31話 宴
「ワン・ツー、ワン・ツー! こら! ここはこうするのよ!」
2ヶ月後に開かれる社交界の舞踏会に向けて、ダンスレッスンをする私達勇者パーティ。
ダンスを教える講師はとても厳しく、一つ一つの動作に対して指摘してくる。それに加え社交界でのお作法を学ぶ。
そして、ダンスのレッスンが終わった頃には、私達はクタクタになった状態で部屋に戻っていた。
「もう……もう……もうやだぁ〜!!」
ヘレナさんは部屋のベットでのたうち回りながら、文句を垂れ流す。はぁ、明日もダンスレッスン、その明後日も明明後日もダンスレッスン、休み無しか……AIの私でも疲れを感じてしまう。
朝5時からダンスレッスンをし、昼の昼食を少々食べダンスレッスン、そこから深夜の3時までダンスレッスン。そんな地獄のような一日を何回も繰り返した。
ダンスレッスンを始めて二週間がすぎた頃、少ししかない昼休みの間に私はある場所に向かった。
そうそこはセルビア女王の王室だった。
「なんの用かしら? 昼休みは少ないのだから休憩していたら?」
「お気遣いありがとうございます。ですが少し気になったことがありまして」
私がそう言うと女王は首を傾げ「気になったこと?」と言う。
「はい、私が気になった事とは、何故私達に社交界に出て欲しいと言ったのか、です。王宮の部屋を使わせてもらってる分際でこう言うのもアレですが、社交界に出す勇者ならば、この国の勇者さんの方が社交界にふさわしいのでは? と思いまして」
そう言うとセルビア女王は難しそうな顔をした。そして、女王は口を開いた。
「そうね、確かに貴方の言う通りね」
「ではなぜ?」
「……最近、セルビア王国と魔族との戦いで勇者がアトラスという七王勇に殺されたからよ。それは酷い有様だったわ。体の至る所が食いちぎられた状態だったから。今までセルビアの勇者がこの国を支えてきたから、その勇者が戦死したことを知った兵たちや国民は酷く悲しんだわ」
「七王勇が……」
「……勇者を国から選出するのは難しくてね。だから今回は親交が深いパラミア王国の勇者であるデレックさんに協力を仰いで、社交界でセルビア王国はまだ活力があることを示して、他の国やこの国の活気を高める、それが貴方たちを誘った理由」
「そういう事ですか……理由が聞けて嬉しいです。では私は失礼します」
と会釈し、王室の扉に手を掛けようとした時、
「ちょっとお待ちなさい」
「?」
「貴方、本当は何者?」
何かを察知した女王は鋭い目付きで私に言う。
「私はただの魔法使いですよ」
「いやそれは分かるわ、でも貴方の心の底にはもう一つ邪悪な魂がうごめいている。それは一体何なの?」
「それはどういう事ですか? セルビア様が持つスキルか何かで分かるのですか?」
「そうよ、私はスキルで人間の魂の形を実際に見たり、感じたりできるの。だから分かる貴方の心の底には邪悪な何かがうごめいていると、そのまま放置していると貴方は取り返しのつかない事を起こす。……少しこちらに来なさい」
セルビア女王が言われた通りに私は、女王の元へ歩み寄った。すると、セルビア女王は私の胸元に光り輝く短刀のようなものをソッと刺した。
「え?」
「安心なさい、この光の短刀に実体は無いから痛みはないわ、これは魂に干渉できる短刀、これを魂に刺せば弱まった魂を治療することが出来る。邪悪な魂の場合はその魂を完全に消すことはできないけど、抑えることは出来る」
女王がそう説明してくれると、胸元に刺さっていた光の短刀は私の体に取り込まれるように入った。
「これから貴方は休み時間は私の元へ来なさい、私がその邪悪な魂を抑える短刀を刺してあげるから」
「あ、ありがとうございます」
※
「リガドお昼どこに行ってたの? 探してもいなかったから」
私が王室から部屋に戻ってくると、ヘレナさんが心配した様子で私に駆け寄ってくる。
彼女の質問に困っていると、いつの間にかダンスレッスンの講師が私達の部屋に来ていた。
「ゴホン、もうお昼休みの時間は終わりです。早くダンスレッスンの続きをしますよ。デレックさんやレイクさんはもう練習場に行ってますから。ほら」
そう言って講師が向けた視線の先には、ヅルヅルと引きづられながら、自分の部屋に戻ろうとしているデレックさん達がいた。
「嫌だァ! 僕は嫌だァァァァァァ! ダンスなんか嫌だァァァァァァァ!」
見てはいけないものを見た気がした……。
「り、リガド、私もいづれあんな風になるのかな?(ビクビク)」
「いえあれはただの演技でしょう、気にしない方が良いですよ」
「わ、分かった!」
その後、私達はレッスン場に行き、いつもと同じようにクタクタになりながら地獄のような時間を深夜まで続けた。
そんな日々を続けていけば、日にち感覚なんてなくなり、気づいた時には社交界の2日前に差し掛かっていた。
「お疲れ様です、今日で最後のレッスンは終わりました。残りある時間を有効に活用して本番に向けて準備をしておいて下さい」
