第7話ベタ星人撃退大作戦

翌日……


シチロー達は、車に乗って、とある民放のテレビ局へと向かっていた。


「公共の電波に乗せて、笑いをベタ星人に伝えようとは、なかなか良い考えだ♪」


ジョンが感心したように微笑んだ


「衛星生中継にすれば、全世界に映像を飛ばせるからね♪」


テレビと聞いて、後部座席の子豚とひろきは、先程から手鏡を持って化粧のチェックに余念がない。


「私、これがキッカケで“月9”のヒロインに抜擢されたらどうしよう~♪」


「あたしも、ブラピと共演になったらどうしよう~♪」


それを聞いたてぃーだが、皮肉たっぷりに呟いた。


「月9って、コメディだったかしら……?」



『チャリパイとジョンが演じるギャグの数々を、テレビ局の電波に乗せて全世界に放映する』


これが、昨日シチローが考えついた作戦だ。


地球侵略真っ最中のベタ星人が、果たしてテレビなんか観るのだろうかという疑問は残るが、それに対しても一応対策はうってある。


ベタ星人の間では、スターウォーズが大変な人気であるという情報をもとに、シチロー達がテレビ出演する予定の時間帯に『スターウォーズ大特集』を放送すると、事前にネット等を通じて派手に宣伝しまくったのである。


勿論、これはベタ星人を誘う為の嘘の情報である。最初はそれらしく導入ビデオを流し、さあ、いよいよクライマックスという所ですかさず渾身のギャグを連発させる。


先日シチロー達が観た、『宇宙人解剖ビデオ』のインチキ番組からヒントを得た手法だ。


「見てろよ♪ベタ星人、思いっきり笑わせてやるからな♪」




やがて、シチロー達の車はテレビ局の建物の前へとたどり着いた。


「さあ、着いたぞ♪みんな張り切って行こうな♪」


シチローのその呼び掛けに、皆、拳を高々と挙げてテンションを上げる。


「しかし、シチロー……この非常時に、よくテレビ局とアポイントが穫れたな?」










「え…?アポなんて穫って無いよ……勝手に出るんだ」


「・・・・・・・・」


だからシチローの立てる作戦は、計画通りに進まないと言ったのに……



☆☆☆



「なんてムチャクチャな作戦なんだ!」


「シチロー!それじゃ、スタジオに入る事だって出来ないじゃない!」


ジョンやてぃーだが怒るのも当然である。

テレビ局の入口には、年季の入った守衛がいて、そこへ来る人間を鋭い目でチェックしているのだ。


通行証を持たないシチロー達をすんなり通してくれる筈が無い。


テレビ出演を、皆とは違った意味で強く切望していた子豚が、シチローに詰め寄った。


「シチロー!私の『月9』どうしてくれるのよ!」


「月9って……

ま…まあ、なんとかなるよ♪あんなのは、オドオドしてるから守衛に呼び止められるんだ。堂々と前を通れば通行証なんて要らないさ♪」


「【顔パス】って事?」


「そうそう。関係者だから、通るのは当たり前みたいな顔してりゃあ大丈夫だよ」


そう言って余裕の表情を見せるシチローだが、果たしてそう上手くいくだろうか。


☆☆☆



板倉茂蔵(いたくら しげぞう)五十五歳


中卒で工事現場の仕事を30年、現場監督にまで登りつめたが、45歳の冬、腰痛を患って退職。その後知り合いの紹介で、このテレビ局の守衛を始めて10年目の夏を迎える。


「あれが守衛さんね……」


シチロー達は、守衛所から少し離れた位置から、板倉の様子を観察していた。


板倉は、通行するテレビ局の職員やタレント、あるいは業者のすべてに愛想よく挨拶をしていた。


「ああ~どうも♪ご苦労様です♪」


注意深く見ていると、すべての人間に通行証の提示を要請している訳では無いように見える。


「ほら見ろ!全員に通行証を見せろと言ってる訳じゃないぞ。業界関係なんて、結構いい加減なもんなんだ」


シチローは、得意そうに板倉の方を指差し、自分の正当性を主張した。


「オイラが最初に行くから、みんな後に続くんだよ♪」


業界人らしくブランド物のサングラスをかけて、シチローは守衛所の方へと歩いて行った。


☆☆☆



「やあ♪守衛さん、今日も暑いね~♪」


大胆にも、自ら板倉に向かって話し掛けるシチロー……これも板倉の警戒心をそらす為の作戦であろう。


「ゆうべも六本木で遅くまで飲んでたもんだから、目の周りがむくんでるよ……メイクさんに顔作って貰わないと♪」


そんな独り言を、板倉に聞こえるように呟きながら、自分が“顔パス”の人間である事をさりげなく主張する。


守衛の板倉は、笑顔を崩す事なくシチローの言葉を聞き流していた。


(楽勝~♪)


心の中でガッツポーズを構え、シチローが板倉の前を悠々と通り過ぎようとした、その時である。


「…あれ……?」


シチローの体が、まるで金縛りにでもあったように、一歩も前に進まなくなってしまったのである。


体の後ろに、巨大なダンベルでもくくりつけられている様だ。


(どうして……?)


