第22話

――暗闇の中。

空っぽの器が一つ置かれていた。

その中には宝石が一つ入っていた。


宝石は黒しかない世界の中で宝石の入っていた器だけが白く、明るく光っていた。その光はやがて大きくなっていき、周囲までも明るく照らし始める。

暗闇が段々と白に変わっていった。


遂には暗闇の世界が白銀に輝く世界へと真っ白く塗りつぶされた。

それでも宝石は光を放ち続けるのを辞めなかった。


器から光が溢れ出していた。

その器が黒い亀裂を作って、真っ二つに割れた。

器をなくした宝石は光り続けるが器の亀裂から流れ出た闇に宝石は呑まれていく。

そして宝石は宵の色へと姿を変え再び暗闇の世界を作った。


そこに新たな白い器が現れた。器は宵の宝石を器の中に収め明るく照らす。

そして、今新たな光が生まれようとしていた。


――ィン…………イン…………メ……イ……!


近くで大切な人の声が聞こえる。


…………う……ぁ……


静かに目を閉じていたメインの瞳が重く開いた。


――……メ…………メイ……メイン……メイン!


目を開いたその世界には私の「姉」サブの顔が映っていた。


「メイン! しっかりして!」


サブはメインを抱きかかえながら心配の面持ちで見ている。


「お……姉ちゃん」


ぼんやりとした意識の中でもメインはサブの姿を見てはっきり姉と認識していた。

その瞬間、サブの激情が臨界点に達し、目からは大粒の涙があふれていた。


「メイン……! メイン! 良かった! 本当に良かった……」


歓喜の笑みでサブの顔面はぐしゃぐしゃになっていた。か細い腕が力一杯にメインを抱きしめる。


「私、お姉ちゃんと一緒に鉱山視察してる時にポールとリングに攫われてもうお姉ちゃんと逢えないと思っていたけど……」


メインはズキズキときしむような頭痛がありながらも記憶を呼び覚ます。

蘇ってきたのは炭坑で自分がポールとリングに攫われ、この鉱石の間で捉えられていた記憶だった。

しかしこれはサブが刷り込んだ偽りの記憶。

そんなことを知る由もないメインは姉となったサブの出現に感情を爆発させた。


「お姉ちゃん! 怖かったよおお! 一人でずっと寂しかった! このまま殺されると思ってた……」

「ごめんね。私が駆けつけるのが遅かったせいで、あなたもこんなに汚れてしまった……ごめんね……」

「ううん。お姉ちゃんがいれば平気……だから……ずっとそばにいて」

「当たり前じゃない。生まれた時からずっとメインのことを考えない時なんて一度もなかった」


二人はお互いの顔を見つめ合い小さく笑いあった。そして唇の先端で口づけを交わした。


「んっ……んっ……」

「んっ……」


いつも寝る前にキスは交わしていた。何でもないことだった。

けれどメインはいつもよりも恥ずかしそうにしていた。


「お姉ちゃん……私……」

「私も同じ気持ち」


唇が離れるとサブはメインの後ろ髪を優しく撫で始めた。

メインも負けじと姉の背中を指先でなぞり始める。

徐々に距離が縮まっていき、互いの乳房が押し合い、腰の骨がコツンとぶつかる。


互いの愛情を確かめ合った二人は再び口づけををした。

一度目とは違う深く、淫らな口づけ。柔肉が重なり唾液が艶やかに唇にいろどりを加える。

舌を絡ませ、愛の交わりを存分に堪能する。

サブの慎ましくも張りのある乳房とメインの乳房の先端がゴム鞠のように形を変えながら小豆色突起がピクピクと大きくなっていく。


「あむぅ…………んぅ……んっ……んぁ……お姉ちゃん……好き」

「んっ……んっ…………うん…………好き」


心と言葉で繋がる姉妹の身体。

