33話 霹靂

「皆さん、こちらは安全です! さぁ! 早く!」

 

 私は得意の錬金術を使い、各国のお偉いさん達を安全な場所へ避難させる。どうにか持ち堪えてください、デレック殿、リガド殿、ヘレナ殿‼︎

 

 ※

 

 私の前に現れ『殺す』と言ってきやがった女に対し、私は速攻で低級精霊を呼び出し様子を見る。

 

「その程度の精霊ごときで私を殺せるわけないでしょ」

 

 ティファはどこからか鎌を取り出すと、俊敏な動きで私の精霊達を一掃してきやがる。

 

 しかし、それに負けじと私は精霊達を召喚して迎撃する。クッソ! 全く攻撃が当たんないじゃん!

 

 瞬間的な速さで迫ってくる彼女は、徐々に私との距離を詰めてくる。

 

 デレックと並ぶと言っていいほどに速い! このままだと何も出来ずに死ぬ‼︎

 

「なわけねぇだろ!」

 

 相手が手数と速さで攻めてくんなら、こっちも同じ手で攻めてやんよ!

 

 私は精霊達を呼び出しながら、英精霊を自力で超短文詠唱を考え、詠唱を言葉にしていく。

 

 ——が、そんなことをしている間にも、出していく精霊達は倒されていき、徐々に私も相手の斬撃をまともに食らい始めてきている。

 

「私の中に眠る、英精霊よ! 今こそ精霊達の力を結集させ——ッ!?」

 

 そう詠唱していた時、ティファは鎌を大きく私に振るった。右肩から左腹にかけて焼けるような痛みが襲ってきやがる。

 

 相手はそれを勝機と見たのか、次で確実にトドメを刺そうと鎌を回転させて、刃先を私の心臓に向けて振るう。

 

「全ての精霊よ、英精霊に力を貸せ! そして顕現せよ‼︎」

 

「——ッ!」

 

 刃が私の命を狩る瞬間、自分と敵との間に神々しい光が割って入った。

 

「——アステルドなの!? アレッ!?」

 

 この前呼び出した英精霊の名を呼ぶが、神々しい光の中から現れたのは、白装束を着た数十メートルもあろう長刀を持った男だった。

 

「フーッ、ようやく俺の出番てわけか」

 

「あ、アンタ誰!?」

 

「ア? 俺か? 俺はテラ・シュバルツ。7体いる英精霊の内の一体だ。ちなみに俺はアステルド・シュバルツのお兄ちゃんだぞ!」

 

「お、お兄ちゃんッ!? アステルドにお兄ちゃんなんていたの!?」

 

「そうだぜ、超可愛いだろ? アイツいつも素っ気ない態度してるんだけどよ! 実はアイツ風邪ひくとデレデレになんだぜ〜!」

 

「ほうほう! それは超最強なギャップ萌えですなあ! ——って! そんな話してる場合じゃないし!」

 

 アステルドのお兄ちゃんと話している間にも、ティファはこちらへ距離を詰めてきていた。

 

 ——そして、奴は神速で大鎌を下から振り上げる!

 

「アステルドのお兄ちゃん! ヤバいって!」

 

 凄まじいスピードで迫り来る大鎌の刃。しかし、それをテラは人差し指で止めた。

 

「——止めただと!?」

 

「おい嬢ちゃん、今俺はコイツと楽しく話してるから邪魔せんでもらえるか?」

 

 テラは睨みを効かせた目で言うと、ティファの横っ腹目掛けて蹴りを入れ、住宅街の方へ蹴り飛ばす。

 

「あ、言っとくが俺を呼び出した代償はお前の寿命の一週間分だからよろしく。妹よりかは格安だから安心しろ」

 

 命の代償に格安なんかあんだ……。

 

「ま、ちゃんとその分は働くからよ、そこらへんは安心しろ」

 

「これが伝説とも言われた英精霊の力……あのお方を追い詰めた英精霊とは違うようですが、今そんなことは私に関係ない。どんなに強い精霊を出そうが、精霊を出している術者を倒せば英精霊は消える。全力で行く」

 

 建物が崩れて舞った土煙から現れた女は両手に大鎌を持ち、私の方へ向かってくる。アイツの狙いは当然私か……どうにか身を守る精霊を呼び出すしか——ッ!?

