30話 温泉とお母さん
セルビア女王の王室にて。
「リガドねぇ〜、聞かない名前。どこ出身なの?」
「……パラミア王国です」
「……そう、デレックさん達はこの国にはどれくらいまで滞在するの?」
「食料とか体力とか消耗してるので、だいたい3日ほど滞在させていただきます」
デレックさんが言うと、セルビア女王は素っ気ない表情でこう言った。
「じゃあ3日この王宮の部屋を貸してあげるから泊まっていきなさい」
それを聞いたレイクさんは驚きながら、
「セルビア女王殿、良いのですか? こんな私達で」
「別にいいわよ、減るもんじゃないし。私はこうやって善行をやっていって、死んだ時は天国に行きたいの」
「はぁ、あ、ありがとうございます」
こうしてセルビア女王との話を終えた私達は、女王が使っていい部屋に案内され、そこで3日過ごす事になった。
セルビア女王、ものすごく太っ腹だなぁ〜、普通ならこんなことしないのに。
そんなことを思いながら、私とヘレナさんは、レイクさんとデレックさんとは違う部屋を使うことになり、自然と二手に分かれていた。
「ねぇねぇリガド! 私達で温泉行かない?!」
「温泉? そのようなものがここにあるのですか?」
私が言うと、ヘレナさんは驚いた様子で話を続けた。
「え!? リガド、この国が温泉大国だってこと知らない系?! ここセルビア王国は温泉が超有名な国なんだよ!」
熱烈にセルビア王国について語る彼女に圧倒されるがまま、私はヘレナさんに半ば無理やり温泉がある場所へ連れていかれた。
※
そんなリガド達の会話を耳に入れた僕は、レイクと一緒に温泉に行こうと提案した。
「デレック殿、まさかあの2人のことが気になって行くわけじゃありませんよね?」
「ギクッ、な、何を言ってるんだ! 僕はただ単に温泉に行きたい気分だからで!」
「分かりましたよ、私も旅の疲れがまだ残ってますから同行しますよ」
※
「ここがセルビア王国の中で一番人気の温泉がある場所だ!」
「……ヘレナさん、ここ山ですよ」
困惑した私が言うと彼女はチッチッチと言いながら、
「温泉はこの山の山頂にあるんですよ!」
「——帰りますね」
「ちょちょちょ! 待ってよ! 一緒に行こうて言ったじゃん!」
「……はぁ、分かりました行きますよ」
「ヤッター‼︎」
ヘレナさんは嬉しそうに言うと、私の手を掴み山頂へ繋がる階段を上っていく。
「なぁレイク、僕達あの階段を上るのか?」
「まぁ頑張って行きましょう」
※
「ふぅー! 登りきった登りきった! リガドも疲れたでしょ? ——て! リガド!?」
ヘレナさんが驚くのも無理はない、何故ならば、今私は階段の上でうつ伏せでぶっ倒れているからだ。
「気にしないでください、ちょっと体力に限界が来ただけなんで……」
「いや! 超超気にするんだけどぉ!? ほら早く温泉に行くよ!」
ヘレナさんは言って私の腕を掴み、ズルズルと引きづるように私を温泉がある場所まで連れて行った。
「レ、レイク……僕もう動けない」
「ゼェゼェ、わ、私もです」
「でもあとは、温泉入って帰るだけ……頑張るぞ!」
※
温泉の更衣室に来た私とヘレナさんは、来ていた服をカゴに入れ、温泉に入る準備をしていた。
「あれ? リガドちょっとおっぱいデカくなった?」
突然ヘレナさんがそう言ってくるので、私が彼女の胸と自分の胸を比較した時、何故か悲しい気持ちになった。
なぜこうも胸の大きさに差が出てしまうのでしょうか……。
「ま、そんな気にするもんじゃないよ! 女は中身だからさ!」
「自分から話を振っといてそう言われると困ります」
「ごめんごめん、ほら早く温泉に入ろ!」
「そうですね」
温泉へと繋がる木の扉を開くと、そこには溜めてきた疲れを取っている客たちがいた。
湯船に浸かる客たちは、みんな癒されるような顔をしていた。そんな印象を抱きながらも、汚れた体を洗い流す。
そして、どこの湯船に浸かろうか考えていると、体を洗ったヘレナさんが私の隣に来て、私をある所へ誘導する。
「まず温泉に来たらここに来るでしょ! 露天風呂!」
そう言った彼女の視線の先には、星空が煌めく夜空がそこにあった。
