決して崩れない立ち位置

朝乃倉ジュウ

とある3人の男の話

 光に群がる虫の中の一人だと思っていた。

 だがそれは俺の勘違いだった。

 実際は太陽の隣に立ち続け、誰も気づかないほど緩やかにその身を焦がし、燃え尽きかけた男。

 身体中の火傷が癒えるのを待たず、焼かれた喉を必死に震わせて、まるで蛙のような声を上げてまた太陽の隣に立とうとする。

 見かねて日陰に引きずりこむ。意外と抵抗をするそぶりはない。

 焦点の合わない目を手で覆い隠し、浅い呼吸を繰り返す体を横にしてやる。そうすると簡単に男は意識を手放した。それ程無理をしていたのだろう。

 冷えたタオルで体を冷やしてやってると、太陽が近づいてきた。

 心配をしている、というよりも、自分のものを奪われて嫉妬しているようだった。ぽかぽかと暖かい日差しでは生ぬるい。真夏の猛暑のような、アスファルトすら焦がす勢いの日照りを俺に向けてくる。

 俺は横たわる男に日差しが届かないように上着で影を作る。男は瞳を閉じたままだ。

 太陽に向かって俺は言ってやった。

「火傷が治ったら返してやるよ」

 ほら、と上着をずらして男の腕の火傷を太陽に見せる。

 太陽は男を見て渋々諦めたようだ。俺と男から少し離れて、こちらの様子を伺う。

「またしばらくは一緒にいてやるよ」

 男は、火傷が治ったら自分から太陽に向かって歩くのはわかっている。だから、今、今だけは、俺の側で休ませてやる。

 いっそ、此処にずっといれば良いと思いつつ。

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決して崩れない立ち位置 朝乃倉ジュウ @mmmonbu

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