決着は、そこで

惟風

この後ちゃんと男も殺す

 視界に入るだけでも数十人は客がいるのに、よく文香ふみかのこと見つけられたなと我ながら思う。

 ここはとあるホームセンター。

 入口近く、ごった返す人波の中に翻るベージュのコート。私のお気に入りのブランドのやつ。黒のロングブーツもそう。

 他の人からは私ってこんな風に見えてるんだ。まあ、悪くないんじゃない。

 背丈も体格もほとんど変わらない年子の姉妹だもの、あとは髪型まで同じにしたらパッと見じゃ誰も見分けがつかない。

 もちろん、目の前の妹はその通り私と同じ髪色と長さにきっちり揃えている。

 そうやって、いつも何でもかんでも私の真似をしてくるんだから。彼氏だけは真似できないから、そこはちゃあんと寝取る徹底ぶり。


「お姉ちゃん……」


 声をかける前に文香はこちらを振り返った。 青ざめてるけどメイクはすごく綺麗で、アイラインの引き方だけは私より上手。えらいね。


「ふふ。この世の終わりみたいな顔しちゃって」

 思わず噴き出しちゃった。


「何がおかしいのよ。もう何もかも終わりじゃない」


 文香が右手に提げたマイバッグからは、ノコギリの柄がはみ出している。金槌とビニール紐も買ったのかな。

 馬鹿ね。ブルーシート忘れてるじゃない、アンタは本当にいつも詰めが甘いんだから。

 わかるのよ。私も、アンタが寝取ってくれなかったら、きっと同じことしてた。

 彼ったら外面が異様に良いから、気づかなかったのよね。顔立ち以外はカス野郎だって。真新しい包帯が左の袖から見えてるよ。ひどいことされたね。

 私は避けるのが上手いから大きな怪我させられたことなかったけど。


 私といつも比べられて、いつもちょっとだけ私に追いつけなくて、私に憧れて、私に成り代わろうとして、でも上手く行かない文香。愚かで可愛い妹。

 今すぐ抱き締めてあげたいけど、荷物が一杯で両手が塞がってるの。ごめんね。

 でも大丈夫。お姉ちゃんが助けてあげる。この地獄から。

 鞄から包丁を取り出した私を見て、文香は目を見開いた。


「ちょっと、そんなモンで何しようってのよ……とうとうおかしくなっちゃったんじゃないの!?」


 私はそれを無視して真っ直ぐ包丁を投げた。


「ひっ」


 命中。

 投擲した刃物は、咄嗟に屈んだ妹の背後に迫っていたサメの眼窩を貫いた。

 周囲から歓声と悲鳴があがる。


 ここはとあるホームセンター。

 建物の周りは突如現れたサメの群れに包囲されている。私が倒した一頭を皮切りに、次々と侵入してきてあっという間に阿鼻叫喚。

 私は荷物の中から散弾銃を取り出して、残りを鞄ごと文香の方に押しやった。


「サメには、馬鹿も天才も綺麗もブスも、関係ないの。私達の区別だってどうでも良い。全員、ただのエサ」


 でも、ここで生き抜いたら、私達はサメにとって“そのへんのエサ”から“食物連鎖の王”になる。


「選びなさい。有象無象のエサで終わるか、サメを殺してヒエラルキーのトップになるか」


 言い終わる前に一発撃った。右前方に肉片が散った。


「競争よ」


 文香がマイバッグを捨てて鞄に手を伸ばすのが見えた。私はサメの群れに向かって走り出す。


「スタート!」


 いただきで会いましょう。

 決着は、そこで。



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決着は、そこで 惟風 @ifuw

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