シチローは、不思議に思って後ろを振り返った。


そこには……


「通行証……」


先程のにこやかな笑顔とはうって変わって、まるで“ゴルゴ13”のように冷たい表情をした板倉が、シチローの襟の後ろをしっかりと掴んでいた。


「えっ…?」


「通行証見せなさい!」


「いやあ~♪通行証忘れてしまって♪

でもオイラ、これからこのスタジオで、とても大事な撮影があるんですよ」


頭を掻いて愛想笑いを浮かべながら、そんな弁解をするシチロー。


「大事な撮影って、何?」


シチローの襟の後ろを掴んだまま、表情を変えずに板倉は尋ねた。





「人類の未来を守る為の撮影です!」




  ブン!



工事現場の仕事で鍛え上げられた板倉の腕力で、シチローは5メートル先の道路に投げ飛ばされた。


「痛ぇ~っ!」


「何を言うかと思えば……戦隊〇〇レンジャーの撮影は、来週だよ!」


道路で尻餅をついているシチローのもとへ、他の4人のメンバーが集まってきた。


「何が顔パスよ、全然ダメじゃない!」


サングラスがズレ落ちたまま、腰をさするシチローに皆の批判が集中した。



☆☆☆



「ここは、私に任せなさい。こう見えてもCIAのトップエージェントだからな」


シチローの体たらくを見て、ジョンが交渉役を買って出た。CIAの権力をもってすれば、テレビ局の守衛を説き伏せる事などは、朝飯前なのかもしれない。


「そうね、ウチにはCIAのジョンがいたんだわ♪」


「ジョン~♪頑張れ~♪」


皆の期待を浴びて、ジョンはにこやかに微笑むと、CIAの身分証をひらひらと手で弄びながら守衛の板倉の方へと歩いて行った。


「また変なのが来やがった……」


板倉の目には、自分の方に近づいてくるその外国人が、とても怪しく見えたに違いない。


「おおっと、そんなに警戒する必要は無い。

私は、CIAのトップエージェント“ジョン・マンジーロ”という者だ!」


片手でCIAの身分証を板倉の目の前に突き出し、もう片方の手で煙草を取り出して、口にくわえ、半身になって火を点ける。


「分かるね……これは、国家の存亡に関わる重要なミッションなのだよ。まあ……君達の上司には、後で本国の然るべき機関から連絡がいく様に話をつけておこう……」


そう言って、板倉の横を通り抜け、歩き出そうとするジョン。




「……ん?」




ジョンのその一歩が、限りなく重かった。


「通行証……」


再び板倉が、ジョンの襟の後ろを掴んでいた。


「だから!私はだなぁ~!」


  ブン!


先程よりも更に強い力で、ジョンは道路の端へと投げ飛ばされた。


「うるせえ!

CIAだかNHKだか知らねえが、通行証が無えと通れないんだよ!

どうしてもここを通りたかったら、俺を殺してからにしやがれ~!」


そう言って腕捲りをして、自慢の筋肉をジョンに向かって見せ付ける板倉。さすが、この道十年のベテラン守衛は、一筋縄にはいかないようだ。



「なる程、そういう事か……」


ジョンは立ち上がって、スーツに付いた砂埃をはらうと、懐から銃を取り出した。


「わああ~っ!ジョン!銃なんて出すなよ!」


後ろで見ていたシチローが、慌ててジョンにしがみついた。


「だってアイツ!通りたかったら自分を殺せって言ったぞ?」


「そういう日本語があるんだよ!……つまり、何があってもここは通らせないって意味だよ!」


それを聞いて、ジョンは納得したように銃を懐にしまった。


「日本語はムズカシイんだな……」


命を賭けた板倉による鉄壁の守衛所……どうやら、ここを通って中へ入るのは不可能なようである。


シチローは、ため息をつきながら言った。


「仕方ない……ここは、“作戦B”に変更だ」


作戦Bとは一体……?


