家族をないがしろにしたナペペ【大人の昔ばなしシリーズ】

独白世人

家族をないがしろにしたナペペ

 これは、死んだ後に天国からこの世を見ることが出来ると信じられていたとある国でのお話です。


 その昔、ナペペという地位や名誉に異常なほど執着した小説家がおりました。

 ナペペは双子の兄としてこの世に生まれました。

 弟は生まれつき身体が弱く、幼い頃から寝たきりの生活を送っていました。

 両親を早くに亡くしたナペペは弟の面倒をみなければいけませんでした。

 考えたナペペは貧乏で身寄りがなく顔が醜い健康な女性を探して結婚しました。

 そして弟の世話と自分の身の周りの世話をさせたのです。

 結婚当初こそナペペは妻に対して大切にしているような素振りをみせましたが、その扱いは徐々に奴隷のようになっていきました。

 しかし、彼女は文句一つ言わずにナペペの言うことに従いました。

 自分の思惑通りになったことにナペペはしめしめとほくそ笑んだのです。


 ナペペはとても外面の良い男でした。

 ご近所はもちろんのこと、仕事関係の人間は特に大切にしました。

 全ては人望がある小説家として有名になりたいという彼の欲望からくるものでした。


 ナペペには文才がありました。面白い話を考えてそれを表現する才能があったのです。

 そしてひたむきに努力する人間でした。

 しかし彼にとって小説は地位や名誉を得るための手段に過ぎませんでした。

 有名になることだけが人生の唯一の目標だったのです。

「もっともっと有名になりたい。そして歴史に自分の名前を刻みたい」が家の中でのナペペの口癖でした。

 その言葉を聞きながら彼の妻は奴隷のように働いたのです。


 やがてナペペは年齢を重ねて多くの文学賞を受賞しました。

 文字通り地位と名誉を手に入れたのです。

 彼の生み出した文学は多くの人の感動を呼び、読んだ人を幸せにしました。


 幸せから取り残されたのは彼の家族だけでした。

 小説家として成功し大金持ちになったナペペでしたが、妻や弟の扱いは年々ひどくなるばかりだったのです。

 ナペペはまるできたないものを見るかのように寝たきりの弟と醜い妻を扱いました。家から出ることを許さず、決して贅沢をさせませんでした。

 一方、恵まれない子供などへは多額の寄付を続けました。


 ナペペが50歳を迎える頃、それは起きました。

 ナペペの自宅が何者かによって放火されたのです。

 火災によってナペペと寝たきりの弟は死んでしまいました。

 生き残ったのは醜いナペペの妻だけでした。


 2人の死後、しばらくして大手新聞社宛に手紙が届きました。

 そこには、小説家ナペペにはゴーストライターがいたと記されていました。

 そしてそのゴーストライターは、寝たきりの生活をしていたナペペの弟だったと書かれてあったのです。

 

 手紙の送り主はナペペの妻でした。

 ナペペの弟がゴーストライターだったという証拠はありませんでしたが、彼女が練り上げた作り話を世間の人は信じました。

 家が全焼していたので証拠がないのも不自然ではなかったのです。


 こうしてナペペの栄光は地に落ちてしまいまいました。ナペペが生前にした多額の寄付も偽善として扱われました。

 そして、すでに出版されていた本は全てナペペの弟の名前で再出版されたのです。

 

 放火の犯人が誰だったのかは最後までわかりませんでした。しかし、天国から自分の妻がほくそ笑んでいるのを見て、ナペペは勝手に犯人を想像したかもしれません。手に入れた地位や名誉は地に落ちましたが、財産や印税はそのまま彼の妻が相続したのです。


 もしもナペペが妻や弟を大切にしていたらどうだったのでしょう?

 ともかく彼の妻だった女は、相続した財産でその後の人生を目一杯楽しんで長生きしたそうです。

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家族をないがしろにしたナペペ【大人の昔ばなしシリーズ】 独白世人 @dokuhaku_sejin

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