29話 喧嘩

「飲んで飲んで飲んで飲んで!」

 

 とある村の飲み屋で周りに応援される中、お酒をがぶ飲みするデレックさん。そんな光景を遠目でレイクさんとヘレナさん、私は眺めていた。

 

「もっと! もっほ! 持っへおーい!」

 

 デレックさんはベロンベロンに酔った様子で言う。はぁダメだこのアル中野郎はどうにかせねば……。

 

「デレックさん、そろそろ帰りませんか? もう2時間は飲んでますよ」

 

 私がデレックさんにそう呼びかけると、彼は泥酔した様子でこう言った。

 

「リガドも飲むかぁ? 美味しいぞ〜ここの酒〜」

 

 そんな彼を見た私は思わず、ため息をついてしまった。そして、私はデレックさんの首根っこを掴み、ヘレナさん達と共に飲み屋を後にした。

 

「おぉい! 僕はまだ飲むんだ! 早く戻っ」

 

 彼がまた減らず口を言おうとしたので、私はデレックさんの顔面と腹に数発拳を入れ、彼をノックアウトさせる。

 

「もう勝手にしてください、私は宿に戻ってるんで」

 

 私は彼にそう言い残し、宿に戻った。

 

 ※

 

 リガドにボコボコに殴られた僕が気づいた時には、目の前にはヘレナとレイクがいた。

 

「ありゃー、こりゃやっちゃったねデレック」

 

「え? やった? 僕何かやらかした?」

 

「デレック殿、貴方は先程リガド殿を怒らせてしまったんですよ」

 

「は? それ本当?」

 

 僕が言うと二人は息を合わせたように、こくりと首を振った。マジか……それはやってしまったな……。

 

「僕ちょっとリガドの所に行って謝っ——ウッ」

 

 いざ立ち上がって彼女の元へ行こうとした時、胃の底から込み上げてくる何かが僕の口から出る。

 

「一旦休憩してからにしよ? デレック」

 

 ヘレナの言う通りに僕は一度、宿に戻ってどう謝るかを考えることにした。ていうのは建前で本当は酒の酔いが取れなくてその日は寝込んでしまった。

 

 次の日の早朝、酔いが完全に取れたおかげで早く起きれた僕は、朝食の前になんて謝ろうか考えた。

 

「仕方ないここは正々堂々と謝るか」

 

 ※

 

 宿の食堂に行くために一度、宿のカウンターの前で僕達は集まった。

 

「「……」」

 

 ヘレナとレイクは昨日の件もあって黙りとしている……それもこれも僕が悪い、よし言うぞ。

 

「リガド昨日は——」

 

 僕が彼女に昨日のことを謝ろうとした時、突然宿の扉が開いた。こんなときになんだ、と思いそこへ視線を送ると、そこに居たのは昨日の飲み屋を経営している店主がいた。

 

「ちょっとデレックさん、昨日の分のお金払ってないですよね! 払ってください!」

 

「……昨日の払ってないんですか?」

 

「あ……完全に忘れてた、すみませんいくらですか?」

 

「酒飲み飲み放題の金額としてざっと金貨5枚」

 

「ご、5枚……」

 

 そう言われ咄嗟に巾着袋の中身を見るが、そこにあるのは金貨2枚だけ。ヤバイ足りない……どうするべきか……。

 

 僕がそう悩んでいると、隣にいたリガドがため息混じりに、飲み屋の店主に金貨5枚を渡した。助かった……じゃねぇ! 余計にみっともないことをしてしまったァァ、最悪だ……。

 

「まいどあり! また来てくださいね」

 

 そう言って、店の店主は店へと帰っていった。

 

「り、リガ……」

 

 とお礼を言おうとした——が、何故か僕の口は閉じてしまった。そんなことをしていると、彼女はこちらを失望したかのような目つきで食堂へ向かっていった。

 

「デレック殿……」

 

「デレック、一緒にどう謝るか考えよ!」

 

「みんな……頼む」

 

「んじゃ! まずは食堂で普通に謝る感じとか!」

 

「分かったやってみる」

 

 色々と作戦を立て、僕達はリガドがいる食堂の方へ向かった。作戦は彼女の隣に自然に座り、普通に謝る。

 

「な、なぁリガ——」

 

 僕がそう言おうとした時、僕の周りにある男たちが僕を囲む。

 

「おいお前」

 

「なんだ?」

 

 誰だコイツらまさかリガドを狙って?

