第10話

「ふふっ」


 こんなに余裕がない如月もはじめて見た。

 いつも人の事、からかってばっかだったのに。


「はい。あげる」


 鞄からそっと取り出した不細工なラッピング。

 割れないようにと慎重に包んだそれは、ちょっとかさばってしまっている。

 でもいいの。今日のために、慣れない調理器具と悪戦苦闘したんだから。


「やった! 食べていいか?」

「え? やだ。帰ってからにして。下手くそだもん」

「気にしないのに」


 如月は少し落ち着きを取り戻したみたい。

 わかった。如月は自分が動揺しないように、先手を打ってたんだ。

 照れ臭くて、言えない言葉を誤魔化した。

 そんなところが、かわいいとも思う。

 でも、ズルい。

 逃がしてなんてやらないんだから。


「私が嫌なの……ねえ、如月?」

「なんだよ」


「好きだよ」


 そうして私は、自分のネクタイを外した。

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落花流水 桜 花音 @ka_sakura

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