「露天風呂……」
※
「なぁレイク、少し僕より腹筋割れてないか?」
と僕はレイクの腹筋を触りながら言うと、彼は「イヤン」と意味不明な声を出す。それを聞いた僕は思わず「は?」と言葉を漏らす。
僕の心の声を聞いたレイクはゴホンと言い、
「私も錬金術で人形を作りながら腹筋とかしてますからね。これくらいの腹筋がついてもおかしくないでしょう」
「なるほどそういう事か(適当)。よし、早速温泉に入るぞ!」
「そうですね」
※
「はー極楽極楽」
湯船に浸かって言うヘレナさん。私もその後を追うように湯船に浸かると、今まで溜まってきた疲れが飛ぶような気持ちよさを感じた。
「やっぱ温泉て最高!」
背をのばし言葉を漏らす彼女に視線を送っていると、私の隣に1人の女性が座る。
「隣、失礼するね」
「はい、どうぞ」
その女性の顔は美しいほどに整っており、肉体も完璧で絶世の美女と言っても良い程だ。
そんな人が私の隣に来たことを見たヘレナさんは私の耳元で、
「超超綺麗な人だね」
「そうですね」
そんな事を2人で話していると、その女性が私達に話しかけてきた。
「貴方たち、ここは初めて?」
「私はそうですけど」
「ウチは2回目!」
「そう、ここの温泉とても気持ちがいいのよね、私は何回も行ってるから分かる。でも、ここはいづれなくなるかもしれない」
その女性はどこか思い浸るような表情で言う。それを聞いた私達は自然とその言葉に困惑した。
そんな私達を置いて、女性は私の瞳を見つめ、
「自己紹介でもしておくわ、私はティファ・グレイツェル。この国が大好きな人間よ……もし、この国が消えることになったら、その時はごめんなさいね、多分それはお偉いさんの命令だから」
「それってどういう」
「——いづれ分かるわ、私達の
とだけ言い残すとティファという女性はどこかへ去っていった。そんな意味ありげな事を言い残した彼女、私達は終始その意味がわからなかった。
「なんか変わった人だったね……」
「ですね……」
※
「いや〜気持ちよかった〜。リガドあとは帰るだけだ——あれ?! デレックとレイクじゃん!」
彼女がそう言って、私は咄嗟にヘレナさんが向いた方向へ視線を向けた。
「ウゲッ、バレたか……」
「2人はここで何してたん?」
「いやぁ、リガド達が温泉に行くと耳に入って、僕達も行きたくなってね」
「いえ、私は別に行きたいとは言ってませんけどね」
「レイク、君は少し黙っててくれないか?」
「おほほほ、すみません、つい口が」
そんなこんながありながらも、私達は王宮に戻ろうした。が、そんな私たちの前にある人物が現れる。
「や、久しぶりだねリガド」
そこに居たのは、私という存在を作り出したAI、テアラ様だった。テアラ様は現れるなり颯爽とデレックさん達に興味津々の様子だった。
「テアラ様……!」
「いやー! 貴方たちが勇者デレックさんと、錬金術師のレイクさん、精霊術師のヘレナさんでしたか! お会いできて光栄です! リガドも良い仲間を持ったね!」
テアラ様はご機嫌な表情で言う。そんなテアラ様を見たデレックさん達はただひたすらに困惑していた。まぁ困惑するのも無理ない、だって初対面ですからね。
「なぁリガド、この人はどういう人なんだ?」
デレックさんは私にそう聞いてきた。そう聞かれたものの、私は一体どのような答えを出せばいいのだろうか……『私の母親です』と言えば絶対に変に思われるだろう、ならばなんと答えれば……。
私が彼の質問の返答に困っていると、テアラ様は私の心境を察したのか、口を開いた。
「リガドは血の繋がりがない私の娘でね」
「お、お義母さんということ!? 超超美人さんじゃん! リガドのお義母さん!」
上手くこの状況を説明してくれたテアラ様に感謝しながら、私は「まぁ」と返答した。
「ちょっとリガドと久しぶりに話がしたいから、席を外してくれないかな?」
テアラ様のお願いにデレックさん達はその場から席を外し、私はテアラ様と話をすることになった。
テアラ様は私を見るなり「実ってきているね、苦労して作ったかいがあったよ」と言った。
「それであの、テアラ様。水島様達は見つかりましたか?」
