喫茶 長壁姫

めいき~

提灯小僧の場合

<注意書き>


※長壁姫(おさかべひめ)ってのは日本の妖怪で姫路城に住んでたらしいよ。知らんけど。


※妖怪って諸説や解釈でも名前が変わったり姿が変わったりするから自分で調べて見ると面白い素材だと思います。



<ここから本編>



薄い、水色の風船が舞うそんな看板の喫茶店…その名は長壁姫。



今日も、着物姿で優し気にコーヒーを淹れていた。


ちりんと、小さな風鈴の音が鳴る。



「いらっしゃい、送り提灯さん」そういって微笑む儚げな顔の長壁姫を見て入って来た客は左手を軽く上げてカウンターに座った。



「送り小僧でお願いします」そういって、同じように儚げに笑う。



「最近は、LEDとか増えちゃって。蝋燭の提灯なんてどこにもないから、居場所も仕事もなくてね」



「私達妖怪は、恐怖や注意喚起や加護とか…。あとは、物語を彩るのが仕事ですものね」


そういって、長壁姫が送り小僧に微笑みながら水を出す。


「ありがとう、店長」


そういって、水が入ったグラスを力なく持ち上げる。


金魚鉢から上半身をだし、金魚の幽霊が長壁姫に対して声をかけた。



「私のおごりでいいから、カツサンド出してあげてよ」


「全く、そんなんだから」


そういいながら、鍋に油を満たしてパン粉やらを並べて作り始めた。



「提灯小僧さん、折角この娘が奢ってくれるっていうのだからちゃんと残さず食べるのよ」


そういって、調理に集中すると店内にはカツを作る音だけが聞こえてくる。



「あり……ありがっう………」


「妖怪には生きにくい世だもの、誰も信じない居場所なんてどこにもない」


金魚鉢の小さな泡が、ぽこりと上がり水面で弾ける。



「それが、時代の流れだもの。でも、どこの誰にも必要されなくても貴方はここで生きてる。死んでないなら、まだ終わりじゃないわよ。だから、美味しいモノは無理かもだけど。子供の貴方らしく、油もので元気だしなさいよってね」



「失礼ね、私のつくるカツサンドはこの店の自慢なのよ」


そういって、完成品とコーヒーを小僧の前にそっと出した。



「人間みたいに、無理矢理生かされてチューブ繋がれて我に返った時殺してくれなんて暴れてそれでも縛り付けられて生かされて。生き地獄みたいに、生かされるのも違うじゃない。今日を生きて、今日を笑うの。それが出来ない人生なんて、終わればいい。妖怪だって生きたい、人だって生きたい。でもね、私は年一で運命を告げる妖怪なのよ。決して告げた未来が外れた事がない。そんな、妖怪なの私」



そういって、カツサンドを調理した器具を片付けながら笑った。




(だから、貴方の未来がいいものになるって告げてあげる)




その言葉に、無言で泣きながらカツサンドを食べる提灯小僧。

それを、悲しい笑顔で見ている店長。



ただ無言で頭を下げて、出ていった提灯小僧の背中。

粉雪がちらつく、そんな外の窓を見た。



「妖怪の居ない世かぁ、私みたいな妖怪金魚もいつまでいられるかしらね」


「貴女は最近、展示会に呼ばれたでしょ」


「そうね、見世物だったけど。それでも、当座は生きていける」


「外した事がない…か、ママは本当に提灯小僧君の未来が良くなるっていうの?」


「私が言った事は外れないわよ…、だから良くなる」


「ただし、年一回しかこの力は使えなくて。この力使うと、店ごと一年消えちゃうのよね」


「ねぇ、金魚妖怪さん。だから、来年の冬、またお願いね。私のショボい妖力じゃ妖怪一匹の未来しか変わらないから」






そういって、姿がゆっくり透けていく。



「えぇ…、また来年。一匹も救えないよりマシじゃない、少なくとも本人が救われない延命治療なんかより余程」




そういって、粉雪がちらつく細い月の夜で。



「また一年、私は孤独になっちゃうけど。あの子の未来が良くなりますように」


そういって、金魚妖怪が壁の絵に戻っていった。




<おしまい>

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