地獄のような日々が終わり、私とヘレナさんはベットで死んだように眠った。ダンスレッスンはデレックさん達とは別々だったので彼らが何をしていたかなどは分からない……なんやかんやあったけど、本番が楽しみだ。
※
そして、社交界本番の当日。各国の権力者が集った広間に、私達勇者パーティは高級なドレスやタキシード姿で赴いた。
「各国の皆様方、よく来てくれました。存分に楽しんでください」
セルビア女王がそう言い終えると、その場にいた人達は用意された食べ物に手を付け始めた。
「舞踏会まで程々時間がありますので、どうぞお食事を楽しんでいてください」
ダンスレッスンの講師が言うと、
「やたー超超食べるぞ‼︎」
「酒飲むぞ〜‼︎」
「「「やめろ」」」
「すんません」
※
「人間達は良いよな、今は国立記念日で国総出で宴をやってやがる。自分達に危機が迫ってきているのにな。おい、ティファ! まだ行っちゃダメなのか?!」
そう言いながら俺は武器の手入れや、魔力の調整をする。すると、アイツは面倒くさそうな顔をして、
「……はぁ、少しは落ち着いたらどう? 脳筋さん」
「あぁ? テメェ今なんつった? 喧嘩売ってるつもりなら買うぜ? 殺るなら殺りあおうぜ?」
「そういう頭ごなしに喧嘩を買う所が「脳筋」て言ってるの。分かんないかな?」
「テメェ!」
怒髪天にまで上った俺が奴に手を出そうとした時、ティファの野郎は視認しにくい糸のようなもので俺を拘束した。
「貴方みたいな脳みそが筋肉でできてる奴なんて、単純な行動しかしないから拘束するのが楽なの。端的かつ分かりきった行動パターン、貴方その程度でどうやって七王勇になったの? 一度自分を見つめ直したら?」
そう言ってティファの野郎は、俺の顔面に足を置く。
「テメェ、言いたい放題言いやがって。そこまで言うなら、殺ってやるよ」
「殺れば? 殺れるなら」
いざ戦いに持ち込もうとした時だった。
「喧嘩はそれくらいにしろ、ここで無駄な体力を使ってどうする? 我は無駄というのが一番嫌いだ」
そう言って現れたのは、俺達に殺気を撒き散らすヴェルゼ・ナーヴァだった。そんな奴の忠告に俺達は仕方なく喧嘩をやめた。
「次は無いから気をつけてね、脳筋さん」
ティファの野郎は言って、俺の拘束を解いた。
この女、この戦いが終わったら絶対殺す。そんなことを思っていると、近くにいたヴェルゼ・ナーヴァは不気味な笑みをし、
「決行はもう少しだ、人間達が油断した瞬間」
※
社交界が始まって、ヘレナさんやデレックさんは、テーブルに置かれた食べ物をお作法というものを忘れたように貪り食っていた。
「2人とも食事は程々しておいた方がいいですよ」
食べ物を貪り食う2人に言っていると、セルビア女王が広間の真ん中で手を叩いた。
「皆様、食後の運動も兼ねて、そろそろ舞踏会をしませんか?」
セルビア女王のその言葉を聞いた男の人達はパートナーの元へ向かい、女性を社交ダンスに誘う姿があった。
そんな光景に目を奪われていると、
「僕と踊ってくれませんか?」
そう言って私の前に立っていたのは、デレックさんだった。
「宜しくお願いします」
差し出されたデレックさんの手を取り、席から立ち上がる。
広間に奏でられる音楽と共に私とデレックさんはゆっくりながらも踊る。
「緊張してるかい?」
「えぇ、少しですが。緊張はしないのですか?」
「僕は2回目だからね、そんなにしないよ」
「そうでしたね——ッ」
私がデレックさんと話していた時、一瞬油断をしてしまいバランスを崩し倒れそうになる。
そんな時、彼はすかさず私の手を取り、上手く体勢を建て直した。
「あ、ありがとうございます。すみません油断してました」
「気にするな、僕がちゃんとエスコートしてあげるから」
※
そんなデレックとリガドが踊る所を見ていたヘレナとレイク。
「仲が良さそうで良いですね〜、2人とも」
「そうだね〜、遠くから見てて微笑ましいな〜。美味ッこの料理」
「あ、ヘレナ殿、それ私にもくださいよ」
「えぇ〜自分で取りに行ってよ」
「……そろそろ私達も踊りますか」
「だねぇ〜」
穏やかな雰囲気が広間に流れる中、無事に舞踏会は終わった。そして、この社交界の終わりが近づく。
※
踊り終わった私達は元の席に戻り、休憩する。
「いやぁー、さすがに疲れたね。終わったらお酒を沢山飲まないと」
「程々ですからね」
「分かってるよ」
デレックさんが言って、お酒を取りに行こうとした——その時だった。突如として、街の方から巨大な爆発音が聞こえた。
それを聞いた人達は外の光景が見える窓の方へ集まる。
何か嫌な予感を察知した私達は、戦闘態勢に入ろうとする。
「——マズイ、剣を部屋に置いてきた」
「何やってんの!? 早く取りに行っ——」
——デレックさんが動こうとした時、何者かが天井を突き破って現れた。
「ここが人間達のお偉いさん達がいる広間か、余裕がありそうで何よりだ人間ども」
そこに居たのは、橙色の髪をした魔族特有の角を生やした男がいた。
「俺は七王勇の1人アトラスだ」
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