 

「もしかして昨日飲み屋で酒をがぶ飲みしてた勇者ですか?!」

 

「——は?」

 

 唐突にそんなことを言われ困惑していると、男たちは昨日僕がどれだけ酒を飲み暴れていたかを喋り出す。

 

 彼らの話を聞く限りリガドが怒っても仕方のないことばかりだ……。

 

「勇者さん! ちょっとこっちで飲もうや! 旅の話を聞かせてくれや!」

 

 そう言って男たちは僕を引っ張って、別の食堂の席に連れていく。く、クソ! でも断りづらい! 仕方ないこれは失敗だ。

 

 男たちと少し飲み、リガドがいたであろう場所に戻る、が、そこに彼女の姿はなかった。

 

 それを見た僕は思わずため息をついた。

 

「次ですよ、デレック殿」

 

 と僕の肩をトンと優しく叩くレイク。

 

「そうだな」

 

 食堂で食事を終えた僕は、村の人達から頼まれていたワイバーンの討伐に赴いていた。

 

「勇者様、私たちの依頼を受けて下さりありがとうございます」

 

「……あぁ、別に構わないよ……」

 

「どうかされましたか? 勇者様」

 

 リガドの事で頭がいっぱいになっていると、村長は困惑した様子で聞いてきた。しまった、僕としたことが、しっかりと依頼をこなさなければ。

 

「いえ、なんでもありません。それでそのワイバーンがいるのはどこですか?」

 

 村長は僕のことを気にしながらも、そのワイバーンがいる場所に案内してくれた。そこは村から近く、両端が崖に挟まれた場所だった。

 

「最近ここにワイバーンが住み着きましてね、ここは村の特産品が育つ場所でもあって困ってるんですよ」

 

「分かりました、村長は離れた場所で見ててください。行くぞ、レイク村で買っておいた木剣を」

 

「はいはい」

 

 レイクにそう頼み、彼から木剣を貰う。

 

「リガド」

 

「分かってます」

 

 彼女は素っ気ない態度で言うと、ワイバーン達が逃げないように結界を張った。

 

「……」

 

 僕は彼女に気を取られながらも、崖の斜面を滑る。僕達の気配を気取ったワイバーン達は一斉に飛び始める。

 

 ヘレナは意気揚々と最高位精霊を呼び出し、一方のレイクはお得意の錬金術でワイバーン達を狩る。

 

 そして、今僕の目の前に向かってきているのは、4体のワイバーン達。

 

 今は集中しろ、デレック!

 

 滑っていた斜面を蹴りあげ、4体のワイバーンを同時に切り刻む。

 

 残りはあと10体程度か。

 

 体に返り血すら浴びてない僕は、そのまま残りのワイバーンの殲滅に取り掛かる。着々とワイバーンを殺していくと、突如としてリガドが張っていた結界が破られた。

 

「来たか……親玉が」

 

 僕たちの前に現れたのは、十数メートルはあろう巨体のワイバーンだった。その巨大なワイバーンは大きな雄叫びを上げ、僕へと襲いかかる。

 

 巨大なワイバーンは僕に向けて火球を放ってくる。——が、僕はそれを神速の如し速さで避ける。

 

 それを戦いの合図として僕は地面を勢いよく蹴り上げ、空高くジャンプする。

 

 それを見たワイバーンはその巨大な口を開ける。その次の瞬間、僕は空を蹴り、ワイバーンの口目掛けて特攻する。

 

鬩龍撃げきりゅうげき

 

 僕の放ったその一太刀はワイバーンの体を横真っ二つに切り裂いた。

 

 おかしいこんな時でもリガドの事で頭がいっぱいだ……——ッ!?