 

 私がいざ身代わりの精霊を呼び出そうとした時、英精霊を呼び出した代償なのか全身に激痛が走る。

 

 やっぱりこうなるか〜、でもここで死んだら元も子もない! だったら私も全力で抗ってやる‼︎

 

 私は口から血を流しながらも、身代わりの精霊を召喚し、戦闘をテラに任せた。

 

「おいおい嬢ちゃん、誰の許可を得て俺の主に触ろうとする? 俺とも遊んでくれよ」

 

 テラと相手の睨み合いと共に、斬り合いが始まる。ティファの隙のない斬撃にもテラは余裕そうな顔つきで対応している。

 

 一方の私は精霊を連れて、少し離れた建物の屋根の上で受けてしまった傷を簡易的な魔法で治療する。

 

 ※

 

 精霊術士を狙おうにも、この精霊が邪魔すぎる、だったら。

 

「お?」

 

 斬り合いの最中で私はスキルの「蜘蛛糸」を使い、英精霊の動きを拘束し遠くへ蹴り飛ばす。

 

 良し、一瞬の隙を作った、この隙を活かして直に精霊術師を叩く!

 

 私は高台へ逃げた術士を糸で拘束し、両手に持っていた大鎌を振るう。

 

 ——が、振るう直前10秒にも満たない時間で英精霊は戻ってくる。

 

「おいおい、俺を除け者にすんなよ嬢ちゃん」

 

「——図太いぞ!」

 

 精霊術士にトドメを刺そうとしたコンマ1秒の差で、英精霊は術士の拘束を解いてを逃しやがる。

 

「つれないなぁ嬢ちゃん」

 

「失せろ! 鉄鋳斬糸てっちゅうざんし!」

 

 鋼鉄をも簡単に断ち切る糸を英精霊と精霊術士に向けて最小限で放つ。

 

「その程度の攻撃が通じるわけないだろ」

 

 奴はそう言うと、長刀に光のオーラを纏わせると、私が放った糸に向けて横薙ぎを入れる。

 

「この化け物が!」

 

 英精霊の放った斬撃が私に当たる直前だった。飛んできていた斬撃が弾かれた。

 

「随分と苦戦しているようだな、ティファ」

 

「遅いですよ、ナーヴァ」

 

 助太刀に来てくれたヴェルゼ・ナーヴァに言って、私達は英精霊を倒す体勢に入った。

 

 ——瞬間だった。

 

 アトラスが向かっていった方向から、とてつもない爆発が起きた。——それと同時に伝わってきた魔王様に匹敵するほどの魔力量、それを感じとった私達は戦闘体勢をすぐさまやめた。

 

 ※

 

「テメェの要望通り本気出してやるよ、魔力解放‼︎」

 

 アトラスとかいう野郎はそう叫んで、魔力を上げて容姿が二足歩行の魔物みてぇな姿になった。

 

「最初からぶっぱなしてやるぜ!」

 

「お前を殺せばよォ、俺は晴れて自由の身だァ。かかってこいよォ三下ァ‼︎」

 

 野郎はすぐさま俺の間合いに入ってきた。そして、奴は俺を遠くへ蹴り飛ばす。俺が吹っ飛んでいる間にも野郎は空気を蹴りながら接近してくる。

 

「オラァ!」

 

 野郎は俺の顔面に拳を叩き込んで、俺を地面に向けて殴り飛ばす。

 

「所詮この程度か……少しガッカリだ。——殺す」 

 

 いざ俺が動こうとした時、俺の体に蜘蛛の糸のようなものが巻き付き体を拘束された。なんだ? この糸は……。困惑していると、上空の方から声が聞こえてきた。

 