☆☆☆



「…ハア…ハア……」


「作戦Bって言うから……どんな作戦かと思ったら……」


「…ヒィ……重いよ……」


「……シチロー……」















「壁よじ登るのが作戦Bかよっ!!」


テレビ局のビルの壁にロープを掛けてよじ登っていく、シチロー達……


先頭を行くシチローの下から、ジョンが不思議そうな顔で問いかける。


「ところでシチロー……


この『ねずみ小僧じろきち』の格好は、何か意味があるのか?」


「いやあ♪何事も、形から入らないとね♪」


最後尾のてぃーだが、ため息混じりに呟いた。


「アタシ達……とっても目立ってるんですけど……」



☆☆☆



「この辺りでいいだろう……」


そう言ってシチローは、腰に着けた工具入れの中からハンマーを取り出し、おもむろにビルの窓ガラスを叩いて割った。


ガシャーン!


その部屋でメイクをしていた出演者とスタッフ達は、目をむいて驚いていた!


それもそのはず……

ビルの10階の窓ガラスを割って、5人の“ねずみ小僧じろきち”が次々と侵入して来たのだから。


「キャアア~!」


スタッフの一人が、叫び声を上げて出口の方へと走り寄った。


スタッ!


そのスタッフの頬の横をすり抜けて、ジョンの投げたナイフが出口のドアに突き刺さった。


「手荒なマネはしたくない……大人しくしていて貰おう!」


「なんか、あたし達まるで悪い人みたいだね……コブちゃん……」


「いいえ!違うのよ、ひろき!これもすべて、私達が“月9”に出る為に仕方の無い事なのよ!」


「それも、全然違うから!コブちゃん……」


シチローが、子豚の言う事をキッパリと否定した。



ジョンが投げたナイフに恐れをなしたのか、今のところスタッフ達は大人しく静かにしている


「これからどうする?シチロー……この人数でスタジオを占拠するのは、ちょっとキビシイんじゃないのか?」


そんなジョンの問い掛けを受けたシチローは、ニッコリと笑うとバッグから蓋の閉まった小さな瓶を取り出した。


「少し古典的な手だが、こいつを使おう♪」


シチローが手にした瓶に入っているのは、速効揮発性の睡眠促進剤……いわゆる、眠りガスである。


「これを、空調設備のエアダクトに設置して、30分ほど待つ……その間オイラ達は、この防毒マスクを着けて準備をしておく。

ティダとオイラは、機材のチェック…ジョンは“スターウォーズ特集”のVTRのセッティング…ガスがおさまったら、コブちゃんとひろきは、最初のネタの為のメイクと着替えを済ましておく事!」


「了解~♪」


いよいよ作戦開始である。シチロー達は、各人マスクを被り、空調設備へと“眠りガス”の設置に向かった


一方、世界各地へと侵略の足を伸ばしているベタ星人はというと……



「おい!知ってるか?

今日、テレビで“スターウォーズ特集”がやるらしいぞ!」


「ホントかよ!

俺、スターウォーズの大ファンなんだよ♪」


「なんでも、未公開映像や、監督の独占インタビューなんかも放送されるらしい♪」


「いやあ♪こりゃあ、観るしかないな~♪」


事前にシチローが流しておいたニセ情報は、しっかりとベタ星人に届いていた様である。


順調に地球侵略も進み、余裕綽々のベタ星人は、シチローの思惑通りこの情報に飛びついた。


ほとんどのベタ星人が侵略を一時的に休止して、テレビの設置してある場所へと、一人、また一人と集まっていた。


☆☆☆


シチロー達が仕掛けた眠りガスによって、局内では至る所でスタッフや出演者達が眠りこけていた。


シチロー達は、放送に必要な機材とスタジオを占拠し、その中に居た人間を外に運び出して、しっかりと鍵を締める。


「ティダ。機材のセッティングはどう?」


「順調よ♪衛星に繋いで全世界に送れるわ!」


「よし!放送開始の時間だ。ジョン、例のVTR流して♪」


「OK、シチロー♪」


ディレクター気取りのシチローの合図に合わせて、スターウォーズシリーズのハイライトシーンを編集した“スターウォーズ特別編”の放送が開始された。



「おお~っ♪待ってました♪」


民家に押し込み、住人をあのマユに閉じ込めて、テレビを観るベタ星人。


野外のオーロラビジョンの前に集まって、奇声を上げながら画面に釘付けになるベタ星人。


テレビの前には、必ずベタ星人が居るといっても良いほど、ほとんど全てのベタ星人がその番組を観ていた。


その編集方法も実に絶妙で、コミカルなR‐2とC‐3の掛け合いから、ヨーダのもとでの修行のシーン……迫力満点のエアバイクチェイス!そして、名台詞の数々……息をもつかせぬ展開で、ベタ星人の心をたちまち虜にしてしまった。


