第8話勝利の行方は


日本……

『ギエェェ~!』




アメリカ……

『ギャアア!』




ドイツ……

『ヒィィィッ!』




中国……

『アイヤ~!』






世界中でこの番組を観ていたほぼ半数のベタ星人が、爆笑による呼吸困難で卒倒してしまった。


この知らせは、UFOの中で待機していた総統の耳にも入り、そのあまりの犠牲の多さの為ベタ星人は地球侵略を断念せざるを得なかった。


運よく無事だったベタ星人は、卒倒した仲間を抱えて直ちに最寄りのUFOへと戻り、UFOは空のかなたへと消えて行った。


こうして、地球を未曽有の危機に陥らせた悪夢のような出来事は、ようやく終焉を迎えた。



☆☆☆




「そんなアホなっ!

いい加減にしなさい!……いや、違うな……そんなアホなっ!……」


「ジョン、もう終わったから……君の出番は無いよ……」


ツッコミの手の角度に納得がいかず何度も反復練習をしているジョンに、シチローが呆れたように話し掛ける。


今回大活躍だった“新宿二丁目”のママ達は、先程のショーの時に『店の名前を出すのを忘れていた』と言って、もう一回出演させろとプロデューサーに直談判している。


「冗談じゃない! 二度と出演なんかさせるかっ!」


「ねぇ~、ところで私達の“月9”はどうなるの?」


「知るかっ! そんなもん!」


プロデューサーにきっぱりとそう言われ、落ち込む子豚とひろきだった。





世界中でベタ星人の『繭』に包まれてしまった人々は、死んではいなかった。


ベタ星人が去った後にその繭は、次々と切り開かれ中に閉じ込められた人達は無事に救出されたのだ。


それから3日程が経ち、ベタ星人が撤退した原因を詳しく探る為に、アメリカから

NASAの局長と政府の高官がジョンに会いに来日して来た。


ジョンは、今回ベタ星人の撃退のきっかけとなったのは、ベタ星人が地球上陸時に着けていたあのダースベーダーのマスクである事……


そして、今回の作戦の成功には、日本人の友人達と新宿に暮らす善良な区民の多大なる協力が不可欠だった事を政府の高官達に説明した。


「シチロー……今回、スターウォーズの映像を映画会社に無断で放送した件だが……アメリカ政府が映画会社に不問とする様に取り持ってくれるそうだ」


さすがはジョン。チャリパイのなりふり構わない行動へのフォローもしっかりしている。


「じゃあ~ジョン、ハリウッド映画で私達を主役で使ってくれる様にお願いして……」


「それは、だと思う!」


ジョンにきっぱりとそう言われ、またも落ち込む子豚とひろきであった。



新宿の街は、またいつもの活気を取り戻していた。


ジョンが、穏やかに晴れた空を仰ぎながら、付け足す様に言った。


「そういえば、これはNASAの局長に聞いた話なんだが……

ベタ星も、もともとはこの地球の様に空気の澄んだ星だったそうだ。

しかし、科学の急速な発展と共に何千年に渡って大気の汚染が進み、ベタ星人もその環境に対応した肺組織を持つ体になってしまった。つまり……『きれいな環境で生きられない体』になってしまったんだそうだ……」


「汚れたモノに慣れてしまうって、悲しい事ね……」


てぃーだが寂しそうな顔をして呟いた。


「地球に住んでいるのは、人間だけでは無いからね……もしかしたら、なのかもしれないね……」


珍しく、シチローも真面目な事を語り出し、チャリパイの面々はそれぞれの思いを胸に秘めながら、沈みゆく夕日をじっと眺めていたのだった。



☆☆☆



さて……それから暫く経った、日曜のある日。


森永探偵事務所では、ある事件が起きていた。


「ちょっとシチロー! 事務所の中、何でこんなに暑いのよ!」


「それはだね、コブちゃん。地球温暖化を防止する為に、エアコンの温度を28度に設定してあるのだよ」


にこやかな顔で説明するシチローに、子豚が食ってかかる。


「そんなんじゃ全然涼しく無いわよ! MAXにしてよ! MAXに!」


ついこの間まで、環境問題について熱く語っていたというのに、もうこの有り様である。



「28度!」


「MAX!」


「28!」


「MAX!」


リモコンを奪い合って、温度をあちこちと変えまくる2人。


もうそれ程新しくも無いエアコンで、頻繁に温度を変え合うもんだから……


ピ―――――ッ



「あれ……風が出なくなっちゃったぞ……」


「ああ~っ! エアコン壊したあ~!」


ソファーに座って、冷めた顔で2人の様子を見ていたてぃーだとひろきも、エアコンが壊れたと聞いて色めき立った。


「ちょっと! いくら何でもこの猛暑でエアコン無しはないでしょ!」


「シチロー! 男なんだから、直してよ!」


てぃーだとひろきの猛抗議に、渋々シチローも直せるかどうかも判らないエアコンのパネルを外し始めた。


「電気屋でも無いのに、こんなの直せるかよ……ブツブツ……」


「シチロー、早くしてよ! 直るの待ってる間、暑くて仕方無いわ! コレじゃ『焼豚』になっちゃうわよ!」


子豚は、エアコンを壊した原因が自分達にあるというのに、すっかり被害者の様な顔をしている。


そして、30分位エアコンと格闘していただろうか……ようやくシチローは納得した様な顔でパネルを組み立てだした。


「たぶんこれで直る筈だ……みなさん、お待たせしました~」


満面の笑顔でリモコンを持つシチロー。


他の3人も、そのシチローを拍手で迎え入れた。


「さすがシチロー見直しちゃった~」


「いやあそれほどでも~」


照れ笑いを浮かべながら、皆に愛想を振りまいてから、シチローがおもむろにエアコンのスイッチを入れた。


「スイッチオン!」



 ムァァア~~~~~~~~~~~~~~~~




「なんだコリャア! 熱風が出てきた!」


「ギャ~~~~ッ! 早く止めてよ! シチロー!」


「止まらなくなっちゃったよ!」


「早くコンセント抜いて! コンセント~!」



そんな訳で……




てぃーだ、子豚、ひろきの3人は、事務所のエアコンが直るまでの間…

『事務所内での仕事全てにおけるストライキの強行』を宣言して帰って行ったのだった。


今回、ベタ星人の一件で地球環境保護の意識を心に刻み込んだチャリパイではあったものの、快適な環境というものは、一度馴染んでしまうとなかなか手放せないものである。



おしまい☆




















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チャリパイEp7~チャリパイVS宇宙人~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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