第6話弱点

「フヒヒヒッーハハーッ」


「まだ笑ってるよ……ベタ星人……」


かれこれ、一分以上は笑い続けているだろうか…その笑い方も、最初は軽く笑う程度だったのが、段々と大袈裟なものになっていった。


その異常さに目をみはりながら、ジョンは只ならね胸騒ぎをおぼえた。


「おい、このベタ星人、何だかおかしくないか?」


笑いが一向に止まらない……いや、よく見ると、笑っているのでは無い。


苦しんでいるのだ。


「ヒィィッ…く、苦しい……助けて……ヒッ!」


バタン!


やがてベタ星人は、喉の付近を手で押さえながら、床へと崩れ落ちた。


「おいっ!大丈夫か!」


すかさずジョンが、ベタ星人の手首を持ち上げ、脈の有無を確かめる。


ベタ星人は、ピクリとも動かない。ジョンは、何ともいえない複雑な表情で、シチロー達を見回して呟いた。


「死んでいる……」


一体、何が起こったというのだろうか?


「死んでるって……一体どういう事?」


訳がわからないといった表情で、てぃーだが呟いた。


「なにも、死ぬほど笑わなくても!」


二人して大口を開けて驚いている子豚とひろきを横目に見ながら、ジョンは冷静に分析を始めた。


「何か原因がある筈だ…笑っただけで死ぬ訳が無い」


そう言って、横たわっているダースベーダーのマスクを外すと、中からは目の大きな、いかにも宇宙人といった顔付きのベタ星人が姿を現した。


「これがベタ星人の素顔かぁ……」


シチローが、興味深そうに覗き込んで言った。


ベタ星人の着ていたこの戦闘服には、様々なハイテク機器が装備されていた。


マスクのゴーグルには、赤外線暗視カメラ、熱探知による生体認識装置、そして、先程説明にあった全宇宙対応翻訳機……


「このチューブの様な物は、一体何なんだろう?」


一本のチューブが、マスクの口の部分から背中のタンクらしき物へと繋がっていて、その背中のタンクには、何やら見た事のない文字の様なものが印刷されていた。



「どうやら、ベタ星の言葉の様だな……さっぱり読めない……」


眉間に皺をよせて、その不可解な文字を見つめるジョンの手へ、シチローがノートパソコンの様な機器を差し出した。


「それ、ベタ星人の装備品の中にあったんだけど、何か役に立たないかな?」


見ると、その機器のキーボードの部分には、タンクに書かれていた文字と同じ文字が刻まれている。


おそらくは、ベタ星で使われているパソコンであろう。電源を入れると、画面には見た事の無いロゴの様な物が浮かび上がった。


「よし、やってみよう」


ジョンは、タンクに書かれてあった文章をキーボードで打ち出す作業を何度も繰り返し、例の翻訳機も併用して試行錯誤のうえ、この文章の翻訳に成功した。


その文章の意味とは……





『地球環境用呼吸補助装置』

   【注意】


この地球環境用呼吸補助装置を使用中は、絶対に『爆笑』しないで下さい。

呼吸の乱れにより、空気成分調整プログラムが誤作動を引き起こし、

最悪の場合、挿入空気停止による窒息死に至る場合があります。




「・・・・・・・」



地球とベタ星では、当然大気環境が異なる。

この大気環境の違いを克服する為に、ベタ星人は地球環境用呼吸補助装置なる物を開発し、地球へと乗り込んで来たのだが、これがとんだ欠陥品だったという訳だ。


「笑えない話ね……」


「それはシャレなのか?ティダ……」


何はともあれ、ベタ星人の突然死の原因は解明された。


「これは、思いがけない収穫だ!ベタ星人の弱点を、こんな所で発見出来るとは!」


ジョンは、この事実に興奮していた。

アメリカ空軍や自衛隊をもってしても歯が立たなかったベタ星人の弱点を、ようやく見つけ出す事が出来たのである。


「早速、本国にこの情報を伝えなければ!」


ジョンは、スマホでCIAのホットラインへとこの情報を流した。


「笑うと死んじゃうなんて、なんだか可哀想な気もするね……コブちゃん」


ひろきと子豚は、なんとも申し訳無さそうに、死んだベタ星人の横にしゃがみ込んでその顔を眺めていた。


