓の糸球体は、壊れると復活はしない。
腎臓は、大事な器官のため二個あるが、猫の特性として、腎臓病になりやすい。
血液検査をしながら、量と回数を調整をしながら点滴をする。
だが、三ヶ月ごとの血液検査は、月を追うごとに期間が縮まり、短くなっていく。
点滴の後にもらえる、半練りのおやつ。
それだけを楽しみに、「シャー」と言いながらも、彼は頑張った。
だが、二〇二二年を迎えた頃から、急激に各値は悪くなっていく。
注射後の、半練りおやつも要らないという始末。
だが馬鹿な飼い主は、種類を取りそろえた店を探して試す。
その中でいくつか、好みを見つけて、食べてもらえる。
そんな中で二月。飼い主は小説を発表し始める。
カクヨムでは無く、別のところ。
だが、書き方も知らず、PVも伸びず、優しいコメント。
三点リーダーやハイフン、地の文と台詞。
誰がしゃべっているのか分からない。
心理描写が無く、淡々と話が続いている。
勉強してやり直せ。
そんな感じで、泣きながら推敲とアップの日々。
そして、仕事に行っている間に、謎の文が打たれ始める。
そうだよ。
すっかり甘えん坊になった彼は、膝に入ってきて打つだけではなく、居ないときにも執筆をしてくれた。
この頃は、一生懸命甘えてきた。
自身の存在が、確かにあったと言う事を、忘れるなと言うように……
当然のように、一緒に執筆をして、ついでにキーボードの上で寝る。
そう、気がつけば、長文が出来上がる。
残念だが、飼い主には読めなかった。
彼の長文は、同じ文字しか入らない。
そんな中、やはり、状態は悪化して体重が減ってくる。かなり口臭も匂い始める。
「良くないですね」
先生から、そんな言葉を頂き、毎週病院へ。
「何でも良いですので、食べさせて」
先生が、とうとう、そう言い始める。
その言葉で、覚悟を決める。
病気になって、塩分の少ない腎臓病用の餌しか与えていなかった。
だが…… である。
その言葉は正解で、どんどん食べる量は減り、痩せていく。
点滴は、尿を希釈するだけなので、栄養は入っていない。
いくつかの半練りおやつを食べてはくれるが、日に一本分食べれば良いほう。
そして、日が進むと。
もう、うしろ足も立たなくなり、体温が下がってきた。
そして数日。
某ウイルスの予防接種に行って、帰る途中。
奥さんから連絡が入る。
もう少しで、家という所で、彼は息を引き取ったようだ。
大量のおやつと、幾ばくかの点滴を残して。
葬儀をして、月が変わり。
彼のことも書いてみたが、話をまとめる事も出来ず削除をした。
いまだに、彼の存在を感じることもあるが、謎の執筆が行われることは無くなった。
だが、つい文章の中に、謎の文字列が無いか探してしまう。
多少不純な動機が切っ掛けで、始まった執筆だが、飼い主の心の安寧にも一役を買ってくれているのは間違いない。
自身の歳を考えると、もう、生き物を飼い始めることは出来ないだろうが、ストーリーの中でふと書いてみたくなる。
執筆をしていると、必ずふらふらと膝へ入ってきて、ジャマをする姿を思い出しながら。
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言い訳ですが、書き始めた切っ掛けは、当然これだけではありません。
色々考えて、書いてみようと。だけど、公開の切っ掛けにはなりました。
だけど、辛いときには、経験をしたばかりだと、形に出来ないものだと理解できました。
何事も経験ですが、慣れませんね。
ハチワレにゃんこの闘病が、飼い主の「スタート」を後押ししてくれた。 久遠 れんり @recmiya
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