第37話 うっかり、選挙に勝つ方法を見つけてしまった

「リック先輩、この劣勢を跳ね返し、会長職を射止めるためにはクローディア様を味方に付けることがポイントになります」

「……不利な材料にしか思えないが……」

「ううう……リックさんも結構失礼だな」


 セオドアはリックとクローディアの不満をいっきに打ち消す提案をする。確かにクローディアの応援は普通に考えればプラスにはならない。

女子学生票はわずかであるし、そのわずかな数ですら、クローディアがいることで他へいってしまうだろう。貴族票は期待できそうだが、それは王太子がバティス陣営を支持していることでこれもさほど期待できない。


「クローディア様はもろ刃の剣です。しかし、この劣勢を挽回するにはこれくらいの破壊力のある人物を使いこなすことが必要です。そもそも、大貴族出身の令嬢であるクローディア様が平民のリック先輩を推すことのインパクトは、きっとこの大学に通う学生の心を動かすはずです」

「なるほど……。毒は使いようということか」


 リックは結構失礼なことを口にする。毒と言われたクローディアは頬を膨らませたが、セオドアの交渉がうまくいきそうなので我慢した。それにセオドアの言わんとしていることが彼女にも理解できた。


「分かった、君の提案を受け入れよう。そしてクローディア姫様、これまでの数々のご無礼をお許しください。優秀なクローディア姫様が味方になれば百人力です。どうか、この僕が当選するようお力を貸してください」


 リックはそう言って頭を下げた。失礼なことを口走ってはいたが、やはり学生たちの中で人望が厚いと言われる男だけのことはある。すぐに無礼を謝罪し、クローディアを持ち上げた。これでクローディアの機嫌は直る。


「うむ。そのようにリックさんが頭を下げてくれれば、我もやる気になる。勝った暁には我を役員にする約束、お願いする」

「勝ったらですが……。承知しました。それではセオドア君。さっそく、戦略会議をしよう。うちのスタッフを紹介するよ」


 リックは手を叩いて選挙陣営の首脳部を集める。みんなリックの友人である。彼らは手弁当で今回の選挙に加わっている。人のいい人間ばかりであるが、選挙の経験はなく、すべてリックが指示をしないといけない。


「こちらは今回の選挙参謀を引き受けてくれたセオドア君とクローディア姫様だ」


 リックはスタッフに2人を紹介する。実のところ、集まったスタッフの学生はリックが頭を下げていたので、クローディアのことを誤解していた。大貴族の権力でリック無理難題を押し付けてきたとしか思っていない。

 この誤解は選挙の終盤には解けるが、それまでの間に学校内ではクローディアの悪評として噂になってしまう。


「よろしくお願いします」

「よろしく頼むぞ」


 セオドアとクローディアは貴族でスタッフの学生たちは全て平民出身だったので、みんな頭を深々と下げる。


「それではリック先輩を当選させるための基本戦略を説明します」


 セオドアは黒板にカツカツとチョークで板書する。勝つための策はやはり、2位3位連合による勝利である。そのためにはバティス・ロジャースの1回目の得票を過半数以下に抑えることである。


「それは僕たちも考えていた。だが、ハードルは高い。まずはカール陣営と協定を結ばないといけない。その交渉はかなり難しい。2つ目はバティスの優勢は動かない。現在、その得票数は過半数を200上回っている」


 リックはそう説明した。今日、エルトリンゲン王太子がバティスを支持したことで、政経学部の票がさらに100ほど移動したと計算している。


「得票総数は約2000です。理系であるカール先輩がおよそ500は取ります。残りは1500。過半数には1000以上の票が必要ですが、現在、バティス陣営は1200を確保。我々は300を固めたに過ぎません」


 セオドアは黒板に250と記入する。これが重要な数字だ。


「バティス陣営からまず250票を切り崩します。これをそのままリック先輩にもらいます。そうするとリック先輩は550。カール先輩が500。合わせて1100とバティス先輩を上回る計算になります。そしてカール先輩を50ほど超える。これがないと2,3位連合で勝っても会長の席は取れません」


 2位3位連合の条件は多く得票を得た方が会長で、負けた方が副会長となることが取り決めとしてある。バティス陣営を過半数未満に落とし込むと同時にカール陣営を超えないといけない。

 これは現在劣勢のリック陣営には、かなりのハードルの高さである。


「セオドア君。君の作戦は分かったが、どうやって250票を切り崩す?」

「法学部は無理でしょうね。ここはバティス先輩の本丸。となると勝負の分かれ目は、政経学部と大票田の文学部です」

「……それは王太子殿下が向こうについたことで厳しいのでは……」


 エルトリンゲン王太子は政経学部に籍を置く。この学部はリックのおひざ元であるから、票が足元から割れている。リックの支持が強いのは教育学くらいである。


「いえ。ここは切り崩せます。それは後で説明することにして、まずはカール先輩との協定を結びましょう」


 セオドアはここまで話して、クローディアの方を見た。

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