互いの秘所から粘り気をもった透明の蜜が分泌されているのが何よりの答えだった。


サブは後ろに回していた片腕を愛蜜の源泉へと這わせ、その細く長い指で膣口を愛撫し始める。


「あっ……お姉ちゃん……駄目だよ……私たち姉妹なのに……」


目線を逸らしてはいるものの、満更でない表情を浮かべ、姉の腕を逃がすまいと太股を内側にひねらせ、きつく締めた。

女性ならではの繊細で滑らかな愛撫がメインの官能に火をつける。子宮の奥底から爽快感のある熱さが湧き上がってきた。


「でも、メインのおまんこ……私の指ギュッ! ギュッ! って締め付けてくれるから止まんないよ……」


膣壁のヒダを一つ一つ丁寧に弾いていた指が段々と肉をめくる激しい指使いに変わっていく。

指に絡まった愛液が膣壁と混ざり合い、泡を吹きながら粘り気のある摩擦音を響かせる。


「んっ…………おまんこ捲られるのくすぐったくて……体の奥がきゅんってするよお……」


よだれを垂らし、卑猥な言葉を並べるメイン。

羞恥心が無くなったその恍惚な表情は親の帰りを心待ちにしていた雛鳥のようだった。

止まらない純情が背中を押し、お返しとばかりに秘所へ指が宛がわれた。


「んっっ!! ……上手だよぉ……もっと……もっとくちゅくちゅしてぇ……」


妹メインの献身的な愛撫に顔がとろける。

二人の秘孔が互いの指先で繋がって一本の糸となっていた。

その糸を離さないように何度も何度も息が苦しくなるほど口づけを交わした。


心と体が一つになる愉悦を肌で感じ二人の宝石が白く光った。


「お姉ちゃん……! ……身体の奥から…………あっついのが……きてる…………私……もう……」

「私も……もうイっちゃいそう……! ああっ!…………っク!」


膣壁を捲る二人の指が勢いを加速させていく。


「もう……だめ! だめだめだめぇ! ィッック! イッちゃうううううう!」

「イクイクイクイクッ…………んっ……! ううう!」


絶頂の瞬間、一人の力では立っていられないほどのエクスタシーが訪れ、互いの首に手を回し抱き合った。

二人の白く光る宝石が一つになり、果てしない明光が全身を包み込んだ。


『お姉ちゃん! お姉ちゃん起きて!』

『んぅ……サブ……ここは……』

『どこって……ベッドでしょ! お姉ちゃん昨日もずっと夜遅くまで頑張ってたでしょ。何度起こしても全然起きやしないんだもん』

『ほら、朝ごはん作ったよ。一緒に食べよう!』

『すまない……サブ……本来なら姉である私が……』

『その「お姉ちゃんだから」っていうの禁止って言ったでしょ』


 『お姉ちゃん、お父さんとお母さんと別れた最後の時覚えてるよね。私、あの時はまだ小さくて全部は分かっていなかったけど、二人で助け合いながら守っていかなくちゃいけないんだって気づいたんだよ。今までは何処に行くにしても何をするにしてもその前にはお姉ちゃんが立っていてくれた……でも、それじゃ世界はとっても狭いものになっちゃうし、自分で一歩を踏み出すのもできなくなっちゃう』


『私は自分の目で世界を見たいの。良いもの、悪いもの両方経験して成長したいお父さんとお母さんが託してくれたこの国で一緒に過ごしたいんだ。それにお母さんからもらったこの宝石の力。これって多分、将来この国を守るためにある力だと思うの。お姉ちゃんが傷ついたときに私が頼りなかったらお父さんとお母さんの約束を守れないよね』


『だ・か・ら! お姉ちゃんも私のことばっか見るんじゃなくて自分のことも見るんだよ! 自分のことが見れるようになったら、私のことはもっとはっきり見えるようになるから……散々甘え倒してた私も悪いんだけどそれはこれから少しずつお返ししていくね。……だから……これからは一緒に並んで歩こう』