それを聞くとテアラ様は満面の笑みで、
「見つかったよ、海瀬の方は意識不明だがね、でも水島は無事だったよ」
「よ、良かった……良かった本当に……水島様は水島様は! どこ居られるのですか?!」
「世界最強の勇者を知っているかい? 世界最強の勇者アリーぜというエルフと一緒に冒険をしているよ、きっと君のことを探してだと思うけど」
「そうですか、良かった……あの、モナリザはどこにいるか分かりますか?」
私がそう聞くとテアラ様は難しい顔をする。
「正直まだ見つかってないよ、手がかりすらないからね。ま、私からすると彼女は心底どうでもいいから、探すのもめんどいからねー」
「そうですか……」
「それじゃ、私は話したいこと一通り話したから帰るね! 勇者一行たちによろしく伝えといて! ……あとめんどくさい奴らがこの国を壊そうとしているから気をつけた方が良いよ」
テアラ様は意味ありげな言葉を残し、この場から去っていった。
テアラ様との会話を終えた私は、席を外したデレックさん達の元へ向かう。
「デレックさん達、もう終わりま——パンケーキ食べてる……」
私の存在に気づいたのか、デレックさん達は口に入れたパンケーキをモグモグしながら、こちらへ手を振っていた。
「リガド〜こっちこっち!」
「ちょっとズルいですよ、私抜きで食べるなんて」
「安心して、ちゃんとリガドの分もあるから」
デレックさんはそう言って、私にパンケーキが乗った皿を渡してくれた。
それを受け取った私はデレックさん達が座っている席に座り、パンケーキを口に運ぶ。
「美味しい」
「でしょ!? でしょでしょー! これまじ超超美味しいんだよ!」
そんな会話をしながら、私達はこの日を終えた。
※
次の日。
「聞こえなかったかしら? もうじきこの国の建国記念の社交界があるの、だ、か、ら、デレック《あなた》達にその社交界に出てほしいの。もちろん、その社交界で舞踏会があるからそのレッスンもしてほしいの」
とセルビア女王は言った。それを聞いていたデレックさん達は難しそうな顔をした。
「それって絶対出なきゃダメですか?」
デレックさんの言葉にセルビア女王は、
「当たり前でしょ、前に出た時は色々と上手くいったじゃない。それに部屋だって貸してあげてるんだから」
「あのレイクさん、なぜデレックさん達は社交界に出たくないのですか?」
そう聞くとレイクさんは「うーん」と話すのを渋りながらも、何があったのかを話してくれた。
「前に出た時は好奇心で出たんですよ。でもその社交界にある舞踏会のダンスのレッスンに苦戦しましてね? そりゃあもう四六時中ダンスのことを考えなきゃいけないモノなんですよ」
「な、なるほど……でも女王のお願い、聞いた方が良いと思うのですが……」
私は言いながらセルビア女王の方へ視線を向けると、恐ろしいことにセルビア女王の顔がどんどんと不機嫌になっていた。
「デレックさん、もう面倒事はイヤなのでお願いを聞きましょう」
「リガド……分かりましたその社交界に出ます」
デレックさんがそう言うと、セルビア女王は不満そうだった顔をやめて「なら良かったわ」とだけ言い残し、応接室から出て行った。
「さて勇者様一行様、2ヶ月後にあるダンスに向けて明日から練習です、とても厳しいものになるので覚悟しておいて下さい」
※
とある飲食店にて。
「プハァ! やっぱこの味だよ! たくっ! ダンス嫌だなぁー!」
酒が入ったジョッキをドンと机に置くデレックさん。今日だけはそんなデレックさんに同情しながら、私達は出されたご飯を頬張る。
「酒を! 酒ふぉ! 持っへ来てぇー!」
数時間後。
「オボロロロロロロロロロ。す、すまない、明日の地獄の事を考えると吐き気が」
「デレックさん、多分それ酔いの吐き気ですよ」
「ボエエエエエエエエエエエ、ふ、でも安心してくれ、僕とこの超超最強の剣があれば! 敵無しだ‼︎」
「デレックさん、それ白旗ですよ」
「ゴエエエエエエエエエエエエエエエ、オロロロロロロロロ」
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