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「なんで?なんで?なんで?」

澪はやっとそう言った。

翼と大地は顔を見合わせて吹き出している。


 翼は大学に入学してから個人指導の塾講師としてのアルバイトをしていて、そこでたまたま塾生となった中学二年生の大地と知り合った。

最初のうちは大地が澪の息子とは知らなかったようだが、その内個人的な話をするようになって南高等学校の養護教諭の澪が母親であると分かった。

翼はその時に、心から大地との出会いに感謝したらしい。

何故なら、ずっと澪との約束を果たすために頑張ってきていたからだ。


 大地には大学受験を無事に合格した時に、自分の気持ちを打ち明けた。

最初は面食らっていた大地だが、翼との信頼関係もできていたし尊敬もしていた、さらには翼の気持ちが本気であると感じたので、応援したい気持ちになった。

そこからはもう、翼と大地は運命共同体のようなもので、より親密に連絡しあうようになった。

澪の様子はずっと大地から聞いていて翼は、たとえ会っていなくてもいつも会っているかのように心が穏やかで目標に向かって真っすぐ進むこともできた。


 いつかは澪に会って正式に交際を申し込みたいという翼の気持ちを汲んで、今回大地がこのような段取りを決行したのだった。

澪が先生に何かお礼をしたいと言ったことがきっかけで話はとんとん拍子に進んだ。

もしかしたら家に呼ぶという提案は澪から却下されるかもしれないと少し不安だったのだ。

これが嬉しい結果となった。


 そんなことを澪が用意したハンバーグを食べながら、翼と大地が代わる代わる話してくれて全てが明るみになった。


 そして食事の後に、事前に用意していた花束を車のトランクから持って来た翼は

「澪さん、長い間お待たせしました。俺と付き合って下さい」と告白し花束を渡した。

澪はぽろぽろ泣きながら

「よろしくお願いします」と言って花束を受け取った。

大地が大きな拍手を送りながら温かく見守っていた。


「澪、やっとスタートラインに立てたよ」とガッツポーズをする翼。

「こんな子持ちのおばちゃんでいいの?」と澪。

「ツッチーとはもう家族みたいなもんだし」と大地。


そう、今やっとスタートしたばかりの翼と澪。

今まで待ったんだもの。

これからも時間をかけて愛をはぐくんでいこうね。

翼と澪は顔を見合わせて笑った。

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