共に歩く


――そうか…………何も分かっていなかったんだ……


メインはサブの顔を始めてみた時、自分自身が産んだ子供だと錯覚してしまうほどに魅了されていた。


それからは我が子の様に愛で続けた。

私とサブは一心同体だと思っていた。

同じ道を歩む者だと疑わなかった。


でもそれは違う。妹には妹の人生がある。

それなのに私は手を引っ張り足を縛り付けて檻の中に閉じ込めていた。


――ああ…………なんて…………愚かなことを……


全てを知り、自らの過ちにきずいた瞬間、胸のダイアモンドがまばゆい光を放った。


「なんだ……この光は!?」


メインの身体が光に照らされ、心の奥深くに鎮座ちんざし続けていたどす黒い闇の力が飛び出してきた。


過剰な愛情が増幅して作られた闇の光。

透き通った真っ白な光は闇の光を消し去ることはせず、優しく照らした。


宵の光と明の光が混ざり合った時、燦然と輝く極光が生まれた。

重なり合った二人の身体から真なる光が顕現する。


「サブ!!」

「お姉ちゃん!!」


極光に身を包まれた身体は黄金色に発光する。


真っ白なポニーテル、黒のスカート、ブラウス―胸には本来の輝きを放つダイアモンドのペンダントが掛けられている。

見るもの全てを明るく染め上げる極光戦士の姿がそこにはあった。


「サブ…………こういうとまた怒るかもしれないが……許してくれ……悪かった……」


その一言には万感の意味が込められているのをサブは理解していた。


「ううん。お姉ちゃんと一緒にいれてすっごく幸せだよ」


サブの黒く光っていたペンダントが極光に照らされ、瘴気が消えていく。


「ぐっううああああ……!」


瘴気が消えると突然のサブの背中が石のように盛り上がり奇怪な形へと変容する。

盛り上がった部分から触手の塊がぼとぼとと落ちていった。

触手群は地面に落ち、触手同士で絡み合い、のたうち回っている。


「大丈夫かサブ!?」

「大丈夫。それにしてもこの触手は一体……」


二人が怪しく触手群を見ているとやがて黒い液体となり蒸発しながら黒い霧を作り出した。

その霧が晴れると一人の男が現れた。


「お前は…………ゲーレッツ!」

「グッ! ゲゲゲ! あと一歩のところだったと言うのに! 二人仲良く死ぬどころか強くなっちまった」


そこには元々鉱山視察のために二人と一緒に同行していたゲーレッツ大臣の姿があった。消息を絶っていた男の出現に二人は驚きを隠せなかった。


「何故お前がここにいる!」

「なんでって……あなたたちと一緒に炭坑視察してたじゃないですか。ゲゲッ! そしたら化け物が出てきて、どうしようかと考えていたところに寄生しやすそうな王女様が転がってたもんで……ついついお邪魔させてもらっただけですよゲゲゲッ!」


白を切った口調だったが奴はポールが出てくるのを知っていた。

ゲーレッツは先回りしてサブがメインの前から姿をくらます眩ます時、どさくさに紛れてサブの身体に寄生していたのだ。


「どういうことなの! 闇の力が使えるのは私たちだけなはず……!」

「ゲゲゲッ! そんなことも知らないのか七代目王女さんは! 代々対立を続けてきた我らアクマダリ王国とミネ王国の紛争時にはコイツの力は切っても切れない関係じゃないか! その様子だとパパとママからは何にも聞いていないらしいなグググッ!」


ゲーレッツは宝石の闇の力を手に入れていた。その上で二人が宝石に秘めたる力をどこまで知っているかカマをかけたのだ。


多くの犠牲をだし、妹サブに毒牙をかけていた悪党を断罪すべくメインは剣を構えた。


「お前だけは……絶対に許さない……!」


明光に輝く剣に力が集まる。


集まった光は見るもの全てを魅了する宝石の煌めきが無限の力を与える。


「ゲゲゲッ!? そいつはまずい!まっ、まて」


「笑止!! アークティ……ブレーーーーッッッッド!」


光速を超える斬撃が空間ごとゲーレッツを切り裂いた。

極光の一撃を浴びたゲーレッツは黒煙を上げながら散っていった。


剣を鞘にしまうと視界が晴れる。サブがメインの身体に無邪気に寄り添い、辺り一面を指差した。


「お姉ちゃん! 見て! 宝石が!」


極光に照らされた壁一面の宝石が色鮮やかに光り輝き、祝福のプラネタリウムを形作っていた。


――ああ…………美しい……心が奪われそうだ……



メインとサブが去ったミネ鉱山―暗闇の中で黒煙が立ち込めた。


「ゲゲゲッ! ミネ王国第七代王女。リヒト・メイン! リヒト・サブ! この借りは返すからな……ゲゲゲゲッ」


消滅していたはずの闇が暗闇に照らされ、妖しく光っていた。


長年にわたって二人を蝕んでいた闇の力に打ち勝ったメインとサブは仲良く王国へ戻った。


王国に着いた時は国全体が大パニックとなっていたが二人が無事であることが何よりの吉報だった。帰国して数日後には普段通り王女としての務めを全うしている。


そして、鉱山での事件があって以来、姉妹の関係にも変化が表れていた。


「お姉ちゃん、明日も早いでしょ。そろそろ寝よう?」

「ああ……ところで先に寝なくて平気だったのか?明日の目覚まし当番は誰だったかな?」

「んんーー! 寝坊すると思ってるんでしょー。私はお姉ちゃんの妹だよ」

「ああ、そうだったな」


姉妹の首に掛けられた宝石が灯りに照らされ眩く光った。

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極光戦士メイン ヒ目Lてんてん @m4k0t0_5656

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