そして、散々気持ちを高ぶらせた後に、画面上には次の予告のテロップが流れる。


『CMの後、いよいよ

ルーカス監督がスタジオ生出演!!』


「おお~っ!ついにあの監督がスタジオにっ♪」


テレビを観ていたベタ星人は、狂喜乱舞した。


☆☆☆


この頃になると、眠りガスの効き目も薄れてきており、あちこちで目を覚ます人間がチラホラと出てきた。


「な…なんだ?この番組は?」


目を覚ました番組関係者は、すぐにこの異常事態に気付く。


今頃は、地球侵略を続ける宇宙人の情報番組を展開している筈なのに、こともあろうか今放送されているのは、敵である宇宙人が大活躍する“スターウォーズ”であった。


「マズイだろ……これ……」


慌てて番組を差し替えようと、機材のある室に走って行くスタッフ達だが、既にその室はシチロー達に占拠されており、中に入る事は不可能だった。


「なんだアイツらは!……勝手に番組変更しやがって!」


モニタールームの外で困り果てた表情のディレクターとプロデューサー……


「こんな宇宙人に対する恐怖と憎しみが渦巻いている時に、スターウォーズだなんて……視聴者から苦情が来るに決まっている!」


「どうしますプロデューサー?……最悪、電源落としますか?」


眉間に皺を寄せて、ディレクターがプロデューサーにそんな問い掛けをした。


「そうだな……」


今後、視聴者が大騒ぎをして大問題になるなら、いっそその前に強行手段にうって出ようとした、その時である……


廊下で、誰かと携帯のやり取りをしていたスタッフの1人が、大声を上げながらプロデューサーの方に駆け込んで来た。


「大変です!プロデューサーーー!」


その様子を見たプロデューサーは、悲壮な面持ちで頭を抱え込んだ。


「やっぱり苦情が来たか……」










「ウチの局、視聴率60パー超えてます!」


「マジ・・・?」


もっとも、その視聴者のほとんどはベタ星人だったのだが……



☆☆☆




第3スタジオ……


そのステージの中央には、静かにその始まりを待つ様に、レッドカーペットの上に金色の縁取りをした幕が降ろされていた。


いかにもその向こうには、超大物ゲストが控えていると言わんばかりだ。


しかし、実際にそこに控えているのは、一度はベタ星人を“爆笑死”に至らせた、あの子豚演ずるバカ殿とひろき演ずるヘンなおじさんの筈である。


「さあコブちゃん達、しっかり頼むよ~♪

なんといっても、最初の“つかみ”は大事だからな!」


そのスタジオにマイクを持って歩み寄るシチローと、モニタールームのジョン、そしてカメラのスタンバイをしていたてぃーだは、祈る様な思いでその作戦の成功を願っていた。


やがてCMが終わり、シチローが第3スタジオへ入るのと同時に、カメラの映像もスタジオ内に切り替えられた。


☆☆☆



「レディース~エン~ジェントルメン!

お待たせしました♪

この瞬間をテレビを御覧の皆様は、大変幸運な方々であると言えましょう……普段、テレビなどには全く出演する事の無い、あの大物ゲストが今夜この番組の為だけに、お越しになって下さっています!」


フォーマルなスーツに着替えたシチローは、ラスベガスショーの司会者の様に、派手なマイクパフォーマンスで視聴者の興奮を煽りたてる。


スタジオの外では……


「プロデューサーーー!視聴率80%超えましたぁぁぁ~♪」


「やったぁ~♪」


局始まって以来のこの快挙に、プロデューサーとディレクターは抱き合って喜んでいた。


お膳立てはバッチリである。あとは、バカ殿とヘンなおじさんに扮する子豚とひろきの登場を待つだけだ。


「それでは、皆様お待ちかね!この方の登場です!!」


シチローが大きく広げた手を、幕の方に向かって差し出すと同時に、スタジオ内にドラムロールが鳴り響くと共に、スポットライトがステージの中央を照らし出す。


ほとんど全てのベタ星人が釘付けになっている、そのテレビ画面上に、徐々にその姿が映し出されていく。


「おおぉぉ~~っ♪」












「何だ・・・アレ・・?」


そう呟いたのは、ベタ星人だけでは無かった。


巻き上げられた幕の後ろに立っていたのは、

“バカ殿”でも“ヘンなおじさん”でもなく……


長いまつげを、更にマスカラでこれでもかと強調し、流行の潤い系の艶やかなピンクの口紅に、エビちゃんばりの内巻きロングヘアー……そして、最新のファッションを身に纏い、腰に手を当ててスーパーモデル気取りにポーズをキメる子豚とひろきの2だった。



「ワタシ達、『月9』

狙ってます!」


「何やってんだよ……

あの2人は・・・」



☆☆☆



せっかく苦労してテレビ局に入り込み、この一瞬の為に念入りな準備をしてきたというのに……

子豚とひろきの2人のおかげで、すべてが水の泡である。


シチローは、えらい剣幕で子豚達の方へ駆け込んで行った。


「何やってんだあぁ~!オマエらは~!計画と全然違うじゃね~かっ!」


「うるさいわねっ!

