第30話 うっかり、推理をしてしまった
王太子とナターシャが去り、周りにいた野次馬の学生もわらわらと解散していく。そんな中をクローディアはのろのろとバスケットを拾い、散らばった卵サンドと出汁巻き卵を中に入れる。
2つの料理とも紙に厳重に包んであり、飛び出してしまったもの以外は何とか食べれそうだ。
「姐さん、力を落とさないでください」
「俺たちがいただかせていただきます」
「美味しそうですね!」
ハンス、アラン、ボリスがそうフォローしたので、何とかクローディアは泣くのをこらえたようだ。
実際に卵サンドは美味しいし、出汁巻き卵はジューシーであった。これを王太子が食べなかったのは残念である。
「うむ、決めた」
卵サンドを一口食べたクローディアは宣言した。
「ナターシャの弁当に悪さした奴を捕まえる」
「おお!」
出汁巻き卵を咀嚼していたハンスが感嘆の声を上げる。
「それは名案です、姉さん」
「犯行時刻が想定できるので、犯人も特定できるはずです」
アランとボリスもそう追従する。犯行時間はナターシャが2時間目の授業に出ていた10時30分から12時までの間である。
多くの目があるので犯行は授業中に行われたはずだ。そうなると授業がなかった政経学部と薬学部の女子学生か、授業に出なかった女生徒となる。元々、女子学生は少ないので特定は難しくはない。
「この大学には女子学生は102人しかいない」
全入学者のわずか5%である。女子更衣室で犯行が行われたのなら、実行犯は女子学生である可能性が高い。
「よし、今から作戦会議だ。その後、授業の合間をぬって捜査だ。聞き込みをするのだ」
作戦会議が始まる。まずは聞き込み調査が基本だとクローディアは考えたようだ。犯行現場を見ていなくても、その前後で怪しい動きをしている者を見付けるのだ。
ハンスには更衣室の管理人への聞き込み。アランには更衣室付近での聞き込み。ボリスには女子学生全体に聞くようクローディアは命じた。
「さて、セオドアだが……」
クローディアはセオドアにも聞き込みをさせる気だ。先手を打ってセオドアは提案した。
「俺は学生寮の食堂へ行く」
きょとんとしてクローディアはなぜ学生寮の食堂へ行くのか尋ねた。セオドアはナターシャが持ってきたバスケットを見る。怒りに任せて地面に叩きつけたまま、中に入れられた生ごみが散乱したままである。
「これを見ろよ」
汚いので地面に落ちていた木の枝でツンツンと突っつく。ナターシャが作ってきたと思われるキッシュに、様々な生ごみが突っ込まれてぐちゃぐちゃにされている。見るからにひどい有様だ。
「バナナの皮、卵の殻、ハムの切れ端……。生ゴミだがまだ腐っていない」
「……なるほど。生ごみとしては新しいと」
クローディアはゴミの状態に目を付けたセオドアに感心した。しかしセオドアの洞察力はさらに種類に向けられていた。
「まだ腐っていない生ごみ。そしてゴミの中身は定番の朝飯の内容……。学内の食堂が開くのは10時。となると、朝早くからやっている学生寮の食堂は怪しい」
「我もテディと一緒に行く」
クローディアはセオドアについて行くことに決めた。もし学生寮の生ごみが入れられていたのなら、犯人は寮生の中にいる可能性がある。
キャンパス内に作られている学生寮へ2人して行く。食堂で聞き取りをするとやはり今朝の朝食はゆで卵とバナナ。そしてハムを焼いたものとパン。チキンのスープだと分かった。
「うむ……。しかし謎だな。調理室で出た生ごみは調理室内に置かれ、食事の後外へ出されるが、その時は鍵付きの倉庫へ運ばれる。これではゴミが調達できない」
クローディアは聞き取った内容を小さなノートにメモし、そして考えている。カギは食堂のチーフとゴミ収集をするスタッフしか持っていない。
「あ……ということはゴミ収集人が犯人?」
「そんなわけがない!」
セオドアはクローディアの思考を遮る。しかしクローディアは反論する。
「だが、ゴミ収集人に金を握らせて調達すれば問題ない。ゴミ収集人を締めあげるか?」
「どうしてそういう発想になるのだ。全然違うな」
「ではお前の意見を聞こうではないか?」
クローディアは自分の考えを否定されて不満げである。
セオドアはまだ推理の途中で、結論に至ったわけではないが、このままではクローディアが暴走する。仕方がないのでここまでの情報から推理する。
「クロア様。ナディアのバスケットに入れられていた生ごみ。もう一度、思い出して見てください。特に数に注目して……」
「あ!」
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