第5話 情報屋 ベリル


 二人でマルタ島に上陸し、身なりを整える。

「で、行く当てはあるのか?」

ルビィがサファイアに問いかけるとピンク色の瞳を細めて彼は言った。

「…あまり頼りたくねぇが背に腹は変えられねぇからな。

エメラルドを頼るぞ。」

そう言って遺言書を持って彼は歩み始める。

 

「ちょ、情報屋ベリルに行くのは俺は反対だ!

あのオカマに賭けで負けたことを忘れてねーだろ!」

青い顔をしてサファイアを止めるがその歩みは止まらない。

「じゃあこのまま手詰まりで大人しくRuthの奴らに捕まるのを待つか?」

「確かに…ローズちゃんにお仕置きされるのはちょっといいなってそうじゃなくて!

俺ぁ、あのベリルの連中は信用ならねぇって言ってんの!

特にエメラルドの側近のモルガナイトって言うオカマのやつ!」

「確かにモルガナイトさんは俺も苦手だ。

テンション高いし、力強いしでもなこの国一の情報屋だぞ?

闇雲に町を歩き回って俺たちの顔が知れ渡ったら不利になるのは目に見えてる。」

 

サファイアの説得に推し黙るルビィ。

「じゃあ、約束しろ。

ギャンブルはぜってーしねぇって。」

「人をギャンブル狂いみたいに言うな。

エメラルドがそれを交渉材料に持ち出したらやるしかない。」

覚悟を決めて二人は地下街に降りてある隠れ家の扉の前まで行く。

ノックを7回すると扉向こうから声が聞こえる。

『合言葉は?』

「愛の成就に言葉はいらない。」

『…よし、入るが良い。』

自動扉が開き、古めかしいエレベーターが現れる。


それに二人が乗り、サファイアが地下45階のボタンを押す。

ゴウンゴウンと音を立ててエレベーターが下がっていく。

「なあ、いつ来てもここはなんか不気味じゃないか?」

「まあ…な、おやっさんと来た時は二年前だったか?

あの時はまだここまでこのエレベーターも痛んで無かったはず…。」

切り刻まれた壁や割れたボタンを見つめながらサファイアが言う。

「あのさ…。」

 

ルビィが何か言いかけた時、タイミングよくチンッとベルが鳴り着いた事を知らせる。

扉が開き、賑やかな雰囲気が二人を出迎える。

「やあやあ!ダイヤモンドの子飼いたち!

今日こそ君達の有金全て巻き上げるよ!

ポーカー?それともブラックジャック?花札?麻雀?それとも役人どもを殺した数で賭けてみる?」

透明な髪を乱反射させ明るい雰囲気で二人を出迎える男。

「ゴシェナイトさん…今日はおやっさんの最後の任務を果たすために来ました。」

「そう言うわけなんでギャンブルはしませんよ?」

「なんだーつまんなーい。」

「あらん?ルビィちゃんとサファイアちゃんじゃなーい!」

 

明るいピンク色の髪と瞳を持つガタイのいい男がクネクネと腰を揺らして歩み寄ってくる。

「…モルガナイトさん、エメラルドのやつはどこっすか?」

手早く用事を済まそうとサファイアが問いかける。

「エメラルド坊ちゃんならお休み中よん

それよりノースの旦那はどうしたのかしら?」

「…三時間前に安らかに息を引き取ったよ。

それより、Ruthに追われてるからエメラルドを叩き起こしてくれ。

俺のばあちゃんが時間を稼いでいるから。」

 

サファイアが目を伏せて言うと何かを察したゴシェナイトが部屋の奥へと消えていく。

「まあ、そうだったのね…。

ゴシェ…ってあら?全くあの子も素直じゃないわね。

坊ちゃんを起こしに行ったのかしら。

貴方たちもそこで突っ立ってないで座ったらどうかしら?

紅茶?コーヒー?それともアタシ特製ミックスジュースかしら?」


 二人は顔を見合わせて渋々ソファに腰掛ける。

「「コーヒーで。」」

「あらん、それは残念。」

テキパキとコーヒーの準備をするモルガナイト。

手回し式の古めかしいミルがゴリゴリと音を立てる。

ふわりとコーヒーのいい香りが辺り一面に立ち込める。


「んねーなんでこの二人がいるの?」

眠たい目を擦りながら鮮やかなミントグリーンの髪を揺らしながら子供が歩いてくる。

その後をゴシェナイトと白髪の若い侍が続く。

「あらあらエメラルド坊ちゃん。

この二人はノースの旦那の依頼を果たしきにたんだって。

ゴシェと翡翠ちゃんも連れてきてくれたの?

もうちょっとかかると思ったからコーヒーを入れてたの。

坊ちゃんはココアでいいかしら?」

自分専用の椅子にふんぞり返って「早くココアー。」と駄々をこねる。

「うふふ、わかったわ二人はどうする?」

「俺、コーヒー!」

「…拙者は緑茶で。」

二人が席に着くなり和やかなティータイムが始まろうとした矢先。

「ちょっと待ってくれ!お茶してる場合じゃねぇ!

おやっさんが遺言書を渡したいくらい親しい人がマルタ島にいるらしいんだ!」

「つまりそいつを僕に探せと?」

ギロリと大きな緑の瞳がサファイアを睨む。

「タダでとはいわねぇ。

カラッツカンパニーが保有してるビットコインをいくつか渡す。銘柄はそっちが選んでいい。どうだ?」

真剣な顔のサファイアにエメラルドはため息を吐く。


「そんなので僕を釣ろうとしても無駄だよ。

情報屋であるこの僕が持ち得てない銘柄があると思う?」

「…ロッソ・ホープの株は持ってないはずだ。」

ロッソホープというのは世界の不動産を牛耳るロッソ・ダイヤモンドが立ち上げた会社でその株を持つのはたった5人しかいないという。

その株を保有してると聞いてエメラルドの半開きの目が見開きになった。

 

【To be continued】

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