32話 強襲
突如として社交界の広間に現れた魔族。その魔族は自身の名を『七王勇のアトラス』と名乗った。
「お! お偉いさんだけかと思ったら、勇者さんも居るじゃねぇか! 面白ぇ」
「——ッ! デレックさん!」
——私達が気づいた時には、アトラスはデレックさんの腹部に向けて強烈な一撃をぶつけていた。
凄まじい衝撃波が発生する。
しかし、デレックさんは口から血を流しながらも、相手の攻撃を耐えていた。
「——! ケッ、やるじゃねぇか! 魔力を腹に集中させて俺の拳に耐えるとはなぁ! だったら次はどうだ!?」
奴はそう言って再びデレックさんに攻撃を仕掛けた。——アトラスの攻撃が彼に直撃する直前、デレックさんとアトラスの間に2体の精霊が割って入る。
「デレック! 今のうちに武器を取ってきな! コイツの相手は私とリガドがする! レイクはお偉いさん達を避難させて!」
ヘレナさんの的確な指示にデレックさんとレイクさんは動く。もちろん私も魔法の杖を自分の元へ呼び寄せ、戦闘態勢に入る。
「へぇ? ヴェルゼ・ナーヴァの野郎が言ってた精霊術士と魔法使いはテメェらか? 面白ぇじゃねぇか! 熱くなってきた!」
アトラスはそう言うと、人間のように見えた腕と足をまるで魔物のようなモノに変え、そしてその腕を膨張させ豪腕にした。
「リガド、私本当は使いたくないけど、英精霊を出すから、しばらくの間守っててくれない?!」
「——でもそれは……わかりました‼︎」
「あんがと!」
1分にも満たない間で私達が喋っていると、アトラスは強大な殺気を纏わせ、襲いかかってくる。
それを察知した私は奴の標的がヘレナさんに行かぬように、魔法を使って四方八方から迎撃する。——が、その実力は圧倒的な差だった。
驚くべきことに奴は私が放った魔法の間を掻い潜りながら、凄まじい速さで接近してくる。
速すぎる! いくら魔法を撃っても当たる気がしない!
「その程度の発射速度じゃ当たらねぇぜ?
奴の落雷のような拳が繰り出されたと同時に私は最高硬度のバリアを展開した。——瞬間、凄まじい衝撃波が発生する。
衝撃波が発生したが、私は展開したバリアのおかげで無傷だった。
「ヘヘッ、やるじゃねぇか! ——でもよ? テメェがアイツにヘイトが行かないようにヘイトを買ってるのは知ってんだぜ?」
——まさか!?
不敵な笑みを浮かべるアトラスの思惑を察した私。——だが、それに気づくのに数秒遅かった。
次の瞬間、アトラスは目にも留まらぬ速さでヘレナさんの元へ向かう。そして、アトラスは瞬間的速さでヘレナさんに向けて拳を振るう。
ダメだ‼︎ この距離だと風魔法を使っても彼女を助けられない‼︎
「——しまッ!」
拳が振るわれる直前で私は叫んだ。
「——理想現実ッ‼︎」
「オラァ! ——ッ!?」
アトラスが振るった拳の先には彼女はいなかった。
「テメェ、何した?」
「……街の方へ飛ばしました、私のスキルで」
私が言うと奴は不満そうな顔をし、
「つまんねぇ、真似しやがって」
理想現実……初めて使ってみましたが、相手が予想外の行動をしない限り、確実に想い描いた理想が叶う……しかし、不可能に近い物事を叶えようとするほどそれに代償が付く、扱いが難しいスキルですね。
「戦いに面白いもつまらないも無いでしょう」
相手は七王勇……それにアトラスという魔族はこの国の勇者を殺している……人前ではやりたくはありませんが、アレをするしか……とにかくデレックさんが来る前に決着を付けないと。
「そうかよ、んじゃあテメェを直々に叩き殺して、勇者さんを殺しに行くとするよ。本気で行くぞ?」
纏っていた殺気をより一層高めるアトラスは、魔力を高め戦闘態勢に入った。
あの力量でまだ力を残しているとは……やれることはやらないと。
お互いが一触即発の雰囲気の中で、瞬間的に私は魔法の杖に魔力を注ぎ込む。——しかし、それと同時にアトラスはとてつもないスピードで接近してくる。
「インフェルノ・フレア」
この広間を破壊し尽くすほどの巨大な火球をアトラスに飛ばす——が、奴はそれを華麗なジャンプで避け、その火球の表面を滑るように私に接近してくる。
奴が私と目と鼻の先まで来た時、
「イージス・スパーク」
天から降り注ぐ雷がアトラスを襲う——が、奴はその攻撃をも容易く躱してくる。
そして、アトラスは電光石火の如く素早いスピードで、破壊された広間の中を転々と移動する。
おそらく奴は限界にまでスピードを溜めて、限界突破した速さで私に襲いかかってくる……ならばそれを全力で叩き潰すだけ、奴の攻撃は完全に私のバリアで防げていた……ならば、バリアで攻撃を受け止め、こちらも最高火力の技を出す。