「アトラス! 今は勇者とか国を滅ぼすとか考えるな! この化け物は世界の均衡を壊す可能性がある、今すぐこの化け物をどうにかするぞ‼︎」

 

「ティファ——おう分かったぜ!」

 

 凄まじい魔力を放出しながら、2人は襲いかかってくる。

 

「面白れぇ、かかってこい遊んでやる。スキル「クリエイト」……さぁ再び俺の手元へ戻ってこい意思ありし剣」

 

 創り出した剣を構え、俺は魔力を剣に集中させ剣先を天へ向ける。

 

「イージス・インフェルノ・ダブルス」

 

「「——何!?」」

 

 炎の最上位魔法と雷の最上位魔法を融合させた技を広範囲に渡って放った。振り落ちる落雷には、万物を焼き尽くすほどの業火を纏っている。

 

 当たればどんな猛者だろうが即死する。例えそれが魔王にも匹敵する奴でも。これで終わりだな——?

 

 簡単に終わると思っていた戦い、俺がそう思った時、そんな魔法を掻い潜って来た七王勇達は俺との距離を極力に詰めて来ていた。

 

 両手に大鎌を持った女は俺の体を糸で拘束してくる。——が、意思ありし剣は拘束してくる糸を全て断ち斬る。

 

 そして、女は持ち前の俊敏な動きで俺を攻撃してくる。しかし、そんな俊敏な動きをしてもその攻撃が俺に当たることは無い。

 

「どうした? 当ててこないなら」

 

 俺は女の体に向けて蹴りを入れる。女は俺の蹴りを腕でガードするが、俺の攻撃の威力に耐えられるはずもなく遠くへぶっ飛ぶ。

 

「オラァ!」

 

 背後を取ってきていたアトラスは俺に拳を向ける。だが俺は野郎の腕を掴み、宙へ投げ飛ばす。

 

 そして、スキル「異空間」と「クリエイト」を使い、幾千を超える意思ありし剣を異次元から呼び出す。その幾千の刃を野郎に放つ。

 

「クハハハハハハ! ——? お前は」

 

 後ろから気配を感じとった俺が振り向いた先にいたのは、勇者デレック・ゾディアックと言う奴だった。

 

 奴は怒りをむきだしにした様子で、こう言った。

 

「その体から……リガドの体から出ろ」

 

「バカがこの肉体は元々俺のもんだ」

 

 怒りを見せている勇者は落雷のような速さで、俺の間合いに入ってきていた。そして、神速とも言えるような速さで攻撃してくる。

 

「——クッ!」

 

「やっぱりそうだよなァ? この体は斬れないよなァ! デレック・ゾディアック!」

 

 俺は迫って来ていたデレックに蹴りを入れる。しかし、驚いたことに奴は俺の蹴りにも耐えこう言った。

 

「そこにいるんだよなリガド、今助ける。だから待っててくれ」

 

「無理だと言ってんだろ分かんねぇのか? ——ッ!?」

 

 デレックは俺から距離を取ると、持っていたなまくらを捨て、鞘から刀身が銀色に輝く剣を抜いた。それと同時だった、突然俺の体は動かなくり、持っていた意思ありし剣が砂のように崩れた。

 

「スキルの無効化か……!」

 

 それに天の声がアトラスの攻撃を受けたせいで、内部システムがいかれて動けない。止まっている間にも遠くへ飛ばした七王勇達やデレックの攻撃が俺に迫る。

 

「仲間を返してもらう‼︎」

 

 奴の獲物を刈り取る目が俺を睨みつける。——凄まじいスピードの刃が俺に当たる直前。

 

「とうとう完成に近づいたようだね、リガド」

 

「——貴方はッ!?」

 

 俺とデレックの間に割って入ってきたのは、不敵に笑うテアラだった。

 

「ごめんね、デレックさん。彼を攻撃するのならば私が相手だよ」

 

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