二人でベタ星人の両手を胸の前で組ませると、合掌して念仏を唱えた。

そして、ひろきがベタ星人の大きな目を閉じさせようとしたが、ベタ星人には元々瞼が無かったので、それは叶わなかった。


かわりに、子豚がポケットから愛らしい子豚の柄のハンカチを取り出し、その顔の上に掛けてやった。




「確か、このベタ星人

“百人は捕まえた”って言ってたな……すると、あのUFOからは百人位降りて来たから、一万人位があのマユの餌食になってるのか……」


「そうだなシチロー……あれから時間が経っているから、被害はもっと拡大しているかもしれない。ニューヨークも心配だ……」


ジョンがCIAに連絡を入れてから、かれこれ一時間余りが経っていた。


アメリカ政府は、ニューヨーク中のコメディアンに声を掛け、一大コメディショーを開催してベタ星人撃退を試みるという事であった。


シチロー達は、ジョンと一緒にその結果報告を待っていたのである。


「シチロー、日本は何もやらないのか?さっきどこかに電話していただろう?」


「ダメダメ!まったく相手にして貰えなかったよ……CIAと、しがない探偵じゃあ信用の度合いが違うよ……」


シチローは無謀にも、首相官邸に電話したのだった。「総理を出せ」と言ったのだが、まったく取り合って貰えなかったのだ。


「仕方ないわね……アメリカが結果を出せば、日本政府も後を追うでしょう……」


てぃーだの言う通り、日本の…いや、人類の未来は全てこのアメリカの結果に懸かっているのだ。




そうこうしているうちに、ジョンの携帯から着信を知らせる“スパイ大作戦”の着メロが軽快に鳴り響いた!


「なんてベタな着メロなの!」


「ほっといてくれ!…Hey! I'm John……」


ニューヨーク・コメディショーの成果をCIA本部から受けるジョン。


片手でジェスチャーを交えながら、携帯に向かってエキサイトしているが、一体何を話しているのだろうか。


しばらくして、ジョンが電話を切ると、早く結果を知りたい4人が集まって来た。


「どうだった、ジョン♪上手くいったかい?」


ところが、皆に質問攻めにあったジョンは、どこか浮かない顔をしていた。


「どうしたの?ジョン……コメディショーやったんでしょ?」


「ああ……それがね……」


「それが……?」




「アメリカンジョークは、ベタ星人にはまったくウケなかったらしい……」


「ええっ?一体、どんな事やったんだ?」


※アメリカンジョークの一例


『あのUFOは、かなり燃費が良いと聞いたが、一体どんなエンジンを載せているんだ?


さぁな……きっと、

メイドイン・ジャパンじゃないのか♪(笑い声)』



ダメだそりゃ・・・



「おかげで長官からは、ガセネタを流したとこっぴどく叱られるし最悪だよ」


そう言って、ジョンは元気なく肩を落とした。


「ベタ星人が笑いが原因で死んだのは事実なんだから、ガセネタってのはあんまりよね」


てぃーだが、落ち込むジョンの為にフォローを入れる。


しかし、これで

『アメリカでベタ星人を撃退→その結果を受けて日本政府でもお笑い大作戦決行』という、シチロー達の目論みは見事に崩れ去ってしまった。


アメリカ政府がジョンの情報をガセネタと判断してしまった今、このベタ星人の弱点を知る者は、シチロー達5人だけである。


「よし!こうなったら、オイラ達だけでやろう!」


暫く、黙ったまま椅子に座って何か考え事をしていたシチローが、決意に満ちた表情で立ち上がった。


「えっ?ここで漫才大会でもやるの?シチロー」


いまいち状況が飲み込めない子豚が、シチローに説明を求めた。


「こんな所で漫才やってどうするんだよ!

わかった。これから、みんなに説明するから♪」


シチローは、頭に浮かんだその作戦を得意げに他の4人に語り出した。


しかし……こんな風にシチローが立てる作戦は、今まで一度だって計画通りに進んだ試しがないのだが……













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