そう考えた私は自分の周りに高密度で超硬度のバリアを展開し、迎撃する体勢に入る。
——その次の刹那だった、私の思惑通りアトラスは落雷のような速さでバリアに攻撃をぶつけてくる。
「ユニバース・ゼ——ッ!」
最高火力の技を出そうとした時、完全に防げると確信していたバリアが完全に破壊されてしまった。
そして、繰り出される奴の想像以上に重い一撃。
「——ガハッ」
「うおおおおぉ!」
凄まじい一撃を食らった私は、広間の壁に強く激突する。
「……よく耐えれたな、まぁギリギリのところでテメェのスキルを使ったんだろうが……」
攻撃が当たる直前に理想現実のスキルで威力は弱めたものの、これほどまで威力が凄まじいとは……。
「おら、立てよ、戦いてのはどっちかが死なない限り終わんないだぜ?」
体が思うように動かない……体の中の内部システムがもってかれたか、だとしてもやれることは一つだけある、やりたくはありませんが。
バキバキと火花が散る体を無理やり起こして、私は立ち上がる。
「これより戦闘モードに移行する‼︎」
※
みんなに七王勇を任せ、僕は急いで王宮を走り回り、自分の部屋に戻った。そして、鞘に入った剣を手に取る。
僕がその剣を手に取った時、上の方からは爆発音が鳴り響いていた。
いざ僕が広間まで戻ろうとした時、外では国の人達の悲鳴が聞こえてきていた。どうすれば……きっと外では魔物か何かが暴れている……だがリガド達の加勢に行かなければ。
僕が悩みに悩んでいた時だった。僕の目の前にある人物が現れた。
「どうやら悩んでいるようだね、デレックさん」
そこにいたのは、リガドのお義母さんであるテアラさんだった。
「リガドは大丈夫そうだよ、君はリガドの加勢に行くより、街の人達を助けなさい。そっちの方が彼女が望んでいる事だ」
※
「これより戦闘モードに移行する‼︎」
あとは任せました皆さん。
戦闘モードに移行した私の体は、異形のAIロボットへと変形する。
「テメェ……人間じゃなかったのか」
「この姿をするのは好きではアリませんが……これも全てアナタを殺スタ——ッ!?」
その時、私の脳内に何者かの言葉が流れ込む。
『いつまでもこの肉体の主導権を握れると思うなよ? 天の声』
「あ、アナタは……ま、マサかリガド様!?」
「なにごちゃごちゃ独り言を言ってやがる、そんなことしてると死ぬぞォ!」
アトラスはそう言って、瞬間的スピードで私の目と鼻の先まで接近してくる。それと同時だった、私の意識は闇へと落ちた。
※
異形の化け物と成り果てた魔法使いに俺は、渾身の力を込めた一撃を放つ。——が、その化け物は俺の一撃を片手で受け止めやがった。
そして、その化け物は元の人間の姿に戻ると、さっきまで女の姿だったはずが、男の容姿になっていた。
「ケッケッケッ、アハハハハハハハハハハ! バカだな! 天の声! この俺がお前の心に潜んでいた事に気づかないとはな……よし、この現世に戻ることが出来た記念として、アトラスとか言ったなァ? お前を盛大に殺してやるよ」
その男は受け止めていた俺の拳を木っ端微塵に粉砕する。片手を失いながらも俺はその男から距離をとる。
な、なんだ、この殺気は……さっきの奴が放っていたモノとは段違いだ、この圧倒的魔力総量、魔王様にも匹敵する……いやそれ以上だ。
男の圧倒的な邪悪そのもののオーラに立ち尽くしていると、奴は着ていた服を引きちぎり、上裸になった。
「どうした? かかってこねぇのか? なら——ここで死ねぇ‼︎」
「——ッ!?」
気づいた時には男はとてつもないスピードで俺の間合いに入っていた。そして、奴は俺の腹に強烈な一撃を入れ、俺の体を壁に叩き付けた。
「——ゲホッ!」
「どうしたどうした? その程度かァ? 七王勇の力はよォ」
「んなわけねぇだろ、面白ぇ。こちとら本気出してやるよ」
※
リガドと一緒に戦っていたのに、気がついた時には私は外にいた。外は沢山の魔物達が人々を襲っていた。
「ま、まさか」
私がリガドの元へ向かおうとした時だった。
「温泉で会った時以来ね、精霊術士さん。悪いけど魔族の未来の為に死んでもらうわ」
「——ッ!? あ、貴方は! 温泉で会った……ティファさん!? ……なんかよく状況理解できないし……まぁでも? 一つだけ分かった、アンタは私たちの敵! 『死んでもらう』? やってみれば? 私超超最強だから!」
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