 

 僕がリガドのことで気を取られていると、残党のワイバーンが僕に向かって来ていた。

 

「——しまっ」

 

 完全に気を取られていた! この体勢だと受け身も取れない。

 

 僕は怪我を負うことを覚悟した——が、その直後、巨大な爆炎がワイバーンの体を焼き尽くした。

 

「——リガド……」

 

 僕が視線を向けた先にいたのは、彼女の姿だった。

 

 ※

 

 ワイバーンの討伐を終えた僕達が帰っていると、レイクとヘレナはリガドが僕に怒っていることを知っていて黙ったままだ。

 

 この空気、どう謝れば……仕方ないこうなったら。

 

「なぁリガド」

 

「なんですか?」

 

 驚いたことに彼女は僕の言葉に聞く耳を持ってくれていた。これを絶好のチャンスとみた僕は話を切り出す。

 

「昨日あんなに止められていたのにそれを無視して酒を飲みまくってごめん、昨日は完全に僕が悪かった」

 

「——ッ……別に昨日の事なんてもう怒ってませんよ」

 

「え?」

 

「デレックさんがお酒好きなのは知っていますし、何を言っても話が通じないのは承知しています。でも昨日のデレックさんのお酒の量は異常でしたので心配で怒っただけです」

 

「そうか、そうだったのか。分かったできるだけお酒を飲むのは抑えるよ」

 

「そう言っていただけるだけで私は安心です」

 

 ※

 

 と言った数十分後、村の依頼をこなしたお礼で祝杯があげられた。そして、

 

「酒を! 酒を持っへ来い!」

 

 あんなことを言っていたデレックさんは、完全に酒に酔った様子で言っている。

 

「……」

 

「レイク、ヤバいヤバい、リガドがめっちゃ怒ってるよ〜!」

 

「これは……デレック殿が全部悪いんで仕方ないですね」

 

 私はデレックさんの元まで歩み寄り、鋭い目つきで彼を睨みつける。私の殺気を気取ったデレックさんは私の方へ視線を向け、ビクッとした。

 

「す、すみま——うわあああああああ」

 

 ※

 

 滞在していた村を出る準備をした私達勇者パーティ。村の門をくぐろうとした時、私たちの旅路を応援するかのように後ろで村の人達が手を振っていた。

 

 人々の期待に応えるように手を振り返し、長い旅へと戻った。

 

 ※

 

 私たちは旅路の休息としてセルビア王国に訪れていた。

 

「今回の魔物たちは結構苦労したね」

 

「そうですね、あの量に苦戦を強いられましたからね」

 

「私は早く宿でゆっくりした〜い!」

 

「そうだね、リガドも大丈夫だったかい?」

 

「あぁまぁ私は後方支援だったので特に苦戦をしたりはしなかったので」

 

「そうか、それじゃ宿に行って受付でもしとくか、それで受付したらセルビア王国の女王に挨拶をしに行くよ」

 

 デレックさん達と共にまず宿に向かった私達は、そこで受付をし、王国の女王に挨拶をしに向かった。

 

「あのレイクさん、この国の女王はどのようなお方なのですか?」

 

「そうですね、この国の女王はとても清らかな人ですよ、少し変人ですが……」

 

「変人?」

 

 ※

 

 そんな話をしながらも私たち勇者パーティは、女王の王室に赴いていた。

 

「セルビア女王様、あの時以来ですね、お久しぶりです」

 

「あぁなんだ、貴方ね。……ん? デレックさん、貴方、女の魔法使いなんて連れてたかしら?」

 

「この魔法使いの子は最近仲間になった」

 

「リガドと言います」

 

 ※

 

 セルビア王国が見える絶景にて。

 

「ベルセルク王国はビヒュルデのおかげで多大なる損害を得た、今度はセルビア王国を殲滅にかかるとしようか、頼んだぞアトラス」

 

「へいへい、相変わらず人は動かすくせに自分では動かないんだなヴェルゼ・ナーヴァ」

 

「我は魔王様の直臣だ、我が動くのは緊急事態だけだ、七王勇の威厳を我に見せてみろ」

 

 ※

 

「いつまでも自分のモノでもない体を使えると思うなよリガド《天の声》」

 

 

 

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