こんなチャンスは、めったに無いんだからしょうがないでしょ!」


「そうだよ、シチロー!これで“月9”に出られるかもしれないんだから!」


「月9と人類の未来と、どっちが大事だと思ってるんだよ!」


シチローにそう問い詰められて、子豚とひろきはお互いに顔を見つめ合いながら、笑顔でこう答えた。


「やっぱり、月9よねぇ~♪」



ダメだコリャ・・・



最初の“つかみ”を、まんまとスベってしまったシチロー達。


モニタールームのジョンが、腕組みをしながら呟く。


「やはりここは、私とシチローの漫才で挽回するしか無いか……」


この番組でシチローと組んで漫才をやる事になっていたジョンは、先程から少しの空き時間も惜しまずに、ツッコミの練習に余念がなかった。


そのジョンが付けているヘッドホンに、シチローからの指令が届く。


『ジョン、予定変更だ!ティダに頼んでおいた

“お笑い助っ人”が到着したらしい……この後、すぐに出演してもらうから』


「えっ…そうなのか……思ったより早かったな……」


少し残念そうな顔で、そう呟くジョンであった。



やがて、スタジオの辺りがガヤガヤと賑わしくなってきた。


そこへやって来たのは、スパンコールの輝きが眩しい、やたらと派手なコスチュームのバカデカイ女性達と、鶏の様な真っ赤なモヒカン頭の男やら、全身をゴールドに塗りたくった海パン男やらの、異様な恰好をした男達の20人程のグループだった。


その様子を見たシチローが、心配そうな顔でてぃーだに尋ねる。


「ティダ……この人達はいったい……」


「え?…い、一応、芝居仲間に相談して誰か連れて来るように頼んだんだけど……どうやら、劇団のお客さんの“新宿二丁目のお店の人達とその愉快な仲間達”みたいね……」


バカデカイ女性と思っていたのは、新宿二丁目のオカマバーのママさんとその従業員らしい。

そして、異様な格好をした男達は、その芸風があまりにもキワドイ為に、特殊な場所での深夜枠でしか活躍の場が無い“アンダーグラウンド”の芸人達であった。


「さあ~♪張り切って行くわよ~みんな♪」


オカマバー『アマゾネス』のママが拳を振り上げて気合いを入れる。




オカマバーの店の面々は、ここ最近の不況のあおりを受けて暇になってきた店を、メディアによる宣伝効果で、また盛り返そうという目論みが……


また、アンダーグラウンド芸人達は、間違いなく面白いのに“テレビの良識”とか言う壁に阻まれ世間に広くこの笑いを伝えられない鬱憤を、今回の番組で晴らしてやろうという思いがあった。


「よ~し!このステージに、俺達の全てをぶつけてやるぜ!」


「あの……そんなに張り切らなくても……少し位、手を抜いてもらってもいいかなぁ~なんて……」


シチローが不安そうに、そう呟いた。


かくして、『新宿二丁目のお店の人達とその愉快な仲間達』の一世一代のショータイムが始まった!





【カクヨムガイドライン】


次の項目に抵触する恐れのある作品は、強制的に非公開設定とさせて頂く場合がありますのでご注意下さい。


*著しく暴力的、反社会的な表現が目立つ作品


*猥褻、あるいは性描写が刺激的に表現されている作品


*多くの読者に不快感を与えるような表現の含まれる作品



  ☆☆☆☆☆



そんな訳で、このショーの内容を詳細に描写する事は出来ないが……


この、下ネタ満載のショータイムは、とにかく、とことん笑えるショーであった事に間違いはなかった。


その証拠に、スタジオ内に居たほとんどの人間は、このショーを観て大爆笑していたのだ。


唯一、笑っていなかったのは……視聴率80%超えのゴールデンタイムに、こんなオゲレツ映像を流してしまった責任を取らされる事になるであろう、プロデューサーとディレクターの2人だけだった。


2人共、向こう3ヶ月間の減給は免れないであろう……





















































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