34話 蓋世の力で世界は躍動する

「テアラさん、そこをどいてください。リガドを助けるんです」

 

「聞こえなかったかい? もう一度言うよ? 彼に何かするようだったら私が相手をする」

 

 不敵な笑みを浮かべたまま言うテアラ。そう言うテアラに対し睨みを効かせたまま、デレックは彼女に攻撃を仕掛けた。

 

 閃光の一撃がテアラに直撃する時、彼女はその攻撃を強力バリアを展開して防ぐ。

 

「凄いだろ? このバリア。リガド《彼女》から得た情報を元にしそれを更に強力にしたモノさ。私にかかれば人類なんて数日もあれば半分は殺せる」

 

「何が目的だ」

 

 デレックの攻撃を防いでいたテアラはニヤリと笑い、デレックの質問に答え始めた。

 

「目的? それはね、人と人との間で作られる信頼、友情、努力と様々な感情を私が造り出したリガドというAIに覚えさせて、リガド《彼》をこの世界の新たな王にすること。それが私の目的さ」

 

「エーアイ? そんな訳の分からない目的の為にリガドを利用するのか?」

 

 デレックの問いかけにテアラはクスクスッと笑いながらこう言う。

 

「訳の分からない目的? 違うねこれは私からすると面白くて興味深い目的なんだよ。ま、私は人間を模したただのAIだから君たちとは価値観が違うけど……さて私は別にこの場に長居するつもりは無いから、リガド《彼》と共にこの場を去ろうとするよ」

 

「行かせるか」

 

 デレックは瞬足とも言える速さでテアラに斬りかかる。しかし、テアラは再びバリアを展開し攻撃を防ぐ。

 

「クッ!」

 

「どうした? 人間の力はそんなものなのかい?」

 

「リガドを、仲間を返せ!」

 

「——ッ!?」

 

 その瞬間、テアラの展開していたバリアに徐々にヒビが入っていく。——そして、デレックの刃が強力なバリアを破壊した。

 

「ほう! 素晴らしい! これが仲間を思う力か! やはり人間は面白いじゃないか! ——……ハァ、もう君達には興味が無いんだよ魔族共」

 

 と言いテアラは背後から迫ってきていたティファ、アトラスに濁流のような真っ暗な闇を2人にぶつけた。

 

 闇が消えると2人は全身に血を流した状態で地に伏せていた。

 

「か、体が動かねぇ!」

 

「なんだこの魔法は……感じたことも見たこともない」

 

 テアラの放った魔法からダメージを受けた2人は驚いた様子だった。

 

「君達が驚くのも無理はない、これは未来……いや、この世界が創造される前にあった古代の魔法だからね。それじゃあ私とリガド《彼》はこの場を去ろうと思うよ。私達を追いたいならこの子達を倒してから来るといい」

 

 テアラは右口角を上げ、そこら中に彼女が支配下に置いているAI達を呼び出した。そして、自分とリガドの周りに闇を出す。

 

「それでは皆さん、お元気で。これからの世界に乞うご期待ください」

 

「リガド!」

 

 リガドとテアラが闇に包まれる中でデレックは、襲いかかるAI達に目もくれずにリガドに駆け寄る。

 

 ——が、闇はテアラ達をあっという間に覆い隠し、2人はこの場から消失した。

 

 リガドとテアラが消失した状態でも、呼び出されたAI達はデレック達に襲いかかる。

 

 が、そんなAI達をデレックは持ち前の速さで一掃する。

 

 そして、デレックは顔を暗くしたまま、目の前で身動きが取れない七王勇にこう言った。

 

「君達、もう二度と悪いことをしないと誓うなら、今回だけは僕は君たちを見逃すよ」

 

「「……」」

 

 デレックは持っていた剣を鞘に戻し、その場から立ち去る。彼がその場から去った後、2人の元にヴェルゼ・ナーヴァが現れる。

 

「アトラス、ティファ。無事か?」

 

「無事なわけねぇだろ」

 

「ナーヴァ、それより英精霊の方はどうなったの?」

 

「英精霊の話を聞いてたら、突然妹語りしだしたから放って来た」

 

「なにそれ……」

 

「それより、ここは一旦この場から離れるぞ」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァは言って、転移魔法を使い、彼らはこの場から消えた。

 

 ※

 

 七王勇が起こした騒動は翌日から全世界で記事となって話題になった。そして世界の人々が目に止めた記事は、各国の権力者の社交界を狙った魔族達——という記事ではない。その次の記事に載っていた「勇者デレック・ゾディアックのパーティにて、裏切り者が現れる」が多くの人の目に止まった。

 

 その裏切り者の顔、情報は全世界に伝わり、多数の国々が集まる国議会では勇者デレック・ゾディアックのパーティにいた「リガド」を国家転覆を狙った裏切り者として超重要指名手配犯として決定づけ、リガドと一緒に共謀を組んだ「テアラ」も超重要指名手配犯となった。

 

「賛成国が多数で……リガドを超重要指名手配犯と決定。彼女を捕まえた者には報酬金を出す。もし彼女を「殺した」のならばその者を「英雄」と称し報酬金と地位を約束する……か相手は女じゃん、面白ぇじゃねぇか」

 

 報酬金と地位をチラつかされた世界の冒険者達は、一攫千金と称してリガド達を捕まえる又は殺す準備を始める。

 

 次に各国の対応として、各国はリガドを捕まえる任を勇者又はその国の実力者に任せた。セルビア王国でトップの実力を持つ剣士ザルド、アウラ王国では勇者フラーム、レジスト共和王国から勇者ゼルゼ、そして、ルフラン王国とメイデン王国からルフランの勇者シリウス、メイデン王国の勇者ゼイユ。

 

 色々な国々から選出された勇者や実力者の中で大勢の目が着いたのは、パラミア王国勇者兼王国代表実力者「デレック・ゾディアック」。

 

 最後、特に多くの人の期待と声援を集めていたのは、旧ベルセルク王国から、天下無敵無双無敗の全世界が認める世界最強の勇者「アリーぜ・ラプラス」がその任に任命された。

 

「へぇ……アリーゼ《アイツ》いつの間にかそんな異名を持ってたんだ……久しぶりに外の世界の情報得たが、凄いことになってんのぉ〜。ま、儂には全く関係ないから放置放置ッと」

 

「フフフ、全世界が君に襲いかかるよ。おそらく私の予想だと人間だけじゃない、魔族や魔物達だって自分達の未来を守るために君に刃を振りかざすだろう——フッ、今は君達で取り込み中か……それじゃあ、私はこの場を去るよ。最後にこのチップをあげる。私がロックをかけていた残り全てのスキル、魔法の情報が入っているチップだ。これをどう使うかは君達次第だ、私からの切実な願いを言うとそのチップは世界の王に君臨する時に使って欲しいかな。……それじゃ、また新しい世界で再会しよう、期待してるからね」

 

 ※

 

 この肉体が創り出した心理的空間にて。

 

「そう睨みを効かせた目で俺を見るなよ、天の声」

 

「貴方が本当のリガド様だったら私は貴方を睨んだりしませんけどね」

 

 それを聞いたもう一人の私は面倒くさそうな表情で頭をかきながら、

 

「勘がいいんだな、流石というべきかもう一人の俺。良いだろう、テメェの質問にいくつか答えてやる。お前がこの肉体を使っている間、俺がコイツの心の中で得た情報を」

 

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クズで最低だった俺は、異世界で人類を救うAIロボットになりました。 沢田美 @ansaa

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